板垣李光人、主演映画の撮影現場で意識した“居心地”「横一列で並んでいたい」

俳優の板垣李光人が実写映画単独初主演を飾る7月3日公開の『口に関するアンケート』。背筋氏の同名ホラー小説を清水崇監督のメガホンで実写化した本作で、未知の恐怖に翻弄される主人公・翔太を熱演している。多彩な役柄で独自の存在感を放ち、俳優として充実一途の板垣に、表現者として日常で大切にしていることや、座長としての思い、初のホラー作品で得た表現の引き出しなど、パーソナルな胸の内を聞いた。

『口に関するアンケート』で実写映画単独初主演を飾る板垣李光人【写真:くさかべまき】
『口に関するアンケート』で実写映画単独初主演を飾る板垣李光人【写真:くさかべまき】

『口に関するアンケート』で挑んだ実写映画単独初主演

 俳優の板垣李光人が実写映画単独初主演を飾る7月3日公開の『口に関するアンケート』。背筋氏の同名ホラー小説を清水崇監督のメガホンで実写化した本作で、未知の恐怖に翻弄される主人公・翔太を熱演している。多彩な役柄で独自の存在感を放ち、俳優として充実一途の板垣に、表現者として日常で大切にしていることや、座長としての思い、初のホラー作品で得た表現の引き出しなど、パーソナルな胸の内を聞いた。(取材・文=磯部正和)

 近年、話題作への出演が続き目まぐるしい日々を送る板垣。端正な顔立ちが際立つ一方で、心に深い葛藤を抱えた人物や一癖あるキャラクターを託されることも少なくない。自身も複雑な内面を表現することに喜びを見いだしている。

「すべての作品に恵まれていると感謝しています。いただくお話にどこか闇を抱えている役柄が多いのは事実かもしれませんが、僕自身も泥臭い部分が好きなんです。人間らしい脆さや影があるほうが芝居をする意味を感じますし、そういう部分を表現することこそが醍醐味だと思っています。自分がどう見られているかはオファーを通じて分かりますし、自分自身が一番身近でありながら誰よりも分からないものなので、客観的に見てもらい、役として提示していただけることは純粋に面白いです」

 何色にも染まれる柔軟な表現力。その源泉には、特殊な環境に身を置きながらも手放さない平凡で穏やかな時間がある。

「役者として生きる上で一番大事なのは、普通に生活を送ることです。スーパーへ行ったり、散歩をしたり、何もしないでソファでだらだらしたりする。そうした日常の営みが心に余白を生み、芝居の土台になってくれます。夜に帰宅してゲームをする時間も大切です」

 さらに情報過多な現代において、アナログな活字文化への愛着も感性を豊かに形作っている。

「AIなどの利便性も享受しつつ、自分で本屋に足を運び、紙の書籍を探す楽しさも大事にしています。デジタルで入り口を探り、深く入り込む時は紙の本を読む。昔から古典文学や日本書紀、江戸川乱歩などを読むことも多いですね。日本に生まれ、日本語を第一言語とする身として、言葉を発信する際にも美しく使いたいと常々気をつけています」

座長としての思いを明かした【写真:くさかべまき】
座長としての思いを明かした【写真:くさかべまき】

座長を務めた現場で重んじた「横一列」の連帯感

 自身の感性を大切に育みながら臨んだ本作は、実写映画単独初主演作となる。だが、気負うことなく自然体で向き合っていた。同世代のキャストが集う中で選んだのは、先頭に立って引っ張るのではなく、共に作品を作るためのフラットな関係性だった。

「自分が前に立つと必然的に前後関係が生まれます。それよりも誰が前でも後でもなく、横一列で並んでいたいという思いを持っています。芝居の中で良いパフォーマンスをするためには、板垣李光人という人格としての居心地も大事にしたい。自分がフラットでいることで、おのずとみんなが横一列にそろう在り方が理想です。今回は同年代が多かったこともあり、周囲を巻き込みやすい環境でした」

 共演経験のあるキャストへの安心感や新たな才能との出会いも、のびのびとした演技を後押しした。

「吉川(愛)さんとは3度目の共演で、安心と信頼しかないので改めて関係性を構築する必要はありませんでした。綱(啓永)くんも受け入れ態勢が広く話しやすかったです。MOMONAさんはご自身の体を使ってお芝居されるのが初めてということで、必死に食らいつく姿に刺激をもらいましたし、面白さも持っていてすてきな方でした」

 言葉の重みを誰よりも理解しているからこそ、裏方として支えてくれるスタッフの何気ない一言も、確かな道標として心に刻む。

「言葉は人を生かしも殺しもする重いものですが、現場のスタッフさんから打ち上げなどで『こういうふうに見えていた』とうかがうと、不安が払拭され、あれでよかったんだと思えます。今回も撮影チーフの大内泰さんが、僕の芝居に対し『しびれたよ』と言ってくださったんです。直接お声がけいただけたことが本当にうれしかったですね。毎作品、出会う方々の言葉が次へつながっている感覚があります」

 本作は書籍ならではの恐怖をいかに映像として昇華させるかが鍵となる。オファーを受け原作を手にした際、短編をどう映画の尺に広げるのかに関心を抱いたという。完成した脚本には原作者のアイデアを膨らませたオリジナル要素が組み込まれていた。

「オリジナル要素が加わることで原作ファンの方は少し気になるかもしれませんが、元々背筋さんの頭の中にあったアイデアを現在の作品と混ぜて膨らませているため、安心していただけるポイントになっています。キャラクターが増えることで観客の視点が定まり、一緒に証言を聞いて進む構成が映画として面白く感じました。映像になった時にこの面白さがしっかり伝わればいいなと思えました」

ホラー作品にも初挑戦となった【写真:くさかべまき】
ホラー作品にも初挑戦となった【写真:くさかべまき】

初のホラー作品で開拓した視覚的な「見せる芝居」

 ジャンルを問わず映画を愛し、恐怖表現に独自の視座を持つ。本作で描かれる恐怖の本質についても、超常的な現象だけに留まらないと分析する。

「内容が面白ければ純粋に楽しみますね。アリ・アスター監督の作品はすべて好きですし、一番怖かったのは台湾映画の『呪詛』です。今回の撮影では、モキュメンタリー調の肝試しのシーンで、映画と観客の境界が曖昧になる不穏さがじわじわと続き、音の不快感も含めて怖いと感じました。背筋さんの作品は、ホラーでありながら人間のどうしようもない部分や人間性がベースにあります」

 板垣が演じた主人公の心理もまた、どうしようもない弱さと地続きにある。

「今回は『呪い』という概念も登場しますが、結局は人間同士が生み出したものがそういう形になったという描かれ方です。翔太もまさしく、触ってはいけないものを触りたくなる本能を、理性が外れてあふれさせてしまった人物。そこが背筋さんの作品らしく、人間のどうしようもない部分を象徴しているのだと思います」

 劇中の大きなウエイトを占める証言の場面。未知の存在と対峙する緊迫感に満ちたシークエンスはスケジュールの都合上、クランクイン初日に幕を開けた。

「証言シーンは本編の半分ほどを占める重要な部分ですが、初日に撮影したんです。自分の感情とは別に、第三の特異なものに動かされている状態を作らなければならず非常に難しい場面でした。事前に清水監督から映画『ゲット・アウト』を教えていただき、イメージを膨らませて臨みました。後半になるにつれ全貌が見え、仕掛けが増えていく中でNGが出た際、上がった感情を立て直すのは大変でしたね」

 特異な精神状態を長回しで演じ切る現場。これまでの芝居のセオリーとは異なる、ホラーならではの技術的なアプローチも新鮮な体験となった。

「今回ホラーに初挑戦し、『見せる芝居』の重要性を意識しました。我々が恐怖の対象をどう見せるかでお客様の温度感も変わります。カメラワークに合わせてバレない程度に顔を上げ、目を見開いて恐怖を感じている状態を長く見せるなど、視覚的に分かる表現を計算しなければなりませんでした。感情的な芝居に加えて見せ方を自分で考えるのは面白かったです。清水監督ならではの、夏のほの暗い色合いや画面の温度感を試写で見た時はうれしかったですね」

 未知の恐怖と対峙する極限状態を演じきり、表現者としての新たな扉を開いた板垣李光人。どんな役にも染まるしなやかさの裏には、地に足のついた日常を愛し、言葉を美しく扱おうとする誠実な感性があった。他者からの視線を面白がりながら進化を続ける板垣が、実写単独初主演を経てさらに歩みを加速させる。

□板垣李光人(いたがき・りひと)2002年1月28日生まれ。12年に俳優デビュー。映画『八犬伝』『はたらく細胞』『陰陽師0』(すべて2024年)で第48回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。26年7月3日公開の『口に関するアンケート』で実写映画単独初主演。テレビ朝日系の7月期ドラマ『大空港~GATE24~』にも松山篤志役で出演する。

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