ピエール瀧が語る現代社会の“なんとなく操られる”恐怖 集団と群れ「実はちょっと意味が違う」
山田杏奈主演の映画『NEW GROUP』(6月12日公開)は、「組体操(人間ピラミッド)」をモチーフにした異色のSFサイコエンタテインメントだ。国内外の映画祭で絶賛される本作を手掛けた下津優太監督と、圧倒的な存在感で校長役を怪演したピエール瀧が、奇抜な設定の裏側から、現代社会に潜む「集団」の性質、仕事観を語った。

映画『NEW GROUP』奇抜な設定の裏側とは
山田杏奈主演の映画『NEW GROUP』(6月12日公開)は、「組体操(人間ピラミッド)」をモチーフにした異色のSFサイコエンタテインメントだ。国内外の映画祭で絶賛される本作を手掛けた下津優太監督と、圧倒的な存在感で校長役を怪演したピエール瀧が、奇抜な設定の裏側から、現代社会に潜む「集団」の性質、仕事観を語った。(取材・文=平辻哲也)
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体育祭でおなじみの組体操がこんなにも怖いものだとは誰もが思わないだろう。主人公は、家族に問題を抱える引っ込み思案な女子高生・愛(山田杏奈)と日本の集団行動になじめない海外帰りの転校生・優(青木柚)。ある日、校庭で1人の生徒が四つんばいになり、次々と他の生徒が横に並び人間ピラミッドを作り始める。学校側はこれを“良いもの”として推奨し、思考を放棄した生徒たちは皆、無言で穏やかな表情のまま従い、やがて地域全体を巻き込む大事件へと発展していくというストーリー。
本作を手掛けたのは、デビュー作『みなに幸あれ』(2024年)で国内外に衝撃を与え、本作が商業映画2作目となる新鋭・下津優太監督。世界三大ファンタスティック映画祭の1つであるスペインのシッチェス映画祭や、カナダのファンタジア国際映画祭(審査員特別賞受賞)など、数多くの海外映画祭で絶賛されており、いま世界中から熱い視線が注がれている気鋭のクリエイターだ。
そもそも、なぜ組体操をホラーの対象にしたのか。
下津監督は「社会学の本を読んだときに『この社会はさまざまな集団でできている』と書いてあって。ゾンビみたいな不規則な集団も怖いけど、規律の取れた集団も怖いんじゃないかと思ったんです。その集団行動を極めると何だろうと考えたら『あ、人間ピラミッドだ』と」とその突飛な発想の原点を明かす。
一方、不敵な笑みを浮かべて思考停止した集団を導く校長役のピエール瀧は、脚本を読んだ第一印象を「本当に、意味の分からないものでした」と笑って振り返る。「ただ、組体操が襲ってくるというのを映像化したいことは理解できました。この奇妙なものを映画に仕上げようとしている監督の心意気に打たれて出た感じです」と出演の決め手を語る。
奇抜な作品を作る下津監督に対し、瀧は事前のイメージとのギャップに驚いたという。「線の細い、汚い格好をしてボソボソしゃべるような人を勝手に想像してたんです(笑)。でも現場に行ったら声もバーンと張っているし、『行くぞ!』って感じで、楽しそうな声で撮っていたんです。あ、現場で撮るのが好きな人なんだなって、180度イメージが変わりました」。下津監督も「最初にお会いした衣装合わせのとき、瀧さんが上下紫のジャージにサングラスで入ってきて『こわっ』と思って(笑)。でもここでビビっちゃだめだと気を引き締めたのを覚えています」と笑い合う。
瀧が「生徒も家族も、記号の組み合わせみたいな形で全体が出来上がっているから、僕が『こうするともっとなじむんじゃない?』と提案した」と明かすと、監督も「ピエールさんがおっしゃる通り、僕も本当に記号としてしか捉えていなくて、複雑な因数分解を作り上げていく感覚に近いかもしれないですね」と、独特な演出手法を語った。

「面白かった」で終わらない下津監督の作品づくり
本作が描く「集団の恐怖」について、瀧は鋭い視点を投げかける。「『集団』と『群れ』って実はちょっと意味が違っていて、みんなで狩りをして全体の利益になるのが『群れ』。でも『集団』の利益って、割とその集団を統率する側や、一部の人のものだったりするじゃないですか。学校で集団行動をさせるのも、管理しやすいからですよね。この映画で描かれているのはその『集団』の恐ろしさだと思います」
現代社会において瀧がいちばん「怖い」と感じるのも、そうした集団の中で我を失う人間の精神状態だという。「うそにうそを塗り重ねて、オートマチックに自分でそこに行っちゃう人や、でっかいものに逆らえなくなって、自分が我慢すればみんなが喜ぶからとなんとなく操られてしまう人。目先の15秒を乗り切るために人生の全てが消し飛んでしまうような、我を失っているんだけど体裁は作らなくちゃいけないという精神状態は怖いなと思いますね」。
俳優としてさまざまな作品で圧倒的な存在感を放つ瀧だが、特定の役をやりたいという願望はないという。「校長もやったことないし、戦国時代の人だって知らないわけですから。無理難題をふっかけられて、その人の気分になってみるというものが面白いんです」。
下津監督の作品づくりについて、瀧は「雑誌を見るようにパタって閉じて『面白かった』で終わるんじゃなくて、鼻の奥に残るような後味の悪さを作れるのは非常にまれな才能」と高く評価する。海外のレーベルとマネジメント契約を結び、ハリウッドでの作品開発も見据える下津監督。2人の異端な才能が激突した『NEW GROUP』は、観客に強烈な違和感と問いを突きつけるはずだ。
□下津優太(しもつ・ゆうた) 1990年、福岡県北九州市出身。大学在学時よりテレビCMを企画・演出。テレビCMやミュージックビデオの監督をするかたわら、第1回日本ホラー映画大賞にて大賞を受賞し、『みなに幸あれ』(2024年)にて商業映画監督デビューを果たす。
□ピエール瀧(ピエール・タキ) 1967年、静岡県出身。89年に石野卓球らと結成した電気グルーヴでミュージシャンとして活動する一方、95年頃から俳優としてのキャリアをスタート。映画『凶悪』(13年)の演技が評価され、数々の賞を受賞。主な出演作にドラマ『64(ロクヨン)』、映画『怒り』『アウトレイジ 最終章』、Netflixシリーズ『全裸監督』『サンクチュアリ -聖域-』『地面師たち』など。
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