ネトフリMMA、高額ファイトマネーのカラクリ 青木真也が鋭い指摘「大きな単発イベントを打っているだけ」【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回はNetflixが配信した『MVP MMA 1:ロンダ・ラウジーvsジーナ・カラーノ』について、ビジネス視点で話を聞いた。

RIZINの凄さにも言及「外国人選手を取ってきて…」
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回はNetflixが配信した『MVP MMA 1:ロンダ・ラウジーvsジーナ・カラーノ』について、ビジネス視点で話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
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動画ストリーミングサービスの世界最大手・Netflixが、ボクシングに続きMMAのライブ配信に乗り出した。『MVP MMA 1:ロンダ・ラウジーvsジーナ・カラーノ』が日本時間17日、同サービスで生配信された。
メインカードで秒殺一本勝ちを収めた初代UFC世界女子バンタム級王者・ロンダ・ラウジー(39=米国)いわく、ファイトマネーの最低価格は4万ドル(約633万円)。業界の構造を変える存在として期待する声もある、莫大な予算を投じて実現したMMAイベントだが、青木本人の第一印象は「厳しいと思う」という極めて冷静なものだった。
「俺はそんなに興味ない。結局、何かを借りてきての文脈じゃないですか。昔あるものと昔あるものを燃やしているので、瞬間的な熱には人が集まるけど、何かを築いているわけではなくて。本当に、瞬間的にボッと出る感じのものになっちゃうと思います」
ラウジーだけでなく、元UFCヘビー級王者のフランシス・ガヌー(カメルーン)、元UFCファイターのネイト・ディアス(米国)、元ONEフライ級王者のアドリアーノ・モラエス(ブラジル)など、業界では名の知れた選手が出場した。たしかに一時的な話題性は抜群で、Xのタイムラインでは、それなりに注目を集めたが過去の遺産を消費しているという見られ方もある。
また、日本の格闘技市場への影響についても「知名度的にピンと来る人は少ない。影響は受けないんじゃないか」と青木は推察し、日本人選手の参戦の可能性も「世界的に見て、そんな大きな市場を持ってる(日本人)選手はいないから、ないな」と断言した。
今回のNetflixのMMA参入において、既存の格闘技団体の報酬が少ないという意見も多く見られるが、青木はこの意見を一刀両断した。4月末に自ら興行を打ち、実務の過酷さを知るからこそ、その言葉には並々ならぬ実感がこもっていた。
「要は、イベントしかやったことないやつの戯言だよ。『団体運営してみ?』って思っちゃう。団体運営してから言ってみなさいよと。俺はイベント(自主興行)をやっただけで、『あ、これ団体運営は無理だ』と思ったもん」
指摘したのは単発の「イベント」と、継続して選手を抱える「団体」の決定的な構造の違いだ。Netflixが一部の選手に最低1人4万ドル以上の報酬を出せるのは、それが単なる“一発勝負”だからに過ぎない。
「単発だからそれができるんですよ。じゃあ例えば、団体ってトップ選手を年3試合、勝っても負けてもその契約下において提供できるかどうかなんすよ。常に回さなきゃいけないし、物語も1個1個作ってかなきゃいけない。もっと言うと、負けたやつのフォローもしなきゃいけない。だとしたら、Netflixは別にすごいことをしているわけではなくて、ただ大きな単発イベントを打っているだけなんです」
継続的に選手を出場させ、ストーリーを紡ぎ、敗者にも次の舞台を用意する。それこそが「団体」の役割であり、“凄み”だ。
「じゃあRIZINの何がすごいって、外国人選手を取ってきて、どんな結果であれ、団体として年3回とか使えるんですよね。それがすごいと思うんすよ、体力的な意味で。団体とイベントは全然違う。ぶっちゃけそこに行き着くんじゃないかな」
格闘家にメリットも
では、なぜNetflixは採算度外視とも思える規模で格闘技イベントを主催するのか。青木はその狙いを「ある種のプロモーション、広告費」だと分析した。
「アマゾンプライムのボクシングとか、全部に起こってることですよね。スポーツの放映権が高騰したんだけど、『じゃあ自分たちでイベントをやっちまおう』っていう感じっすね。向こうにとっては、Netflixというもののプロモーションであり広告費なんですよ」
かつては広告代理店などが放映権を買い上げ、地上波や各配信プラットフォームに振り分けるビジネスモデルが成立していた。しかし、プラットフォームの力が強大化した現在、そうした構造は崩壊しつつある。実際に第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)はNetflixが独占。地上波テレビで試合の生放送はされなかった。
「少し前だったら、この部分はNetflix、この部分は地上波って振り分けたと思うんですよ。それを仕切るのが電博(電通・博報堂など)だったと思うんですけど、やっぱりそこの力が崩れてきてて、(プラットフォームが)独占しちゃう。たしかに値段は取れるんだけど、先はあんまり見越せない」
巨大プラットフォームによる「単発の巨大イベント」は、格闘技界に何をもたらすのか。青木は市場にお金が落ちること自体はファイターにとってプラスになると見ている。
「人が(コンテンツを)取り合うことによって値段は上がっていくので、市場は大きくなる。上が上がると、下も引っ張られて上がりますからね。それは業界にとっていいことだと思うんですよ」
しかし同時に、長期的な視点での懸念も口にした。一過性の独占配信、“広告”に依存すれば、文化としての格闘技は先細りしていくリスクがある。
「その一発の広告を狙い続けるっていう商売の仕方もありだけど、ずっとは続かないと思うし、あんまり得策でもないと俺は思っちゃうかな。独占配信によって、業界が先細る可能性はめっちゃあります」
格闘技ビジネスの構造が変わりつつあるが、青木本人のスタンスは変わらない。「知ったこっちゃねえなと。時世を見た中でどうやって生き残っていくかっていうのはありますけどね」とどこまでも冷静だった。
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