青木真也、ファイトマネー“2倍払い”の真意 自主興行で見せた「俺のスタイル」【青木が斬る】
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回は4月20日に開催した自主プロレス興行「エイオキクラッチ 01」について話を聞いた。

連載「青木が斬る」vol.17
2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(42)。格闘家としてだけでなく、書籍の出版やnoteでの発信など、文筆家としてもファンを抱えている。ENCOUNTで2024年5月に始まった連載「青木が斬る」では、格闘技だけにとどまらない持論を展開してきた。今回は4月20日に開催した自主プロレス興行「エイオキクラッチ 01」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
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開場時間からオープニング、そして大会終了後、青木は自ら物販ブースに立ち、一人ひとりのファンと丁寧に向き合っていた。興行の主催者でありながら、誰よりもせわしなく動き回っていた理由を、青木は「在廊」という言葉で表現した。
「青木を見に来てくださってるんで、触れ合いたい、話したいっていう気持ちはみんなあると思うので。個展に立ったらアーティストはみんなあいさつするじゃないですか。在廊するわけじゃないですか。それと同じですね。手を抜きたくないんです」
このイベントを自身が好きなものだけを集めた「個展」と表現してきたが、ファンにとっても特別な空間になるように心掛けて大会を作った。
「何のために『エイオキクラッチ』をやってるのかなって考えると、自分の好きなものを、自分の好きな人たちが思いっきり楽しんでもらうため。そこは自分自身の居場所にもなり得るし、多くの人の居場所にもなる。やっぱりいろんな人に、本番とか勝負とか、そういう目標が必要だと思ってるわけですよ。心地よい空間でとにかくやっていきたいっす。心地よい空間で、心地よい人たちとやっていきたい。今回は全員、心地よい人たちしかいなかったです」
大会後には出場した川尻達也が「ファイトマネーの振り込みが異常に早かった」「提示額の2倍振り込まれていた」と驚きの声をSNSで発信した。この対応について、青木は「当たり前のこと」と一蹴する。
「やっぱり僕が選手だからじゃないですか。『速度とは誠実さである』みたいなところがやっぱりあるので。早くしてあげたいし、雑にしたくないんです」
さらに、パフォーマンスに応じて報酬を上乗せしたのも「青木スタイル」だという。
「大まかな底値でお願いしておいて、自分が『すごいパフォーマンスしてくれたな』と思ったら、やっぱり上乗せして払う。例えば、2、30万円でお願いしてたものが2倍3倍になることは、俺のスタイルでよくある。ビジネスがどうとか、利益がどうとかそういうことじゃないんですよ。そういうのが嫌でこういうこと(エイオキクラッチ)をやってるんで」
これは既存のプロレス・格闘技団体への批判ではない。単発のイベントだからこそ可能であったことも強調した。
「うちは団体ではないんで。単発のイベントだからできるんですよ。普通の団体は毎月何試合もあるわけじゃないですか。だから、この対応を他の団体と比べるものではないです。俺は空理空論にならない、机上の空論にならないってのがすごく大事だと思っていて。大小関係なく何かを作っていないと、自分の主張や哲学はできないんだよね」
「金とかどうでもいいフェーズに入っちゃった」
青木が「完璧すぎるぐらい完璧だった」と満足した今大会。特に唸らせたのは、出場したトッププロレスラーたちがリング上で見せた“表現力”の凄みだった。
「橋本(千紘)さんの言葉で、倒れている山﨑裕花に『起きろ!』って言ったんですよ。『立て』じゃない。起き上がるっていう言葉を使うんだと。『勝ちに来たんだろう』じゃなくて『倒しに来たんだろう』って。勝ち負けのやり取りではなく存在を倒す、対抗戦だってことをその言葉で想起させるんですよね」
また、黒潮TOKYOジャパンやT-Hawkといった選手たちの、相手を引き立たせる技術にも感銘を受けたという。
「イケメン(黒潮)さんが『(宇野薫に)勝つぞ』じゃなくて、『勝てるぞ』って観客に呼びかけたことで、『宇野薫が強いんだ』っていうのをお客さんに想起させる。T-Hawkも自分の説得力を出して、宇野さんを追い込む。一つ一つの取捨選択のセンスがすげえって思いましたね」
そして、格闘技ファンも注目していた川尻達也vs男色ディーノ。川尻が殻を破ったかのように男色ディーノのリップロック(キス攻撃)に対抗し、リング上で熱いキスを見せた。この試合も青木にとっては最高の“表現”だった。
「あの試合も素晴らしかった。俺は、川尻さんが脱げないことも表現だと思ったんすよ。できなかった川尻っていうのも良かった。でももっと言うと、川尻が勝っちゃう姿もOKだった。そういう表現で、それもひっくるめて見たかったっす」
マッチメイクから大会開催まで極上の青木空間を作り上げた。メイン終了後には2026年中に格闘技の試合をすることを明言した。自身の戦いへのモチベーションがかつてないほど「フラット」になっているという。
「最近いろいろ悟りを開いたんですよね。金とかどうでもいいフェーズに入っちゃったっすね。俺もらって困るんだ、みたいなところに来ちゃった。格闘技でしか表現できないこともあるんですよね。そのプロレスの青木と格闘技の青木でっていう深みを見せられる。表現したいものがあったから試合をするんです」
多くのファンが待ち望む「第2回大会」についても、彼のスタンスは揺るがない。
「何か描きたいものがあるからやるんです。すぐやらないのは、描きたいものがすぐ浮かんでこないから。浮かんできたらやる。もうすごいフラットですよ。自分が納得するんだったらやる、でなきゃやらん。心地よい空間で、自分発信で全部やっていきたいですね」
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青木がその生き様を通じて作り上げた、ファンとの「心地よい居場所」。そこには券売や再生回数といったノイズは一切介在しない。「表現」という純粋な動機だけを胸に、次に開く“個展”は一体どんな景色を見せてくれるのか。
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