【風、薫る】時代考証が“捨松”多部未華子を絶賛する理由 当時の評判と時代背景「重みはドラマ以上にあったかも」
俳優・見上愛と上坂樹里が主人公を演じ、明治時代に看護の道を切り拓いたりん(見上)と直美(上坂)を描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』(月~土曜午前8時)。同作品で時代考証を担当する立正大法学部教授・久保田哲氏に、大山捨松や清水卯三郎が明治時代当時、周囲からどう思われていたのかなど作品の時代背景を聞いた。久保田氏は近代政治史、法史学が専門。捨松は俳優・多部未華子、卯三郎は坂東彌十郎が演じている。

時代考証担当の立正大学法学部教授・久保田哲氏が作品の時代背景紹介
俳優・見上愛と上坂樹里が主人公を演じ、明治時代に看護の道を切り拓いたりん(見上)と直美(上坂)を描くNHK連続テレビ小説『風、薫る』(月~土曜午前8時)。同作品で時代考証を担当する立正大法学部教授・久保田哲氏に、大山捨松や清水卯三郎が明治時代当時、周囲からどう思われていたのかなど作品の時代背景を聞いた。久保田氏は近代政治史、法史学が専門。捨松は俳優・多部未華子、卯三郎は坂東彌十郎が演じている。
まずドラマにおける時代考証の仕事内容を尋ねた。
「本来なら史実に基づき、ここからはダメ、ここからグレー、ということを明瞭にすることが役割と思っています。個人的にはグレーならいいかなという思いもあります。その時代に実際にあるけれど、まだ一般的ではない物を登場人物が使っていても、この時代にこういう物が出てきたと視聴者に知ってもらうのは私個人としてはいいことだと思っています。ただ、明らかにこの時代には無い物はきちんと伝えています。具体的には台本を読み、これは当時無い、こういう言葉は使っていなかったといったことを伝えています」
“鹿鳴館の華”と呼ばれた捨松は、大山巌との結婚前、アメリカに留学し、大学を卒業して学士号を得たり、現地で看護婦養成所に通い看護を学ぶなどした日本で最初の女子留学生の一人。帰国後に看護婦教育や女子教育に尽力した。一方、卯三郎は1867年のパリ万博に日本人商人として参加し、作品にも登場する瑞穂屋を営み、舶来品を扱う貿易商。こうした経歴は史料で目にする機会はあるが、2人が当時、周囲にどう見られていたのか知る機会は少ない。
「捨松も卯三郎も当時の一般の日本人が感じた印象は奇妙な人、変な人だと思うんです。卯三郎は幕末から西洋に行き、捨松は十数年行っていました。そういう人たちの話を多分、当時の一般人が聞いても何を言っているかよく分からなかったと思います。捨松に関してはお転婆とか生意気という印象だったと思います。卯三郎が謎めいたキャラとして描かれるのは当時の一般人の感覚からすると、まさにそうだと思います」
捨松のバザーや看護婦教育、女子教育の功績は大きいと思うが。
「明治の政治家も文明国ということを考えた時、女性の地位向上を言っていましたし、女性の教育の場も広がっていきます。でも、実際に知識を身につけて発言すると、男性からは面白くなかったんだと思います。だから、お転婆とか生意気ととらえられていったのだと思います。捨松は日本で女子教育を受けたわけではないので、そういう意味では先がけ。彼女の看護婦教育は礎、先がけになったと評価されていると思います」
『風、薫る』の捨松と卯三郎を見ての感想も気になる。
「ドラマの卯三郎のミステリアスさは、きっとそうだろうなと思います。捨松にも女優さん(多部未華子)の力というか迫力を感じます。実際の姿もそうだったと思います。私は研究のため元華族の子孫の方と話すことがありますが、皆さん華族だった祖父、曾祖父は迫力がすごかったとよく言っています。実際の大山巌も捨松も怖かった気がしますし、圧もあったと感じます。卯三郎は薩英戦争も実体験として知っている人。すごみ、重みはドラマ以上にあったかもしれません。多部さんの演技はご立派だと思います」
捨松は、この作品では看護やバザーの知識を有する人物として描かれるが、“鹿鳴館の華”という印象を持つ人が多いのはなぜなのか。
「歴史そのものも男性中心に描かれてきた面があると思います。“鹿鳴館の華”という言葉もその象徴。政治は男性の世界。男性の外交、社交の場に付属する形で女性がいました。それで“鹿鳴館の華”という表現があると思います。一方でバザーは女性発。捨松が中心になって企画しました。男性中心の政治の世界とは異質なものです。だからこそこれまで歴史や物語で日の目を見てこなかったのかなという気がします」
『風、薫る』には卯三郎の店に勝海舟が訪ねてくるシーンがあった。
「勝海舟とどの程度の付き合いか分からないところもありますが、ただドラマの時代設定の前に、史実では勝が卯三郎に洋書の手配を依頼したとか、卯三郎が輸入した物を政府に買い上げてもらうため勝に仲介を頼んだのではないか、ということは言われています。2人とも幕末に西洋に行っていますし、ある種のネットワークとか西洋を知っているという共通意識はあったと思います」
ここまでの『風、薫る』を見てどんな思いだろう。
「視聴者にこの時代に関心を持ってもらえるのはすごくいいこと。突き詰めていくと時代的におかしいこともあるかもしれませんが(笑)、日本の歴史の入り口になることはすごく価値があることだと思います」
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