1985年8月12日、歌手・坂本九さんが日航ジャンボ機墜落事故で亡くなった。43歳だった。妻で俳優の柏木由紀子（77）は本日12日、またこの日を迎えた。最近は老夫婦の姿を見かけると「うらやましいな」と思いながら、「主人の分まで頑張らねば」と前を向いている。あれから40回目の夏、柏木がENCOUNTのインタビューに応じ、今の思いを明かした。（取材・文＝笹森文彦）

　あの日、坂本さんは東京・渋谷のNHK放送センター505スタジオで、特番『秋一番！坂本九』の公開収録に臨んだ。『ステキなタイミング』『上を向いて歩こう』などのヒット曲から、最新曲『心の瞳』も歌った。その後、羽田空港に向かった。搭乗したのが大阪行きの日本航空123便。ボーイング747で当時、「最も安全」と言われたジャンボ機だった。

　少し遅れた午後6時12分に離陸。ビジネスマンだけでなく、夏休みやお盆帰省客で満席だった。約44分後、機体は群馬・上野村の御巣鷹山に墜落した。乗客乗員524人のうち520人が死亡。史上最悪の航空機事故になった。後部圧力隔壁の破損などに伴う制御不能が、「主な原因」と言われている。

　当時柏木は37歳。しみじみと振り返った。

「随分（時が）たってしまったんだなって感じますけど、普段の生活の中では、そんなにたっていなような気もしますし……。やっぱり、40年なんでしょうね」

　悲しみは癒えることはないが、坂本さんが亡くなった後、家族で楽しい時間を数多く作って生活してきた。ただ、最近は「（坂本さんが）生きていたら」と考えることもあるという。

「同じような年を重ねたご夫婦が、旅行したり、散歩していたり、食事したり、そういう姿を見ると、『（坂本がまだ）いたらどうだったんだろうな』とか、『うらやましいな。いいな』って、すごく思いますね。それは（若い頃から）ずっとありましたけど、年を取ると、余計にそんなことを感じたりしますね」

　それでも日々、前向きに生きようと努力して生きてきた。先立たれた当初は坂本さんの歌を聴くことができなかったが、2004年から長女の歌手・大島花子、次女の俳優・舞阪ゆき子との母子ユニット・ママエセフィーユ（母と娘たちの意味）を結成。時には坂本さんの映像を交えた“4人”で、心温まるコンサートを行ってきた。

「コロナ（新型コロナウイルス感染症）でストップしたままなんです。でも15年ぐらい続いたので、見に来てくださった方たちは、『また、やって』とおっしゃってくださっているので、『またやりたいな』って。元気なうちに（笑）」

　今年4月には、ファンションや生き方の自著『YUKIKO STYLE』（講談社）を出版した。過去にも『ファッションクローゼット』（扶桑社）なども出している。

「やはり、日々を1日1日を大切にしています。主人ができなかったその年月なので、『私が主人の分も楽しんだりしなくてはいけないな』『頑張らなきゃいけないな』と思って、いろんなことに挑戦しています。多分、きっと応援してくれている、喜んでくれていると思って、やっています」

　今月20日には、没40年の節目として、ベストアルバム『坂本九』が発売される。柏木はスーパーバイザーとして制作に参加した。来年には俳優・岡田准一の主演で、名曲『上を向いて歩こう』の誕生秘話を描いた映画『SUKIYAKI 上を向いて歩こう』が公開予定。今、坂本さんが、あらためてクローズアップされている。

「40年っていうと、あの時生まれた人が40歳です。若い方は、歌は聴いたことがあるかもしれないけど、坂本九を知らないわけです。坂本九という歌手をあらためて知っていただくためにも、すごくうれしいと思います」

　そして、最後に「願い」を明かした。

「坂本九を忘れられたくありません。そして、事故のことも風化させたくはありません。生きている限り、それを伝えることが、（私の）役目と思っています」

　力強く、思いがこもった言葉だった。

□柏木由紀子（かしわぎ・ゆきこ）　本名・大島由紀子。1947年12月24日、東京・世田谷生まれ。小学高学年の時に劇団「若草」に入団。64年の『明日の夢があふれている』で映画デビュー。65年、『若い真珠』で歌手デビュー。日本テレビ系『細うで繁盛記』などドラマにも多数出演し、71年12月８日に坂本さんと結婚。血液型A。