上田竜也、KAT-TUNを「抜けようと思ったことは1度もない」 小説に託した本音…3人目の脱退で「正直、ちょっと落ちちゃった」
上田竜也が初めて手がけた小説『この声が届くまで』(KADOKAWA、1760円)は、活動の原点でもある音楽をテーマに、自身の経験や思いをにじませた作品だ。グループは2025年3月に解散。10年間にわたる執筆の裏には、仲間との関係、表現への葛藤、そして自身の“信念”があった。

初の小説『この声が届くまで』、10年間に渡る執筆の裏にあった自身の“信念”とは
上田竜也が初めて手がけた小説『この声が届くまで』(KADOKAWA、1760円)は、活動の原点でもある音楽をテーマに、自身の経験や思いをにじませた作品だ。グループは2025年3月に解散。10年間にわたる執筆の裏には、仲間との関係、表現への葛藤、そして自身の“信念”があった。(取材・文=平辻哲也)
KAT-TUNは2016年、3人目のメンバーが脱退した。当時の心境を聞くと、「とにかく1人1人が頑張らないといけないという気持ちでした。本人が決めたことなので、どうしようもなかったですね」と淡々と振り返る。
小説は、バンド「zion(シオン)」の龍が、学生時代からの仲間マサの脱退を機に、残されたメンバーとともに一念発起し、憧れの武道館を目指す青春ストーリーだ。
龍が仲間の離脱に戸惑う場面もあるが、「小説はあくまでもフィクションだけど、似たような感じはあった」と重なる部分もあったようだ。
「でも、1人目が抜けた時点で結束はあったはずなんですよ。3人目が抜けたからって団結したというよりは、俺は正直、ちょっと落ちちゃった。結局わからないですね」
それでも、上田は最後までグループに残り続けた。
「ファンを楽しませたいっていう思いはずっとありました。それは抜ける理由にはならない。1度も抜けようと思ったことはないです」
その芯の強さは、デビュー当時の意識にも通じる。
「俺らの頃は、先輩たちのグループが第一線でずっとやってたんですよ。だから、デビューしたらやり続けるものだと思ってた。たぶん俺らの世代から、少しずつ変わってきたのかもしれないけど」
小説はスマートフォンのメモ機能で執筆したが、メンバーにはその存在を明かしていなかったという。
「こっそりというわけじゃないけど、言わないタイプなんで。全然、何にも言ってなかったです」
影響を受けたのは小説よりも漫画。「うちは漫画ばっかりでした。ジャンプ、マガジン、サンデーに『カイジ』とか。ほとんど青年誌ですね」
作中のバンド名「zion(シオン)」(逆から読むと“ノイズ”になる言葉遊び)には強い意味が込められているようにも見えるが、「友人が似たようなバンド名を使っていて、“それ、もらうわ”って。逆読みで意味があるって聞いて、“それいいね”って」
物語には身近な体験が反映されているのかと問うと、「8割はフィクションです。でも主人公・龍の思考は俺のコピー。共感できることしか書いてないし、メンタル面はかなり投影されてると思います」と明かす。
自身の表現の幅が広がったという実感はない。
「ただ10年前に描きたかったことを、10年かけて実現できた。それだけです。今はこのプロジェクトが、ようやくスタート地点に立った感じです」
上田にとっては新たな“始まり”の作品でもある。
今後の展開については、「コミカライズとか、夢はありますけど、まずはこの小説が多くの人に読まれない限り先はない。俺はあんまり事前には言わないタイプ。やることが決まってから、“こういうことやります”って報告するスタイルなんです。先に言っちゃうと、できなかったときにがっかりさせるだけですから」
その姿勢には、自身の“美学”がある。龍が感じる“伝わらないもどかしさ”も、上田自身の実感から来ている。
「克服できてないかもしれない。何回言っても伝わらないと、落ちちゃう。でも、ここ5~6年でファンにはちゃんと伝えようと思うようになった。昔はファンにも何も言わなかった。だから勘違いもあったと思うけど、それじゃダメだなって。とはいえ、事務所の人間とか近い人が勘違いしてても、もう“いいや”って思っちゃうこともある。めんどくさいし、俺は俺でやるわ、ってなる」

「どれくらいの人が読んでくれるのか」重圧も明かす
今は仕事環境なども変わり、自由に表現できるようになった。その環境が、この小説の実現を後押ししたとも言える。
「10年前にやりたかったことが、今こうして形になったのは本当に良かった。もしこのまま封じ込められていたら、すごくもったいなかったと思います」
出版を前に「ほっとしてます」と語る上田。達成感、そしてワクワクした思いもある。
「表紙のイラストが載った時に“完成したな”って思えました。あとは、どれくらいの人が読んでくれるのか。プレッシャーもありますね」
長年の思いが結実した本作。静かに、けれど確かな言葉で語る上田。言葉にならなかった思いを、小説という形でいま読者に届こうとしている。
□上田竜也(うえだ・たつや)1983年10月4日、神奈川県出身。2006年3月にKAT-TUNとしてCDデビュー。舞台やドラマ、映画など俳優としても活躍し、2008年にはソロコンサート「MOUSE PEACE」を開催。グループは2025年3月に解散。
