「候補者がかわいそう」 42人“全敗”も余裕…石丸伸二氏の選挙戦略を他党が批判「有権者から共感が得られなかった」
新たな政党を立ち上げての初陣で、“風”は吹かなかった。22日に投開票された東京都議選で、昨年7月の東京都知事選で次点となった石丸伸二氏が代表を務める地域政党「再生の道」は、42人の候補者を擁立したが、全員落選となった。石丸代表自らは立候補せず、“無名新人”の候補者たちの後方支援に回ったが、選挙戦序盤から支持率を思うように伸ばせなかった。

候補者の6割超が「年収1000万円」 42人を擁立したが…
新たな政党を立ち上げての初陣で、“風”は吹かなかった。22日に投開票された東京都議選で、昨年7月の東京都知事選で次点となった石丸伸二氏が代表を務める地域政党「再生の道」は、42人の候補者を擁立したが、全員落選となった。石丸代表自らは立候補せず、“無名新人”の候補者たちの後方支援に回ったが、選挙戦序盤から支持率を思うように伸ばせなかった。
広島・安芸高田市長を務め、昨年7月の都知事選に電撃的に立候補すると、SNSを駆使して支持を広げ、165万票余りを獲得。今年1月に、「政治屋を一掃していきたい」と鳴り物入りで新政党を旗揚げした。独自路線を押し出し、当選した場合の条件は「2期8年を上限とする任期」。議決に際して党議拘束をかけず、個人の判断に委ねる。そして、最大の特徴は「党としての政策は掲げない」という方針だ。
立候補者の選考は、まるでショーのように大胆に展開した。都民から公募し、YouTubeチャンネルを通して石丸代表との面接の映像などを次々とアップし、“公開オーディション”を実施。1128人の応募から、「仕事ができるかどうか」という観点でふるいにかけ、最終的に42人に絞り込んだ。超大手の人材会社や不動産会社の勤務経験、金融のプロといったハイスペック人材が集められ、石丸代表は「超難関、圧倒的です。他の政党ではこんなに集まらない」と自賛。4月25日の最終選考に関する記者会見(合格者は48人と説明)で、年収分布を公表。「年収800万円以上が77%、1000万円以上に絞っても64%」と明かし、候補者の「稼ぐ力」を強調していた。
リーダー自らは出馬せず、それまでバリバリ働いていた社会人ながら“選挙は素人”の候補者たちを送り出した選挙戦。「都知事選は自分が主体で、自分の声を前面に出して伝える。今回は自分は主役じゃなく、裏方」。候補者と一緒に選挙カーに登壇し、司会進行を務めて緊張する候補者に自己紹介を促すなど、サポートに徹した。
精力的に都内を駆け回り、街頭演説は100回実施。選挙戦を振り返り、「候補者の横に立って私が演説をする。出だしは私から始めるので、候補者の参考になるように頑張ろうという意識はすごくありました。(候補者の)演説のレベルアップ度合いが半端なかった。1回1回確実に上達していきました。全体の評価として期待通りだったのが一番です。総体としてはこんなにもきちんと選挙ができる人がいるんだなと。それが実現したことに衝撃を覚えました」と、手応えを強調した。
だが、有権者の心をうまくつかむことはできなかった。党としての政策を打ち出さないスタイルは、各党が物価高対策などを明確に訴える中で、アピール力に欠けた。「全員が実力者」と厳選した候補者たち。学歴・経歴・年収面でハイスペックを誇る候補者の声は、道行く一般庶民にはなかなか届きにくかったことも考えられる。党の顔で、抜群の知名度を誇る石丸代表にばかり注目が集まり、聴衆の関心が候補者に向きづらかったという側面もあるだろう。
街頭演説を聞いていた子育て世代の女性は「インタビュアーみたいな街頭演説は珍しいですね。これまでの選挙っぽくなく、新鮮味がありました」と評価したうえで、「石丸さんはカリスマ性があると思う。都知事を目指すのかどうか、今後が楽しみ」と、石丸代表の今後について興味を示していた。他にも、女性有権者たちからは「都知事になって」という待望論が聞かれた。石丸代表のイメージは「都知事選」が強くひも付いている印象が見受けられ、あくまでも石丸代表個人への関心は高いが、“石丸人気”が政党候補者の得票には結び付かなかったと言える。
それに、経験不足が露呈した側面も。ある男性候補者は選挙期間中、自身が同乗する選挙カーがJRの駅付近の高架下に接触する単独事故を起こしてしまった。けが人はおらず、大事には至らなかった。運転手を頼んだ知り合いは選挙カーの運転に慣れていなかったという。立ち上げたばかりの政党だけに、他党と比べての地力の差が出てしまったことは否めない。
自身の今後について含みを持たせる発言 「3年後の都知事選もその対象です」
候補者たちの奮闘もあり、選挙区によっては善戦を示した部分はある。新党として選挙戦のノウハウや蓄積の上積みを得られたことも大きな一歩だ。だが、世論調査や情勢調査では当初から厳しい状況が伝えられていた。ある候補者は選挙戦序盤の時点で、広く国民の政治参加を促すことが党の目的の1つであることを強調したうえで、「私たちは政治に対する無関心と戦っていると思っています。選挙という勝ち負けの中では、もしかしたら(マスメディアの)皆さんから見れば負けたように見えるかもしれませんが、もし私たちが立ち上がったことがきっかけになり、今まで政治に目を向けていなかった方々が、1人でも多く投票に行ってみよう、となれば、これはある意味で党の目的に近付いたことになりますので、これは勝ちとも言えます。もちろん、泡沫候補で終わらないぞ、という思いは持っています」と語っていた。今回の投票率は47.59%で、前回を5.20ポイント上回る結果になった。一定の成果につながったとも言えるが、やはり突き付けられた「議席0」の現実は厳しいものがある。
石丸代表が出馬せず、プロデューサー的な立場で臨んだ都議選の戦いぶりについて、他党関係者は「再生の道は政策を掲げていないですよね。向こうは他党の政策を批判するけど、向こうが何もないので、こっちからは何も言えない。何をしたいのか分からないところがあります。石丸さん本人が出てないし、少なくとも都知事選のような盛り上がりがないことは確か。結局、石丸さんだけの党なのかな」と分析した。別の他党議員は「(苦戦の)一番の原因は、石丸さんが出なかったことですかね。ただただ、候補者がかわいそうなことになったというだけです。新しい政治の在り方についてご提案いただくのはよかったとは思うんですけど、シンプルに有権者から共感が得られなかったんだと思います」と厳しく指摘する。
来月にはすぐに参院選が控えている。再生の道はすでに、東京選挙区1人、比例代表9人の計10人を擁立することを公表している。石丸代表は都議選投開票日の22日に都内で行った記者会見で、「都議選を参院選の前哨戦などという捉え方はしていません」としたうえで、「議員としてちゃんと仕事ができる人を議会に送り込む。その意味で、参院選に向けて擁立ができていますので、あとは本番を待つのみです。息巻いているのではなく、待ち遠しい、早く始まらないかなと思っています」と、強い意気込みを語った。
石丸代表は今回の参院選についても出馬しない意向を示しているが、自身の今後について含みを持たせる発言をした。
「すべての選択肢はテーブルに乗っています。お決まりのコメントなのですが、せっかくなので言うと、3年後の都知事選もその対象です。参院選だろうと、いつ来るか分からない衆院選だろうと、もちろん可能性はあります。そして、政治家をいつ引退するのかは全然決めていないので、これからずっと考えながら適宜適切に考えるんだと思います」。不敵に笑った。
夏の国政選挙で、“石丸劇場”をどう演出して、結果を出していくのか。正念場を迎える。
