約1000万円かけた愛車ランクル盗難、オーナー怒り “被害者批判”の風潮に心痛「盗む側が100%悪い」

「いつかはランクル」の人生の夢をかなえた1台が、残酷にも持ち去られた。子どもの頃から憧れて、ようやく手に入れることができたトヨタ・ランドクルーザー(300系)。自宅前の駐車場で盗難被害に遭ってしまった。購入に約1000万円をかけ、2年がかりでようやく納車が実現した、ダークレッドマイカメタリックで塗られた赤のカラーリングが自慢の愛車だ。「バレずに豪遊しながら幸せな生活を送れても、その人生は間違っている」。情報提供を呼びかける被害者の男性オーナーが、怒りと悲しみの思いを明かした。

被害車両のランクル300系はダークレッドマイカメタリックが特徴的だ【写真:本人提供】
被害車両のランクル300系はダークレッドマイカメタリックが特徴的だ【写真:本人提供】

納車は2年がかり 当初は金銭面で懸念も「どうにか頭金を工面することができました」

「いつかはランクル」の人生の夢をかなえた1台が、残酷にも持ち去られた。子どもの頃から憧れて、ようやく手に入れることができたトヨタ・ランドクルーザー(300系)。自宅前の駐車場で盗難被害に遭ってしまった。購入に約1000万円をかけ、2年がかりでようやく納車が実現した、ダークレッドマイカメタリックで塗られた赤のカラーリングが自慢の愛車だ。「バレずに豪遊しながら幸せな生活を送れても、その人生は間違っている」。情報提供を呼びかける被害者の男性オーナーが、怒りと悲しみの思いを明かした。

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「私事ですが
愛車のランクル300が昨夜盗まれました」

「車内の荷物の一部が熊谷市奈良新田の田んぼで発見され、警察署に取りに行きました
仕事や親の介護の書類が戻って来たのは不幸中の幸いですが、田んぼに捨てられてたのでドロドロびちゃびちゃです……」

 男性オーナーはXのアカウント AIRSOFT AMUSEMENT ASTREA(@JITO_ASTREA)を通して、愛車ランドクルーザーの盗難被害を報告した。男性が埼玉・本庄市で経営するエアガン複合施設のアカウント。「エアガンで健全に遊ぶための窓口」として施設の運営に力を注いでいる。

 被害に遭ったランドクルーザー300は、GRスポーツ グレード。独特な赤のカラーリングが大きな特徴だ。事件が発生したのは6月3日。自宅マンション前の青空駐車場にいつも通り愛車を止め、寝る前に確認したのが午前2時。同8時過ぎ、親の通院のため出かけようとして盗難に気付き、すぐに警察に通報した。「駐車場に防犯カメラは設置されておらず、周辺のカメラの有無を警察も調べていましたが、商業施設や店舗の少ない住宅地なので、あまり期待できないのかと思います。赤のランクル300はそうそう見かけませんが、私は乗り潰すつもりで買っているのでリセールバリューは考えていません。GRスポーツのちょっとレトロな感じのTOYOTA顔には、赤も似合うと思いました。正直、こんなマイナーな色の車を盗まなくても、もっと売りやすい色とグレードはたくさんあるだろうに……という思いはあります」と肩を落とす。

前の愛車でまさかの交通事故被害、事態が急転

 ランクルを追い求めてきた人生。「子どもの頃からランクルが大好きで、小学生に上がる前からカタログがボロボロになるまで見ていました。『いつかはクラウン』ではなく『いつかはランクル』が私の夢でした」。手元にやってくるまでに大きなドラマがあった。

 2021年8月、現行型に10数年ぶりにフルモデルチェンジすると聞き、とっさに行動に出た。「以前の愛車を10年以上面倒見てもらっていたディーラー勤務の従弟に相談しました。カタログが店舗に届いたらもらいに行く旨のお願いをしていたところ、カタログが届いた当日、自分の店に従弟が差し向けた営業マンが持参してきました。そこで、『すでに先行予約がたくさん入っていて、今ご注文いただいても何年待ちになるか分からない上に、早晩受注停止になると思われます』『順番が回ってくるまではいつでもキャンセルして構いませんから、注文することもできなくなる前にとりあえず順番に並んでおいてはいかがでしょうか?』とのお話をいただきました。とてもランクルが買えるような経済力はなかったのですが、いつでもキャンセルできるならと、順番に並びました」。思い切って予約をしたのだ。

 それから半年以上が過ぎたが、進展はない。一方で、「前に乗っていた愛車の車検時期に、従弟が『ランクルオーダーしてくれてるんだから、車検代もったいないし納車まで代車出せないのか?』と掛け合ってくれたのですが、『具体的な納車時期が決まっていれば出せるが、さすがに何年先になるか分からない今の状態では出せない』との回答でした。この『具体的な納車時期が決まっていれば納車まで代車が出せる』が後のキーポイントとなります」。後々に運命的な代車に話がつながる。

 そして、事態が急転する。「忘れもしない2023年4月5日午前中、ディーラーから『8月か9月くらいに納車できるめどが立ちました!』との電話がきました。相変わらず経済的にはランクルは分不相応な上に、コロナ禍で事業が負ったダメージからも回復しきれておらず、当然キャンセルが頭をよぎりました。しかし、なんとか頭金だけでもかき集められないか考えてみようと思い、その場でキャンセルは伝えずに電話を切りました」。

 その日の夕方、まさかの交通事故に遭ってしまう。「私が15年で48万キロ乗った前愛車が、なんと信号無視の車に横から突っ込まれました……。後部ドアと後輪がひしゃげ、自走不能でしたが、私自身は無傷でした。とりあえず、従弟のディーラーに運んでもらう措置を取りつつ、損傷部位の写真を送ったところ、従弟から速攻告げられたのは『廃車』でした。ここでキーポイント『具体的な納車時期が決まっていれば、納車まで代車が出せる』が出てきます。前愛車が突っ込まれて廃車になった日の午前中、数時間前に、ランクルの具体的な納車時期が決まっていたのです。当然『ランクルの納車まで4か月、代車でつないじゃいましょう!』となり、その上、『代車はクラウンをご用意しました!』とまで言われると、もうキャンセルというわけにもいきません」。劇的な展開で、ランクル購入の道筋が見え、代車ながらクラウンにも乗ることができたのだ。

 懸案の金銭的な不安は必死になって解消。「恥ずかしながらこの年で親にお金を借りたり、瞬間的に店の売り上げがはね上がったりで、どうにか頭金を工面することができました。私は思うんです。一連の流れは、15年48万キロ連れ添った前愛車が、最後に私を事故から守ってくれつつ、やっと現れた後を託すに相応しい、ランクルという車を私があきらめないよう、身を滅ぼして背中を押してくれたのではないかと」。感慨深げに振り返る。

 23年8月に晴れて納車。新車購入金額は約850万円。ローン金利を入れると約950万円の人生の買い物となった。「当初は憧れのランクルに自分が乗っているということがうまく実感できず、ランクルに相応しくない身分で乗ってしまっている負い目もあり、なんだかランクルに申し訳ない、私なんかが乗せてもらっている、というような感覚でした。1年以上たち、いろんなところへ行き走行距離も6万キロを超え、普通の車とはいろいろな意味で違う感覚にも慣れてきて、最近やっと『自分にとって世界最高の車』に乗っている実感と、『少なくともあと15年、還暦までは乗ろう、なんならこれが最後の車で構わない。なにせランクルだ、ちゃんと整備すれば何十万キロだってもつ』という愛着がわいてきて、愛車を見るたびにニヤけてしまう自分がいました。毎月の支払いの負担は大きいし、燃費も悪いので維持費も高くついていましたが、とても幸せなカーライフでした」。

「自動車盗難や詐欺でお金を稼ぐ人が増え、そういう犯罪が存在するのが当たり前になってきている」

 喜びをかみしめる日々が、今回の盗難によって暗転した。「注文から納車までの期間(丸2年)より、納車から盗難までの期間(1年10か月)の方が短かったです。これでは前愛車に顔向けできません……。この後車をどうするのかも、今はまだ考えられません……」。絶望感に打ちひしがれている。

 セキュリティーは、施錠(純正セキュリティー)、ハンドルロック、タイヤロックとできる限りのことに注意していた。普段からの警戒をあざ笑うかのような犯行。「よく『狙われたら対策してても無駄』という話も聞きますが、自分の場合は経済的にかないませんでしたが数十万円かけて後付けのセキュリティーを入れておけば盗まれなかったのかな、という後悔はあります。ただ、『対策が甘かったから盗まれても仕方ない』という風潮には反対です。たとえ何の対策もしていなかったとしても、盗む側が100%悪い、これは絶対の真理だと信じます」。被害者側が批判されてしまうような現状もあり、複雑な心境を明かす。

 男性オーナーは「他人の財産を盗んだりだまし取ることでどんなに楽にお金が稼げても、それがバレずに豪遊しながら幸せな生活を送れても、その人生は間違っていると断言します。昨今、自動車盗難や詐欺等、事情はどうあれそういう手段でお金を稼ぐ人が増え、そういう犯罪が存在するのが当たり前になってきているのは、まさに『真面目に生きちゃばかを見る』という世の中になってきている感じがして、やるせないです。たくさんの人を不幸にして自分が幸せになるような生き方ができない世の中になってほしいです」と、切々と訴える。

 自動車盗難は深刻さを増している。罰則強化による抑止力として量刑の厳罰化を求める声が上がるなど、喫緊の社会課題であり、対策強化が求められている。

「厳罰化は有効な手段の一つだと思いますが、それだけで解決するものでもないと思います。仕事柄、警察や自衛隊の方と話すことも多いですし、自衛隊の広報活動にも協力して参りましたが、皆さんおっしゃるのが『人手が足りない』です。自動車盗難に関連して『SNSで拡散して誰かが見つけて通報してくれたら幸運、警察は自分から探してはくれない』という風潮があるのも、警察の人手不足に起因するところが大きいかと思います。そういう状態につけ込んで、窃盗団は盗みまくり、増え続ける盗難件数にますます警察の対応は追いつかなくなっている、という図式が成り立ってしまっているのではないでしょうか。

 警察・自衛隊といった治安・国防に関する人員や予算は、昨今叫ばれる人員や人件費の削減とは切り離して考えるべきではないでしょうか。別に暇を持て余す警官がいっぱいいてもいいじゃないですか、平和な証拠です。何かあったらその暇してる人たちが総がかりで対処してくれれば、事件解決の可能性も上がるという見方もできるかと思います。軍事でも『予備兵力のない戦は負け戦』という言葉があるくらいです。

 日本が『愛車が盗まれたら返ってこないのが当たり前の国』ではなくなり、私のような思いをする人が少しでも減る方向に社会が変わっていくことを、切に望みます」

 そして、男性オーナーはこう結んだ。「いつかはランクル。1年10か月の儚い夢でした」。

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