浅野忠信&大森南朋、息ぴったりの“バディーぶり” 北野武監督最新作でさらに進化…音楽活動でも信頼関係深める
俳優の浅野忠信と大森南朋が、Amazon Original映画『Broken Rage』(Prime Videoで世界独占配信中)に刑事役で出演し、異彩を放っている。北野武が監督・脚本および主演(ビートたけし名義)する本作は、約60分の作品を前後半にし、前半がクライムアクション、後半が同じ物語をコメディータッチで描いた異色作。北野監督の新たな挑戦に挑んだ2人に、撮影での苦労や“バディー”関係を聞いた。

映画『Broken Rage』で刑事役を熱演
俳優の浅野忠信と大森南朋が、Amazon Original映画『Broken Rage』(Prime Videoで世界独占配信中)に刑事役で出演し、異彩を放っている。北野武が監督・脚本および主演(ビートたけし名義)する本作は、約60分の作品を前後半にし、前半がクライムアクション、後半が同じ物語をコメディータッチで描いた異色作。北野監督の新たな挑戦に挑んだ2人に、撮影での苦労や“バディー”関係を聞いた。(取材・文=猪俣創平)
北野監督映画『首』(2023年)などで共演経験のある浅野と大森が、本作で見せる“バディー”さながらに息の合ったトークを繰り広げた。
本作は「暴力映画におけるお笑い」をテーマに、前半は裏社会を舞台に警察とヤクザの間で板ばさみになった殺し屋・ねずみ(ビートたけし)が生き残りをかけて奮闘する姿を描き、後半は前半と同じストーリーをコメディータッチでセルフパロディーするという実験的な作品となっている。浅野と大森は、ねずみに捜査協力を依頼する刑事を演じた。
2人は後半のコメディー部分に苦労があったと苦笑し、パロディーならではの難しさを痛感。大森が「居酒屋で人を笑わせるのとはわけが違う。どうやろうか悩んだまま僕は撮影が終わってしまいました」と話すと、浅野も「『ひょうきん族』や『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』といった、たけしさんが出ている番組を全部見てきた世代ですが、“お笑い将軍”のような人の前でお笑いをやらなきゃいけなかったのはやはり緊張しました」と告白。お笑い界のレジェンド、たけしとの共演にプレッシャーがあったと振り返る。
現場でも互いに「お笑いって難しいですね」と頭をひねりながら撮影に挑んだと打ち明け、最後は「笑いを知らない僕らだからいい部分がある」と前向きに解釈して演じきったという。
そんな中、大森は後半の撮影で、浅野と共に車の中で天井に頭をぶつけるシーンが印象深かったとし、「もう中堅俳優なんですけど、頭をぶつけるタイミングを浅野くんと一生懸命に合わせました。たけしさんが『もう一回やろう』と言ったのは唯一、あそこかと。その時の状況が結構おかしかったんです。俺達、一生懸命やっているなって」と笑うと、浅野も「あれはおかしかったですね~(笑)。結構本当にいろんなこと一生懸命やりましたね」とうなずいた。

大森「合言葉は『浅野くんの真似をしたらダメだ』でした」
インタビュー中、和気あいあいとした雰囲気で笑いが絶えない。若手時代から付き合いのある2人だが、大森は同世代の俳優にとって浅野が目標となる存在だったと明かす。
「浅野くんは僕らが売れようと頑張っていた時期にすでにトップにいた人です。ずっと変わらない距離のままで、近づけたかと思ったらもうアメリカに行ってました(笑)。人としてもすごくすてきな人だと思いますし、俳優として昔から全然ブレない。それが浅野くんの魅力です。僕ら世代の俳優の若い頃の合言葉は『浅野くんの真似をしたらダメだ』でした。みんなが目指すような存在でした」
一方の浅野は「たけしさんを守っているのは大森さん」と北野組に欠かせない俳優として大森を称賛。映画『首』で共演した時を回顧し、羽柴秀吉(ビートたけし)の弟・秀長に扮した大森について熱く語った。
「『首』の時、僕は黒田官兵衛を演じましたが、ほとんど大森さんが、たけしさんからのいろんな球を全部キャッチして演じていました。それは今回も同じです。本当は僕も協力しなきゃいけないんですけど、セリフが飛んだりしていたので(笑)」
浅野といえば昨年、米ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』でエミー賞とゴールデングローブ賞の助演男優賞を受賞するなど国際俳優として飛躍を遂げた。本作も日本の配信動画作品として初めて第81回ベネチア国際映画祭正式出品されるなど海外からも注目されている。
配信時代となり、映画やドラマが容易に届くようになった現在。大森は「たけしさんや浅野くんみたいな人が出てきて、少しずつ世界との距離が縮まってきてはいるのかなって考えたのが、もう10年くらい前です。僕は自ら積極的に海外に行っているわけではないですが、あれからどんどん垣根がなくなっていくので、(本作を含め今後も)楽しみです」と語り、「実際に海外に飛び立った浅野くんのインタビューになります」と隣の浅野にバトンを渡した。
浅野は「いやいや」と恐縮しつつ、「コロナ禍がやっぱり大きかったんだと思います」と配信作品が普及した理由を分析。「世界中が同じことでストップしたから、配信を見るようになったと思うんですよね。特に海外では、今まで字幕をつけて見る習慣がなかった人たちが、字幕が付いた作品を見るようになったと思うので、やっぱり可能性が広がりましたよね」と実感を込めた。
浅野の言葉に大森も「本当だね。それが受け入れられたのは『SHOGUN 将軍』のおかげです」と“バディー”に尊敬のまなざしを向け、「そこに挑戦した浅野さんってすごい」と感心した。

互いにバンド活動も…ライブを共にして「妙な安心感がある」
2人の共通点といえば音楽活動を行っていることも挙げられる。浅野は4人組バンド、SODA!で活動しており、大森は4年前に新バンド「大森南朋&THE OLD BLUE BANDITS」を立ち上げた。2人のアーティストぶりも話題になっている。
大森は「(浅野と)バンド活動でたまに一緒にすれ違ってもいました」と話し、「ライブはお客さんに向けて、ある意味自分たちを出さなきゃいけないので、ドラマや映画、舞台とは全然違った表現方法の一つの場所として生きているかもしれないです」と俳優業にも好影響をもたらしているとの見方を示した。
浅野もバンド活動が今作でも生かされた部分があると明かす。過去に中村獅童(獅童がボーカルを務めるバンド、高樹町ミサイルズ)と共に3人それぞれのバンドでライブイベントに出たことがあるといい、そういう貴重な体験が芝居をする上での信頼につながっている。
「そのライブにはたけしさんも見に来てくれました。いわゆる作品の現場だけじゃない、お付き合いがある人たちという意味で、僕の中では信頼関係がハッキリとあります。お芝居だけの関係だと『分からないかな』と思うことも、『あのステージで一緒に立ちましたもんね』と妙な安心感があるんです。だから大森さんに頼れるんだと思うんですよ。(本作でも)『何かあっても、きっとあのライブのノリでやってくれる』みたいな」
互いを信頼し、リスペクトする気持ちがひしひしと伝わってきた。2人の尊敬の念は北野監督にも向けられる。今回の異色作への出演について浅野が「もう本当に刺激しか受けていないです。たけしさんは思いついたことをすぐに形にされるので、ひょっとしたら僕ももっともっとできることがあるのかなと思います」と言えば、大森も「まさにその通りで、巨匠なのに若手のような感覚でアイデアが出てきます。その努力がすごいですし、こうやってお世話になってもずっと憧れていられます。近くにいさせてもらえて光栄でしかない」と78歳でも挑戦を続ける北野監督に脱帽し、感謝した。
もはや北野組の“要”ともなった浅野と大森。本作の“お笑い”と北野監督から受けた刺激を胸に、今後も進化し続ける。
□浅野忠信(あさの・ただのぶ)1973年11月27日、神奈川県出身。88年にTBS系連続ドラマ『3年B組金八先生3』で俳優デビュー。2003年、北野武監督の映画『座頭市』で日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。海外作品にも早くから出演し、07年に主演を務めた映画『モンゴル』が米アカデミー外国語映画賞にノミネート。13年にロックバンド・SODA!を結成し、ボーカルを担当。24年、米ドラマシリーズ『SHOGUN 将軍』で第82回ゴールデングローブ賞の日本人初となるテレビドラマ部門助演男優賞を受賞。179センチ。
□大森南朋(おおもり・なお)1972年2月19日、東京都出身。1996年のCM出演をきっかけに本格的に役者としての活動を開始。2001年『殺し屋1』で、主人公のイチを演じて映画初主演。2007年、NHK連続ドラマ『ハゲタカ』で主演を務めて『第32回エランドール賞』新人賞を受賞。09年の映画版『ハゲタカ』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。その後も俳優活動を続ける中、11年にロックバンド・月に吠える。を結成し、ボーカルとギターを担当(19年に活動停止)。21年、新たなバンド・大森南朋&THE OLD BLUE BANDITSを結成。178センチ。
Amazon Original映画『Broken Rage』概要
監督・脚本・編集:北野武
出演:ビートたけし
浅野忠信 大森南朋
仁科貴 宇野祥平 國本鍾建 馬場園梓 長谷川雅紀(錦鯉) 矢野聖人 佳久創 前田志良(ビコーン!) 秋山準 鈴木もぐら(空気階段)
劇団ひとり
白竜
中村獅童
音楽:清塚信也
製作:Amazon MGMスタジオ
制作プロダクション:北野エージェンシー
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作品ページ:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B0DSGFRB25
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猪俣創平
