人のまばらな野営地で、たき火を眺めながら夜を明かす。ソロキャンプという孤高の趣味に興じる人たちは、どんな経歴や過去を抱え、キャンプという趣味にたどり着いたのか。ブームが去った今もなお、キャンプを愛してやまない生粋のキャンパーたちをインタビュー。孤独の裏に隠されたその半生をひも解いていく。（取材・文＝佐藤佑輔）

　ミリタリー調のファッションと、スイス軍放出品の軍幕が目を引く50歳の男性キャンパーは、長く「損害保険調査員」という仕事に携わってきた、一風変わった経歴の持ち主だ。

「探偵業の一種で、簡単に言うと保険金詐欺を暴く仕事。大学を中退してフリーターや現場仕事ばかりやっていたとき、当時の結婚相手の父が警察OBで、こういう仕事があるからと紹介してもらいました。不法行為の賠償が専門で、いわゆる暴力団相手とか、危ない現場も結構あった。もっとしんどいのが、自殺の疑いのある人の調査。自死では保険金が支払われない場合もあるので、亡くなられた方のご遺族に、慎重に言葉を選びながらうそをついていないか確認していくんです。あまり人から理解を得られる仕事ではないですね」

　損害保険調査員としての経験を生かし、30代のときに賠償問題専門のコンサルタント会社に転職。現在はハラスメントや労災など、賠償請求を受けた企業向けのコンサル業務を行う。前職より収入は安定したものの、常に争いの中心にいる仕事で、精神的にすり減ることも多いという。

「世の中、なんでみんなそんなに争うのかなと。いろいろと難しい理屈を述べていても、結局本当の動機は単にお金が欲しいだったり、自分だけがよく思われたいという程度のことだったりします。『なんでそんなことで……』と思う反面、本人たちにとっては大事なことで、そう思ってしまう自分も当事者に寄り添えていないんじゃないかと嫌になる。もっと何かできたんじゃないかとグルグルした頭の中が、キャンプに来るとスッキリと整理されるんです」

　そう話す男性自身、過去には私生活を巡り争いの渦中にいた。仕事を紹介してくれた警察OBの父を持つ女性とは、結婚後1年あまりで離婚。1歳の誕生日を迎える前に別れた息子とは、以来、一度も顔を合わせていないという。

「決定的な理由があったわけではないですが、いろんなところですれ違いがあった。養育費が月2万円と、最初は慰謝料の分割も足して7万円くらいだったかな。20歳までは払うという約束で、5年ほど前にそれも払い終わっておしまい。連絡は一切取っていなくて、つい最近まで、生きているのか死んでいるのかも分からなかった」

　図らずも我が子の現在を知るきっかけとなったのはSNSだ。1年ほど前、ネット上で偶然元妻のアカウントを発見。思いがけず、すでに成人した息子の姿が目に入ってきた。

「20数年ぶりに見た顔は、もう誰だか分からなかった。懐かしいとか、悪いことをしたなとか、何の感情もなかったけど、ただただ衝撃はすごかったですね。離婚したばかりの頃、ラジオ番組に投稿した息子へのメッセージが採用されたことがあったんです。『困ったことがあったら、いつでも言うてきてほしい』って。実のところ、今はもうそういう感覚はあまりない。彼らの人生を邪魔することにしかならないので、僕から会いに行ったり、連絡を取ることもない。今の家族にも失礼ですしね」

　離婚と転職に伴い、関西から関東に転居したタイミングで知り合った女性と再婚。現在の妻との間の子どもは、この春中学生になる。5年前、キャンプデビューをした際のキャンプ場を勧めてくれたのも、今の妻だ。

「羽田空港が見えるキャンプ場で、頭の真上を飛行機が飛んでいくところ。実は、キャンプ歴は嫁の方が長いんです。もともと好きだったのはミリタリー。この軍幕はレアもので、20万円くらいするんですが、家には数千円の安いものも含めて100枚以上あります。これでも、嫁がちゃんと手綱を握ってくれてるからこの程度の出費で済んでいる。今の嫁さんと出会ってなければ、僕はとっくに死んでますよ」。自慢の軍幕の下、男性は誇らしげにそう結んだ。