「松本人志氏との関係に変化か」…吉本興業「新声明」の意図と「大阪・関西万博の影」
吉本興業は今月24日、「コーポレートガバナンスの強化等について」と題する声明を公式サイトで発表した。そこにはダウンタウン松本人志の性加害疑惑報道後、タレントら100人以上にヒアリングを行ったことが明かされていた。そして、この声明には「別の重要なポイント」もあるという。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説した。
元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説
吉本興業は今月24日、「コーポレートガバナンスの強化等について」と題する声明を公式サイトで発表した。そこにはダウンタウン松本人志の性加害疑惑報道後、タレントら100人以上にヒアリングを行ったことが明かされていた。そして、この声明には「別の重要なポイント」もあるという。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が解説した。
25歳人気女優のクルマ愛…免許はマニュアル取得、愛車はSUV(JAF Mate Onlineへ)
声明は約3000字。長文を読み進む中で、私はあることを感じた。
「吉本興業と松本人志氏の距離が、広がりつつあるのかもしれない」
松本氏を巡る週刊文春報道について吉本興業の対応が二転三転したことは周知の通りだ。最初の記事が掲載された昨年12月27日には「当該事実は一切ない」と宣言していた吉本興業が、今年1月24日の声明では「真摯に対応すべき問題であると認識しております」と一変。同社のガバナンス委員会からは、「事実確認をしっかり行った上で、何らかの形で会社としての説明責任を果たす必要がある」と指摘を受けていたことも明かした。
そして、今回の声明では、外部の弁護士を交えて文春報道に関係するタレントを含めた100人以上にヒアリングを行ったとした上で、次のような証言を公表した。
「不快な思いや精神的苦痛を受けた方がおられたのであれば申し訳ない」
このコメントはあくまで被害者が「おられたのであれば」という条件付きの謝罪なので、事実関係をはっきり認めたものとまでは言えない。しかし、何らかの性加害があったことを示唆するような証言を吉本興業が自ら明かしたのはこれが初めてだ。その内容は、文春側にとっては性加害報道の間接的な裏付けとなるかもしれない。今後、文春側は松本氏との裁判の中で、裁判所を通じてヒアリングの詳細を吉本興業に問い合わせ、証拠として利用しようとする可能性もある。一方、松本氏にとっては今回の声明は裁判に不利な材料となる恐れがあるものだ。
それなのになぜ今、吉本興業はこれを公表したのか。その答えは声明を読み進むうちに浮かび上がってきた。声明は3つの章に分かれており、第1章はコーポレートガバナンスについて、第2章が松本氏報道について、そして、最終章には次のようなタイトルが付けられている。
「2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)への取組み」
この中で吉本興業は、大阪・関西万博に企業パビリオン「よしもとwaraii myraii館」を出展し、「『いのち輝く未来』のため、笑いの新しい可能性を拡げていく」とアピールした上で、こう宣言している。
「これらの展示・コンテンツを全世界の方々に心から楽しんでいただくためにも、改めて、吉本興業グループ行動憲章をはじめ、様々な理念・方針等を遵守する必要性を再認識している次第です」
裁判の行方を決めるポイントの1つも「関係性」
今回の声明での松本氏問題に対する厳しい姿勢の背景には、この「大阪・関西万博に向けた宣言」が見えてきたのだった。
住友、三菱、NTT、パナソニックといったそうそうたる企業群と肩を並べて大阪・関西万博にパビリオンを出すことになった吉本興業は、近年、国や地方公共団体からの公的事業を次々と受注してきた。大阪市とは7年前から「包括提携協定」を結んで数多くのイベントなどを行っている。また、さまざまな官公庁の広報にもタレントを出演させるなどして、安定した売上をあげている。一方でこの「お笑い芸人の公務員化」とでもいうべき現象の下では、吉本興業にもタレントにも「コンプライアンスの遵守」と「不祥事を起こさないこと」が強く求められている。
公的事業や大阪万博を重視する中で、性加害疑惑が報じられた松本氏とは、功労者と言えども一定の距離を置く。「松本氏問題への反省」と「大阪・関西万博への熱意」が同時に並べられた今回の声明には、吉本興業のそうした考えがあるように思われた。
松本氏と文藝春秋社の裁判の次回期日は6月5日。ゆっくりと進む訴訟の中で、文藝春秋社、松本人志氏、吉本興業の三者の関係は今後どうなっていくのか。その行方は、裁判の勝負を決める大きなポイントの1つになるのかもしれない。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。