俳優の古川琴音（27）が映画『みなに幸あれ』（1月19日公開、下津優太監督）がホラー映画で初主演した。同作はKADOKAWAが主催する「第1回ホラー映画大賞」の大賞受賞作の映画化。NHK朝ドラ、大河ドラマも経験した若手俳優の現在地は？（取材・文＝平辻哲也）

　2018年にデビューし、映画やドラマに活躍。20年、NHK連続テレビ小説『エール』では主人公・古川裕一（窪田正孝）とヒロインの音（二階堂ふみ）の娘・華役、昨年は大河ドラマ『どうする家康』ではミステリアスな巫女・千代、綾瀬はるか主演のアクション映画『リボルバー・リリー』など話題作の出演が続いている古川。ホラー映画への主演は初めてになる。

「ホラーはいろいろと見てきましたが、アトラクションに近いようなイメージですかね。この台本はそういう怖さじゃないなと思ったのが新鮮で、演じてみたいと思いました。私自身は、ゾワッとする怖さの方が後を引くというか、そういう怖さの方が本物だと思うんです」

　演じるのは、田舎に住む祖父母に会いに行く看護学生の孫。祖父母との久々の再会で幸せな時間を過ごすが、どこかに違和感を覚える。この家には何かの気配があるが、祖父母たちは平然としている。その気配の正体とは……。その役に名前はない。

「孫という役には普遍性があるように思えました。個人の話というよりも、もっと一般的な話だと思っていたので、私自身が怖いと思うことに怖がって、驚けば、この役は成り立つだろうなと思っていました」

　Jホラーの多くは霊的な存在の恐ろしさを描いてきたが、本作は違う。監督の下津氏はYouTube上の動画で「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」という“法則”の存在を知り、この物語を発想した。

「最初に聞いた時は本当にイヤなこと言うなぁと思いました。多分、事実だと思うんですよね。それを『あなたは見ないようにしているよね』と言われたような気もしたので、はっきり言わないでください、という思いでした」

　正義感の強い孫は、親世代が脈々と受け継いでいる村に続いている風習のようなものに反発し、事態をよくしようと奔走するが、返って状況は悪化し、揺らいでいく。

「親から『大人になるには、こういう現実も受け入れないといけないよ』と言われた時、自分はそこまでして、大人になりたいのか、そうしないと、大人にはなれないのか』と悩むと思うんです。演じる上では、そんな葛藤を軸に演じようと思っていました。私は、そんなに強い人間ではないので、受け入れてしまうかもしれません」

　撮影は22年11月に主に福岡県田川郡赤村でロケ。霊界案内人のぼたんを演じたNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』と近い時期だったという。

「現場は若いスタッフさんが多く、みなさん仲がよくて、常に活気がありました。監督が撮りたいものを肌感としてわかっている方が多くて、映画の未来を感じるような気がしました」

　下津監督からは時にサプライズ演出もあった。

「劇中にカーテンをめくるシーンがあるのですが、その奥に何があるか教えてもらえなかったんですよ。本番になるまでわからないように徹底していたので、本番が本当に怖くて、何があるのか認識するよりも早く思わず声が出ました。お芝居というより、半分ドキュメンタリーのような感じだったんです」

　映画は8つ以上の海外映画祭から招待を受け、7月の韓国・プチョン国際ファンタスティック映画祭では「最優秀アジア映画賞」を受賞したほか、10月には世界的なシッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭のコンペティション部門にも招待された。

「監督からは、観客がすごく熱狂していたという話を聴きました。見ている間にも声が上がったり、観終わった後も感想を言ってくれたりしたそうで、日本とは違う捉え方をされたり、違う楽しみ方をされているんだろうなと思い、その違いが面白いなと思いました」

　デビュー6年目。柔らかな雰囲気と独特な喋り方が受け入れられ、NHKの看板である朝ドラ、大河ドラマに出演、全世界配信のNetflixシリーズ『幽☆遊☆白書』ではメインキャストも務めた個性派は自身の現在地をどう見ているのか。

「私自身は、デビューした時とはあまり気持ちの面での違いはないんです。作品もそれぞれカラーが全く違うので、毎回新鮮な気持ちでできている部分も大きいんですけど、最近では規模感が大きな作品にも参加する機会が増えてきたな、と思うことはあります。特に去年は『幽☆遊☆白書』や『リボルバー・リリー』で、大々的な宣伝イベントがあったので、撮った後に、こんな大きな作品だったんだ、と実感しました」

『みなに幸あれ』は、ホラー映画という新境地。「私にとっても、チャレンジだったのですが、監督も初めての長編でしたし、共演者のみなさんも手探り状態でした。何もかもが生まれたての赤ちゃんのような現場で、自分がそこに加われて、いろんな話をしながら、みんなで作り上げてきた現場という気がしました」と話した。

■古川琴音（ふるかわ・ことね）1996年10月25日生まれ、神奈川県出身。2018年にデビュー。NHK特集ドラマ『アイドル』 (22年/NHK)、連続テレビ小説『エール』 (20年/NHK)、大河ドラマ「どうする家康」（23年/NHK）、「コントが始まる」 (21年/日本テレビ)や、映画『十二人の死にたい子どもたち』 (19年/堤幸彦監督)、『偶然と想像』 (21年/濱口竜介監督)、『今夜、世界からこの恋が消えても』 (22年/三木孝浩監督)、『スクロール』 (23年/清水康彦監督)など。24年公開待機作に『雨降って、ジ・エンド。』(高橋泉監督)、『言えない秘密』（河合勇人監督）がある。

スタイリング：藤井牧子
ヘアメイク：伏屋陽子（ESPER）
黒ドレス 9万9000円　ブーツ 16万5000円（税込み）
／sacai

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