【どうする家康】脚本家・古沢良太氏が見た“松本家康“ 前半のダメダメ家康も「評価してあげて」

松本潤が主人公・徳川家康を演じるNHKの大河ドラマ『どうする家康』(日曜午後8時)の脚本を手掛ける古沢良太氏が取材に応じ、大坂の陣を描くにあたって込めた思いや作品全体を通して家康をどういう人物に描こうと思っていたのか、さらに松本が演じる家康をどんな思いで見ていたのかなどを明かした。

徳川家康を演じる松本潤【写真:(C)NHK】
徳川家康を演じる松本潤【写真:(C)NHK】

脚本家が明かす家康や作品に込めた思い

 松本潤が主人公・徳川家康を演じるNHKの大河ドラマ『どうする家康』(日曜午後8時)の脚本を手掛ける古沢良太氏が取材に応じ、大坂の陣を描くにあたって込めた思いや作品全体を通して家康をどういう人物に描こうと思っていたのか、さらに松本が演じる家康をどんな思いで見ていたのかなどを明かした。

 まずは大坂の陣に込めた思いを紹介した。

「家康が戦に明け暮れた人生からやっと解放される戦ですが、家康にとっては決して晴れやかなものではなく、それと引き換えに家康にとって大事なものを捨てて、苦い物を飲み込んで成し遂げた戦。平和を成す代わりに家康個人の幸せを捨てたという描き方をしたいと思っていました」

 過去にも大河ドラマで家康を主軸に描いた作品があるが、今回の『どうする家康』では家康をどういう人物として描こうと考えたのか。

「偉人伝としての家康とか日本の歴史上の重要な人物としての家康は今まで十分に描き尽くされていますし、歴史の年表ドラマを作る気もありませんでしたので、僕は一人の普通の子がどうやってこの乱世を生き抜いていったかという物語にしたかったんです。そうすると自然と、日本史上の大事な出来事と家康の私人としての人生で大事な出来事は、おのずと違ってきます。一私人としての家康の人生をどう魅力的に描くかというと、やはり、家臣たちとの絆や家族との物語であったりということが大事だろうなと考えました。なるべくそっちを重点的に描きたいと思いました」

 ここで信長や秀吉、信玄を例により分かりやすく説明してくれた。

「たとえば信長や秀吉、信玄といったいろんなスターが登場しますが、彼らはみんなある意味、一代で隆盛を築いて、跡継ぎに継承する時に失敗して力を失ったりして家康だけが成功します。なぜ家康だけが成功したのかを考えると、いろんな見方があるんでしょうけど、僕は家康だけが天才ではなかったと思っているんです。信長も秀吉も信玄もすごい天才だったとすると、天才は天才にしか運営できない仕組みを作ってしまうから継承できない。家康は多分、そういう人ではなく、普通の人だったから、普通の人が運営できる仕組みを作っていった。だから秀忠に徳川家を継がせ、それが続いていったのだろうと僕なりに解釈しました。すると家康は天才でも何でもない、むしろ軟弱でか弱い凡人として描くのが多分、新しいだろうと思い、このドラマのテーマになると考えました。そこからスタートしました。家康の人生は艱難辛苦の連続。それを経ていく過程で変貌することをやりたいと思いました」

 松本潤の演じる家康をどんな思いで見ていたのだろう。

「最初に全48回の構成を作って松本さんにも見ていただきました。松本さんはそれをすごく熱心に読み込んで、どこでどう変化していくのがいいのかを、すごくまじめに考えて、しかも、第1回から順番に撮影するわけではない中で、最初から非常に繊細に家康像の段階のようなものを自分の中で計算しながら現場に入ってきたなという印象があります。すごくまじめで繊細に役を作っていらっしゃったなと」

 始まる前の構想から終わるまでに想定外に成長したようなキャラクターはいるだろうか。

「すべてのキャラクターを計算ずくで書いていたわけではなく、書きながらこの人はこの場面でどんな言動をするかと考えながらやっていましたので、最終的にはどのキャラクターも想像を超えるような働きをしていると思います。でも、やっぱり誰か一人を挙げるとすれば、家康かなと。最後にたどり着く家康の境地は書きながら見つかったことなので。自分の中では想像してなかった所にたどり着いたなという感じがありました」

 大河ドラマの脚本を手掛けるやりがいにも言及。

「こんなに長いドラマを書かせてもらう場はここしかないので……。民放のドラマは10話前後ですので、もっとこの辺を掘ったら面白くなるのにな、と書きながらスピンオフ的な話も思いついたりしますが、できないなと思いながら終わる中、48話もあったらいろんなことができるなと思いました。今まで描かれてこなかったことにもイメージを膨らませ、歴史に残ってないことの方が面白く書けますから、楽しんでかけたのが面白かったところです。それをやり過ぎた感もあるかも(笑)。1人の人生を最初から最後まで描けるのはありがたい場だなと思います」

 松本と話して刺激を受けたのか。

「刺激というか、非常にまじめな方なので……。3回くらいですが、家康が変化していくタイミングでそこを確認したいということで、『こういうふうに変わることを考えています』というのをお話しし、彼は基本、それをまじめに聞いてという場でしたが、話しながら僕もまとまってくる感じでした」

 ムロツヨシが演じた秀吉についてはどう見ていたのか。

「最後の方の撮影の際、現場に行ってムロさんにお会いした際、感想を何も言っていないと気付き『秀吉、最高でした』と言ったら『怖くて聞けなかったんですよ』と言っていました。秀吉はモンスターだと思うんですけど、得たいのしれないバイタリティーと誰の懐にも入っていく厚かましさ。でも結局何を考えているか分からない恐ろしさ。それはなかなか台本で表現できないのですが、ムロさんの演技でちゃんと表現してくださったなと思っていてすごく感謝しています」

情けなく頼りなかった序盤の家康

 家康は序盤、情けなく頼りない人物だった。松本が演じるそんな家康をどう見ていたのか。

「松本さんは最初から振り切ってダメダメな感じをやってくださいました。後半の貫禄のある家康についてはみんな褒めてくださっていると思いますが、僕からしたら前半のダメダメな家康をあそこまで振り切ってやることの方が多分、彼にとっては難しいことであったのではと思います。もっとあっちも評価してあげてほしいと思います。前半の松本さんは素晴らしかったと思います」

 史実にない部分に想像を膨らませ新たな家康像作りを心掛けてきたという。脚本を書き終えた今、この作品にたずさわる前に思っていた家康と違う人物に描けたのだろうか。印象の変化を聞いた。

「最後の撮影の時に松本さんと話したら『家康って、かわいそうですね』と言っていました。演じていて『この人、すごくかわいそうだ』と。僕もここまでかわいそうな人になるとは思っていませんでした(笑)。天下を取ってかわいそうと思われる家康は今までなかったのではないでしょうか。そういう意味では、自分も思っていた以上に新しい家康像になったと思います。そういうふうに感じてくれる人が多ければ幸せです」

 この作品の家康を人としては好きか。

「このドラマの家康は好きです」

 納得のいく家康像になったのか。

「大きなチャレンジでしたが、やりきったなと自分では思います」

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