56歳・紅白35回目出場の坂本冬美、YouTubeで新境地「チャレンジすることが大事です(笑)」
歌手生活37年目の坂本冬美(56)が、今年も充実の年末を迎える。大みそか恒例の『第74回NHK紅白歌合戦』は、21年連続35回目の出場。12月4日には、東京・六本木のEXシアター六本木開業10周年記念コンサートを“演歌代表”として行う。昨年6月の母(享年77)に続き、今年8月に弟(享年55)が死去。辛い状況で坂本は殻を破り、前進し続けている。どんな時も、「ケセラセラ」(どうにかなるさ)で前を向く。2回のインタビューで、そのマインドに迫る。前編のテーマは「仕事」。
インタビュー前編『仕事』 12月4日には“演歌代表”で記念コンサート
歌手生活37年目の坂本冬美(56)が、今年も充実の年末を迎える。大みそか恒例の『第74回NHK紅白歌合戦』は、21年連続35回目の出場。12月4日には、東京・六本木のEXシアター六本木開業10周年記念コンサートを“演歌代表”として行う。昨年6月の母(享年77)に続き、今年8月に弟(享年55)が死去。辛い状況で坂本は殻を破り、前進し続けている。どんな時も、「ケセラセラ」(どうにかなるさ)で前を向く。2回のインタビューで、そのマインドに迫る。前編のテーマは「仕事」。(取材・文=笹森文彦)
11月13日に、第74回NHK紅白歌合戦の出場者が発表された。坂本は全出場者の中で、石川さゆり(46回目)、郷ひろみ(36回目)に次ぐ21年連続35回目の出場を決めた。
「デビュー2年目から、(体調問題などで)休業した年(2002年)以外は全部出させていただいています。昭和、平成、令和と出させていただけて、本当に幸せです。(紅白は)やはり、特別です。ただの歌番組じゃなくて、日本最大のイベント、お祭りと思います」
屈指の紅白常連となり、現場ではさまざまなアーティストから「よろしくお願いします」とあいさつされる立場と想像するが…。
「とんでもない! 私もどなたがどなたか分からなかったりするので、『この方があの方かしら』って(笑)、今でもドキドキしますよ」
紅白以外にも“選ばれた”コンサートを12月4日に行う。EXシアター六本木開業10周年記念コンサートだ。同シアターは都心の上質なエンターテインメント空間として、13年11月30日に開業。その10周年を記念して、Da-iCE、押尾コータロー、Cher、奥田民生、中村雅俊らが日替わりでコンサートを行う。坂本は唯一の演歌歌手として登場する。
「とても光栄です。どこのステージでも同じ気持ちで立っていますが、実は都心でのコンサートは7年ぶりなんです。30周年でNHKホール(東京・渋谷)でやって以来です。(都心の)明治座などで1か月の劇場公演をやっているので、コンサートはどうしても郊外が多くなってしまうんです。久々に、東京のど真ん中のお客さまが、どう受けてくださるか楽しみです」
多忙な年末となるが、仕事は順調で多くの新たな出会いや再会を重ねている。22年9月末からの明治座では中村雅俊と、今年2月の大阪・新歌舞伎座では中村梅雀と共演した。ドラマでも、4月にTBS系『ひとりぼっち―人と人をつなぐ愛の物語―』で、嵐の相葉雅紀と共演した。
「昨秋から春にかけて、お芝居で今までご縁のなかった方々とご一緒させていただきました。とても素晴らしい経験でした」
感激の再会もあった。歌手デビュー60周年を迎えた吉永小百合の「60周年記念BOX~星よりひそかに 雨よりやさしく~」(3月13日発売)で、吉永とコラボできたのだ。名作の「夢千代日記」を吉永の語りと、坂本の歌唱で収録した。21年のテレビ番組で行った同様の企画が好評で、あらためて新録した。
「私にとっては天から降ってきたようなお話で、数ある歌い手さんの中で、しかもレコード会社も違うのに声をかけてくださって。あの吉永小百合さんですよ! そう考えると、私は本当に恵まれた歌手だなって思います」
順調な仕事ぶりは、新曲の発売タイミングにも現れた。新曲『再会酒場』(作詞・吉田旺、作曲・徳久広司、編曲・南郷達也)を5月10日に発売した。その2日前に、新型コロナウイルス感染症の感染法分類が、「2類」から「5類」に引き下げられたのだ。同曲は『男の火祭り』(13年)以来10年ぶりの男唄で、酒場での久々の再会を歌い上げる。歌い出しは「明けて巣籠もり」。3年間のコロナ禍から解き放たれた開放感が伝わる。低迷した飲食業界と日本への応援歌にも聞こえる。
「実はこの曲は2年前にはもうあったんです。ただ、(巣籠もりは)まだ明けないだろうと、温めておいたんです。でも、5類引き下げのタイミングを狙って発売したのではなく、その前にこの辺で発売しようと決めていました。結果的にナイスタイミングでした」
コロナ禍で始めたYouTubeも、歌だけでなく、コミカルな素の坂本冬美が見られると好評だ。
「いや~。普段いかに自分が格好付けているか、バレてしまいましたけど(笑)。今まで演歌の坂本冬美と一切触れる機会のなかった方が、YouTubeを通して知ってくださって、『生の歌を聴きたい』と思っていただいたりしています。時代を拒むのではなく、チャレンジすることが大事なんですね。どこに扉があるか分かりませんから(笑)」
確かに、坂本はいくつもの扉を開けて、自らの殻を破ってきた。忌野清志郎さん、細野晴臣で結成した「HIS」で、セーラー服姿でロックを歌った。斬新な曲調と歌詞に「坂本冬美を殺す気か!」とまで酷評された『夜桜お七』は、いまや代表曲である。『また君に恋してる』は配信という形から大ヒットし、高校生にも支持された。坂本の新たな引き出しとなった。
近年では、桑田佳祐が坂本に提供した『ブッダのように私は死んだ』(20年)が鮮烈だった。坂本はデビュー前からサザンオールスターズの大ファン。18年の紅白で初めて共演できた際に、「曲を書いてほしい」という熱い思いを手紙にして、関係者に託した。スタッフは「絶対無理」と言ったが、思いは伝わった。桑田は坂本を主人公とした「歌謡サスペンス劇場」として、『ブッダ―』を制作した。歌い出しは「目を覚ませばそこは土の中」。桑田ならではの世界観で、坂本の心の奥底に潜んでいた情念をも引き出した。
「振り返ると、私はとても人との出会いに恵まれていたと思うんです。(デビュー曲『あばれ太鼓』などの)恩師の猪俣公章先生。忌野清志郎さん。『夜桜お七』を作曲された三木たかし先生。休業中に激励してくれた二葉百合子先生。そして、桑田さんに曲をいただいた時には、人になんと言われようと、『私はこの歌を歌いたい。そのためにはなんだってできる』と思いました」
数々の出会いの中で、坂本は殻を破って来た。その一方で、別れも坂本を強くした。昨年6月に母、今年8月に弟を亡くした。順風な仕事の裏には、悲しみを乗り越えた強さもあった。
続きはインタビュー「後編」で。
□坂本冬美(さかもと・ふゆみ) 1967年3月30日、和歌山県生まれ。中学、高校時代はソフトボール部の捕手で主将。86年にNHK『勝ち抜き歌謡天国』で名人となり、猪俣公章氏の内弟子に。87年『あばれ太鼓』でデビュー。第29回日本レコード大賞などの新人賞を受賞。88年に『祝い酒』がヒットし、昭和最後の第39回NHK紅白歌合戦に初出場。91年に『火の国の女』で第33回日本レコード大賞で最優秀歌唱賞を受賞。同年、細野晴臣、忌野清志郎とHISを結成。96年の第47回紅白では『夜桜お七』で初の紅組トリ。父の死去や膵炎(すいえん)などで心労が重なり、デビュー15周年の02年に1年間歌手を休養。09年『また君に恋してる』が大ヒット。他の代表作は『男の情話』『能登はいらんかいね』など。資格は全朱連2級、朱学連準1級、簿記3級、英検3級。梅干しにこだわりを持つ。血液型O。