青木真也、当事者として考えるドーピング問題 「絶対にやらない自信はない」と語る理由

9月2日に行われた元K-1ファイター・木村ミノルの“ドーピング記者会見”。以前から疑惑をかけられていた木村の「陽性」が確認されると、たちまちその事実はニュースになった。ネット上には「絶対許せない」「同じ土俵に乗せるな!」など批判一色に。格闘家からも怒りの声が相次いだ。プロ格闘家として20年生きてきた青木真也に“ドーピング問題”について聞いた。

選手が何も考えずに木村叩きする現状に違和感を覚えた青木真也【写真:山口比佐夫】
選手が何も考えずに木村叩きする現状に違和感を覚えた青木真也【写真:山口比佐夫】

木村叩きに「ジャニーズ問題と一緒」と指摘

 9月2日に行われた元K-1ファイター・木村ミノルの“ドーピング記者会見”。以前から疑惑をかけられていた木村の「陽性」が確認されると、たちまちその事実はニュースになった。ネット上には「絶対許せない」「同じ土俵に乗せるな!」など批判一色に。格闘家からも怒りの声が相次いだ。プロ格闘家として20年生きてきた青木真也に“ドーピング問題”について聞いた。(取材・文=島田将斗)

 袋叩きの雰囲気に首を傾げている。まるで対岸の火事かのように批判をしている格闘家にも違和感を覚えていた。

「木村のやつみんな知ってたんだよ? みんな知ってたのに陽性の結果が出てから『あいつは嘘つきだ』『最低だ』って。ジャニーズ問題と一緒じゃん。すごい似てる構図じゃん。やってたのを知ってるやつが、このタイミングで批判しているのは自分の人気取りで、すごくイヤらしいと思う。あれをやっている以上、根本的な解決にはならないですよね」

 一見、世間とは反対に見える青木の意見には「逆張り」「擁護」の声が上がっていた。しかし、プロ格闘家として20年間戦っている青木はドーピング問題を“当事者”として受け止めていた。

「だってさ、20年間プロ格闘家をやっていて『やってんな』ってやついるもん。『こいつずるしてるじゃん』って思うことあるよ。でもそれを俺、言ったことある?」と苦笑い。

 PRIDE、DREAM、そしてONE。MMAでは58戦を経験してきた。ドーピングのにおいのする選手とも対峙(たいじ)した。なぜ声を大にして言わなかったのかと問われれば「ダサいから」と青木らしい。そういう相手がいるのは当たり前で、その上で戦う姿を見せてきた。だからこそ、この雰囲気には違和感がある。

「選手までが今回、叩いてるじゃん。彼だけを怪しいから民意でドーピングチェックさせるのもいじめの構造に近い。プロを20年間やってれば、ドーピングしてるやつがいるのも分かる。もっと踏み込むと正直自分自身が絶対にやらない自信ってないと思うんだよね。

 例えば10人いて、そのなかの8人がドーピングしています。残り2人は使わなくて負けるってあり得ないじゃん。リング上は一緒なんだもの。アリスター(オーフレイム)がそうじゃん。小さくて自分が勝てないから、『みんな使ってるなら、俺もやるよ』っていうスタンスなのよ」

 ファイターだからこそ使ってしまう人間の気持ちが分かる。「陽性」だった木村は使用の理由を「いつ試合ができるか分からない状態で、状態をいいものに保つために」と説明していた。

 ではなぜ青木は手を出さなかったのか。一呼吸いれ、過去を思い返すようにこう口にした。

「俺がやらなかったのは倫理観。『なぜ格闘技をやっているのか』ということも含めてやらなかったし、比較的そういう環境になかった」

 使用するのは個人の判断だが、周囲の環境でも変わってくると推測する。昨今の格闘技界では海外で練習する選手も増えているからこそ、警鐘を鳴らす。

「今回の陽性会見をみんなが叩いてる。誰かが薬を使いだしたら、みんなやり出すから。何も考えずに叩いている人は赤信号みんなで渡れば怖くないんだもん。この問題は本当に断れるのかっていうリスクから考えた方がいいと思う」

「やり直しができる社会が良い」と青木。昨年、格闘技エンターテインメント「BreakingDown」の是非が問われた際には「やんちゃな子を排除したら居場所がない」と指摘。なぜそう思うのか。

「それは僕が子どものころから排除されてきた側の人だから。失敗しても絶対やり直せないとなると……。俺が格闘技をなぜ好きだったかと言うと社会からあふれた人の最後のザルだったと思うんですよ。

 でも今はそれ(格闘技)すらも正論を吐くようになってしまった。社会で排除されてしまうやつはどうするんだよって。救いがないですよね。基本的にやり直しができないと、挑戦もできなくなるし、いいものもできなくなると思うんですよね」

 ドーピング問題の本質とは何なのか。

「最終的にはたぶん、なくならない。それは交通違反がなくならないのと一緒です。どんなに厳罰化しても悪いことをするやつはいる。抑止としてサスペンションだったり検査確認は必要だけども、究極を言ってしまうと、それすらもイタチごっこ。政治的に上手く根回しする人もいる。ズルするやつはいろんな方法でズルをします。だから結局は個人の倫理でしかない。性善説に任せるしかない」

 このインタビューの数日後に当事者である木村は、格闘技イベント「RIZIN.44」の会場で因縁の安保瑠輝也にリング上から挑発されるとTシャツを脱ぎ捨てマッスルポーズ。さらには中指も立てるという前代未聞の行為に走り、炎上した。

「本当に断れるのか」――。“ドーピング問題”のみならず、さまざまな事象にも置き換えられそうだ。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください