カラスの生食は「極めて危険」 カラス研究の権威が警鐘「未知の病原体が潜んでいる可能性も」

東京新聞が今月7日に掲載したカラス肉の生食文化を紹介する記事をめぐり、食中毒や寄生虫、感染症の懸念から「まねをする人が出たら大変」「無責任だ」と批判の声が相次いでいる。8日には厚生労働省の公式ツイッターアカウントも「シカ、イノシシ等の野獣やカモ、カラス等の野鳥は病原体を保有している可能性があり、その肉や内臓を生食することは非常に危険です」と注意喚起。カラスの生食はどれほど危険なのか。カラス研究の第一人者で実際にカラスを食したこともある東京大学総合研究博物館特任准教授の松原始氏に聞いた。

野性のカラスを捕まえて刺身で食べる生食文化を紹介(写真はイメージ)【写真:写真AC】
野性のカラスを捕まえて刺身で食べる生食文化を紹介(写真はイメージ)【写真:写真AC】

生食への注意に触れつつ、「そうは言っても、想像以上に魅力的」と絶賛

 東京新聞が今月7日に掲載したカラス肉の生食文化を紹介する記事をめぐり、食中毒や寄生虫、感染症の懸念から「まねをする人が出たら大変」「無責任だ」と批判の声が相次いでいる。8日には厚生労働省の公式ツイッターアカウントも「シカ、イノシシ等の野獣やカモ、カラス等の野鳥は病原体を保有している可能性があり、その肉や内臓を生食することは非常に危険です」と注意喚起。カラスの生食はどれほど危険なのか。カラス研究の第一人者で実際にカラスを食したこともある東京大学総合研究博物館特任准教授の松原始氏に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 問題の記事は7日、「<突撃イバラキ>カラス肉の生食文化 究極のジビエに挑戦」というタイトルで東京新聞の首都圏ニュース茨城版に掲載。茨城県内の一部地域に伝わる食文化として、記者が「カラス料理愛好家の集い」に参加する体験記となっている。記事では、カラスの「ムネ肉の刺し身(しょうゆ漬け)」を食レポし、「さっぱりしていて食べやすい」など参加者の声を紹介。「心配だったおなかの具合は、翌日まで何ともなかった」ともつづられている。

 記事後半では、カラス肉の扱いについて県の担当部署に確認したところ、生食について生活衛生課の担当者から「食中毒のリスクはかなりある。禁止されているわけではないが、控えてほしい」とくぎを刺されたこと、カラス料理研究家・塚原直樹氏の著書「本当に美味(おい)しいカラス料理の本」(SPP出版)の中でも「生食は絶対にやめましょう」と書いてあることに触れつつ、「そうは言っても、カラスの刺し身は想像以上に魅力的だった。牛肉のユッケや『とりわさ』のように商業ベースに載せるのはハードルが高いだろうが、この貴重な食文化がゲテモノ扱いされたまま先細ってしまうのはあまりにも惜しい」「食べ物への偏見は差別につながる。偏見をなくすことが世界平和につながるんです」といった記者の主観や参加者の声で締められている。

 カラスを食べる文化は国内外にどの程度あるのだろうか。松原氏によると、決して多くはないものの、記事にあった茨城の他にも長野の一部でカラスを食べる風習が残っているという。

「食べるといっても非常にローカルな食文化で、猟師が獲れたカラスをもったいないからと食べていたようなもの。『ろうそく焼き』といって、みそやネギなど薬味を大量に入れたたいたつくねのようなもので、限りなく臭みを取った調理法です。フレンチではカラスのローストというジビエ料理もあります」

 松原氏自身、研究中に自然死したハシボソガラスを加熱して食したことがあるといい、気になる味については「噛み応えはハツ、匂いは血抜きに失敗したレバー、味は脂のない固い牛肉のような感じで、ミオグロビンの含有量が多いため焼けば焼くほどレバーのような風味が濃くなる。お世辞にもあんまりおいしいものではありません」。

 それでも、十分な加熱処理さえしていれば衛生上は問題ないというが、問題の生食については「今やきちんと人工管理されたニワトリでさえ生食は禁止。カンピロバクター、O-157、鳥インフルエンザといったウイルスだけでなく、野性動物には未知の病原体が潜んでいる可能性もあり、最悪死ぬことだって十分ある。極めて危険で、絶対にやめた方がいい」と断言する。

「数年前に別の新聞社が茨城のカラス食を記事にした際、県民から『カラスなんか食べない』という猛抗議が寄せられたということがあって、今回の東京新聞の記事はいわばその深堀とも言えるもの。法的には自己責任で自家消費する分には問題はありません。ただ、『翌日は何ともなかった』とか、食文化差別と絡めた言い訳がましい記事の書き方は不適切ではないでしょうか。特に生食は、ごく一部の猟師が獲れたものを食べていただけで、食文化と呼べるほどのものではありません」

 記事の影響の大きさを考えればこそ、無責任なジビエ信仰や生食擁護は控えた方が良さそうだ。

次のページへ (2/2) 【画像】カラスの生食に注意喚起を促す厚生労働省公式ツイッターの投稿
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