閃光の勇士“flash brave”安齊勇馬はとてつもない逸材だった。数年後には、全日本プロレスのみならず日本マット界を背負って立っているに違いない。

　正統派イケメン、188センチの長身、逆三角形の体格……まさに、プロレスラーになるために生まれてきた男。恵まれた体躯は背中から見ると、若き日のアントニオ猪木さんのようだ。

「馬場さんも猪木さんも、YouTubeの映像で拝見している」と、先輩へのリスペクトを持ち神妙な顔。1999年生まれの若者が目指すのは、中大から全日本入りした先輩・ジャンボ鶴田さんだという。

　鶴田さんは2000年5月13日に亡くなったが、安齊はその前年99年5月15日生まれ。1歳の誕生日を迎えていなかった。「中学生の時、深夜のプロレス中継番組で初めて、プロレスを知った。偉大な先輩たちのことを、それから色々と勉強した」と、屈託なく笑った。

　初めてのプロレス体験は、オカダ・カズチカVSカール・アンダーソンの第22回G1クライマックス決勝（2012年）だった。「あんなに大きな選手がとんでもないスピードで、びっくりする動きをしていた。衝撃だった。格好良かった」と振り返る。

　野球、サッカーと球技に取り組んでいたが、高校、中大とレスリングに打ち込み、22年に全日本入り。50周年メモリアル記念9・18日本武道館大会でデビューした。

　プロ初戦の相手は新日本プロレスの永田裕志だった。その後も鈴木みのるなど1年目の選手とは思えない大物たちと対戦。暮れの世界最強タッグリーグ戦にも永田とのコンビで出場するなど、異例のルーキーイヤーを過ごしている。

　並の選手なら数年かかるところを、たった半年で体験したとはいえ「入門した当初は、皆さんの練習についていけなかった。プロってこんなにスゴイんだと、ちょっと落ち込んだ」と決して平坦な道のりではなかった。

　セコンドとしてリングを見上げながら、先輩たちのファイトだけでなくマイクアピールにも注目。「会場の視線を独占して、ファンの人たちを魅了する。もちろん、僕なんてまだまだですが、決め台詞もいつかは」と目を輝かせる。

　決め台詞の披露は夢のタイトル奪取を果たした時になりそうだ。「ベルトを巻きたい。3冠ベルトが最大の目標だけど、タッグも狙う。とにかく王者になりたい」と力説する。

「最強タッグ戦で諏訪魔さんからフォールを取れた。僕の力だけではないけど、気持ち良かった。永田さんに促されて、トップロープに駆け上がって雄叫びを上げた。最高でした」と興奮冷めやらぬ表情だ。

　ベルト獲得に加えて海外遠征にも憧れている。レスリング時代、コロナ禍もあって国際大会参加の機会に恵まれなかった。「他団体の外国人選手の映像もチェックしている。海外の大会の空気感もたまらない。あの中に入ったら……と思うとワクワクする」と熱い。

　礼儀正しく素直な性格で、接触した他団体の先輩たちからもすこぶる評判が良い。「もっと体も大きくなると思う。安齊くんには頑張ってほしい。そしていつか対戦したい」と注目を集めている。なおも「全日本は素晴らしい選手を得た。うちも負けずに若手の育成を頑張らないと」とポツリ。どうやら“安齊ショック”は日本プロレス界全体に波及している。

「端正な顔立ちなのに気取りもなく真っ直ぐ伸びた若竹のよう。体格だけでなく心も素晴らしい」と、安齊に会った人はその人柄を絶賛する。中には「若侍のようだ。まさに若様」と評する者もいる。キャリアを積んで、その人間力にプロレス経験値が加われば、まさに鬼に金棒だろう。

　2月26日には凱旋興行も控えている。群馬県安中市の出身だが、同県の日本トーターグリーンドーム前橋 サブイベントエリア大会が決定。家族、友人らが応援に駆けつけてくれる。

　親類も集まってファミリー麻雀大会を楽しむなど、一族の結束も固い。マンガ好きで、今のキャッチフレーズは「千のコミックを持つ男」の安齊だが「令和のミスタープロレス」になる日も近い。

「リング上は過去も現在も、たくさんのスターが輝くところ。僕もそこで輝きたい。目指すは未来の一番です」と力強く前を向く。その成長が楽しみだ。