21歳注目のシンガー・由薫の原点 スイスの田舎町で出会った「サウンドオブミュージック」

現在公開中の話題の映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビューを果たした21歳のシンガーソングライター・由薫(ゆうか)。海外で幼少期を過ごしたグローバルな経験とネイティブな語学を武器に17歳で作詞作曲を開始してからわずか5年足らずの大抜擢。透明感のある歌声と想像力豊かな楽曲の世界観に音楽ファンの間でも注目が集まっている。ベールに包まれた彼女の素顔に迫った。

ベールに包まれた由薫の素顔に迫った【写真:舛元清香】
ベールに包まれた由薫の素顔に迫った【写真:舛元清香】

由薫インタビュー、映画「バスカヴィル家の犬」で主題歌「lullaby」

 現在公開中の話題の映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビューを果たした21歳のシンガーソングライター・由薫(ゆうか)。海外で幼少期を過ごしたグローバルな経験とネイティブな語学を武器に17歳で作詞作曲を開始してからわずか5年足らずの大抜擢。透明感のある歌声と想像力豊かな楽曲の世界観に音楽ファンの間でも注目が集まっている。ベールに包まれた彼女の素顔に迫った。(取材・文=福嶋剛)

「つい最近までステージに立つと足も体もガクガクでギターを弾く指もブルブル震えていました」

 ロングヘアーをなびかせながら颯爽と取材現場に現れた由薫。ギターを担いだその姿には早くも自信に満ちたオーラを感じたが、彼女の口からは意外な答えが返ってきた。

「19歳でライブ活動を始めたんですが、それまでは人前で演奏するといつも緊張していました。本当に最近ちょっとずつ慣れてきたという感じです」

 由薫は祖父の実家・沖縄県で2000年に生まれ、2歳から8歳までアメリカとスイスで生活した。彼女の今につながる原点を聞くと、6歳の頃に演じたミュージカル「サウンドオブミュージック」だという。

「スイスの田舎町に住んでいた頃、通っていた学校が町の人たちを集めてミュージカルを上演したんです。子ども役に選ばれて歌ったり踊ったりして。その中でもピクニックに出かけるお花畑のシーンは全部アドリブで演じるように言われて、『どんなふうに演じてみよう?』ってワクワクしながら真剣に考えました。その記憶が今でも頭の中に鮮明に残っています」

 楽しかったスイスでの生活を終え、小学3年生の頃に日本に戻ってきた。日本での生活に思いをはせながら楽しみに帰ってきたが待っていたのはスイスとかけ離れた日本の習慣だった。

「なかなか日本の環境や学校生活に馴染めなくて。振り返るとささいなことだったのかもしれませんが、当時の私にとっては、一生懸命順応しようとする反面『私っていったいどういう人間なの?』って次第にそんなふうに考えることが多くなっていきました」

 自分の殻に閉じこもる時間が増えた分、ストレスのはけ口として自己表現欲求も芽生え始めた。スイスで体験したミュージカルのように自分の心の中を何かの形で思い切り表現したい。そう思い始めたのがこの頃だった。

「絵を描くことにチャレンジしてコンテストに出してみたりしました。映画も大好きで私が監督脚本を担当して妹に衣装を着せてタブレットを使って映像作品を作って遊んだりしていました。先日久し振りに映像を見返したんですが『アクション!』とか『カット!』とか監督になりきって大きな声を張っている自分に思わず笑ってしまいました(笑)」

 片っ端から自分を表現できるものにトライしてたどり着いたのが音楽だった。

「15歳の頃、父にギターを買ってもらったことが私の音楽活動のスタートです。歌は声を出すという全身を使った表現なので自分に合っていたんです。曲を作ることも好きだったので『これだ!』って思いました。曲が完成すると友達に聴かせるのが楽しみで(笑)。でもそれは趣味の1つにすぎなくて仕事にするなんてまったく考えていませんでした」

19歳からライブ活動をスタートさせた【写真:舛元清香】
19歳からライブ活動をスタートさせた【写真:舛元清香】

音楽に対する本気度を確かめたくて受けたオーディション

 高校生になるとバンドを組み、文化祭では彼女がリスペクトするONE OK ROCKの「Wherever you are」を演奏した。英語と日本語の混ざった歌詞が大好きで、ONE OK ROCKは彼女にとっての憧れであり理想のバンドだった。一方、子どもの頃から海外の有名なオーディション番組が好きで優勝を目指して懸命に歌と向き合う出演者たちに自分を重ね合わせていた。

 そんな高校生活を送っていた17歳の頃、次世代の金の卵を発掘する映画製作オーディション「NEW CINEMA PROJECT」を見つけ、ミュージシャン部門に応募した。プロを目指すというよりは子どもの頃から抱いていた自分探しの答えを見つけるための挑戦だったという。

「これはすごく大きなターニングポイントでした。小さい頃から映画も好きでしたし、作品を想像しながら曲を作ることが得意だったので、プロの方に私の実力を客観的に評価してもらいたかったんです。そこで落選して音楽をあきらめるのか、それともまだまだ続けるという答えを出すのか。私の中にある音楽への情熱がどれくらいあるのかちゃんと見極めたかったんです」

 グランプリは逃したが審査員特別賞を受賞した。しかし由薫がプロを目指そうと思ったのはもう少し後になる。

「19歳になってライブ活動をスタートさせました。当時は緊張していて、いつもステージに立つとブルブルと体が震えて、ギターを弾こうとすると指も震えちゃって最初はどうしようって(笑)。でも1つ1つ着実にライブをやっていくうちに徐々にプロを意識するようになりました」

 2021年、インディーで「Fish」を配信リリースすると、唯一無二の透明感のある歌声と心の中の思いを魚というキャラクターに投影したまるで物語のような独特の歌詞の世界観に引き込まれるファンが増えていった。

「私は翻訳しながら曲を作ることに興味があるんです。例えば今ここに取材用のマイクがあって、これをただのマイクと呼ぶと答えは1つだけなんですが、それを生き物とか私と質問者さんをつなぐ何かに翻訳する(=例える)と答えは無限に広がっていきます。翻訳をすることによって私の中の想像力もどんどんと湧き上がってきて、じゃあそこからどんなアプローチをしてみようかとかワクワクしながら作っているんです」

映画主題歌「lullaby」のパワフルな歌声に注目が集まる【写真:舛元清香】
映画主題歌「lullaby」のパワフルな歌声に注目が集まる【写真:舛元清香】

映画の主題歌に初挑戦「孤独やどうしようもない気持ちを込めた」

 そして公開中の映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」でメジャーデビューを果たした。

「正直なところ信じられないことだらけというか。まず映画好きだった私が映画の主題歌に携わらせていただけることになり、さらにその楽曲をプロデュースしてくださるのがONE OK ROCKのToruさんだと聞いてあり得ないって。そして、その「lullaby」がメジャーデビュー曲になるなんてビックリしたんですが、私が今まで生きてきた点と点がこんなにも偶然に1つの線に結びつくなんて夢なのか現実なのかよく分からなくなってしまいました」

 デビュー曲ではこれまでとは違う由薫のドラマチックでエモーショナルな歌声が特徴だ。

「自分が今まで歌ってこなかったパワフルな曲なので歌に関してはとても大きなチャレンジでした。歌い方を根本から見直して、フィジカルの部分も含めていろんなものを研究しながらパワーを込めて歌いました」

 映画の主題歌に初挑戦してあらためて発見したこともあるという。

「映画の主題歌ですからもちろん作品との一体感を大切に歌わせていただいたんですが、『lullaby』という曲には孤独だったり、どうしようもない気持ちといったメッセージも込められていて、それはすごく私自身と重なり合うところが多かったんです。つまり『lullaby』という曲は『バスカヴィル家の犬』の一部でもあり、由薫の体の一部でもあるという大切な曲なんです。そんな曲をデビュー曲として歌わせていただいたことを幸せに思っています」

□由薫(ユウカ)2000年・沖縄生まれ。幼少期をアメリカ、スイスで過ごす。2021年11月から、自身初となる3か月連続で「Fish」「Yesterday」「風」をデジタルリリース。22年2月、1stEP「Reveal」をリリース。6月15日、映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」の主題歌「lullaby」(ララバイ)でメジャーデビュー。

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