第75回カンヌ国際映画祭で2冠を達成した韓国映画「ベイビー・ブローカー」（現地8日公開）の是枝裕和監督と主演のソン・ガンホ、共演のカン・ドンウォン、イ・ジウン（IU）、イ・ジュヨンが31日午後、ソウル市内で行われたマスコミ試写会と記者懇談会に出席した。凱旋した是枝監督は「昨日、カンヌから帰ってきましたが、まだ興奮が残っています。最高のプレゼントをもらったようです」と語り、最優秀男優賞とエキュメニカル審査員賞に輝いたことを報告した。また、24日の日本公開に合わせてキャストの来日が決定。“国民の妹”と呼ばれているトップスター歌手のIUは「私も日本のプロモーションに参加することを知っています。期待していますし、日本でもたくさんの共感が得られたらうれしいです」と明かした。また、是枝監督が「韓国の監督で受賞した作品ではないので少しすいません」と笑いを誘う場面もあった。

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　その是枝監督はカンヌで日本用の囲み取材に応じ韓国スタッフとのタッグについて感想を聞かれると「学ぶこともたくさんありましたし、そのことで日本の映画の、映画だけに限らないかもしれませんが、映像産業、映画文化も含めて変えなければいけないところは明解になってきているはずで。でもそれは監督だけではできないので、日本の映画界全体が危機感を持つべきだと僕は思います」と語り、「多分もう何年かこのままいくと手遅れになるな、と個人的には思っています」と問題提起した。

　是枝監督が抱く危機感とは何か？　放送ライターがこう話す。「是枝監督の真意について、国による映画産業への助成金を期待している、という解釈も出ていますが、問題はもっと本質的なところにあると見ています。『映画だけに限らない』という言葉からすると、Netflixで世界的なヒットを続けている韓国ドラマも含んだうえでの話でしょう。もちろん全部ではありませんが、日本の場合、まずは主演俳優・女優から決まり、その役者さんのイメージに合った脚本、演出、音楽が作られていきます。一方、韓国は脚本から始まりストーリーの完成度や面白さ、斬新さを重視します。その次にキャスティング、劇中曲、ロケ地などが決まっていく。演技が下手な俳優が入り込む隙はありませんし、ドラマの雰囲気に合わないと死んだという設定で途中降板させられたりします」

　作品のプロデュースプロセスやシステムが日韓でまったく違うということのようだ。コロナ前の調査によると、日本人の映画鑑賞回数は年平均1.6回だが、韓国は4.2回と世界最高水準という。映画好きな人が多ければ、それだけ作品に対する評価は厳しくなる。また、逆に言うと、それだけ面白い映画がそろっているから韓国人が頻繁に映画館に通うとも考えられる。この両方が相互に循環することで韓国の映像作品の質が向上していくのだろう。

　是枝監督は「ベイビー・ブローカー」を韓国で製作した理由について「一緒に仕事したいと思う俳優が韓国にいた」と話している。とくにIUはドラマ「マイ・ディア・ミスター ～私のおじさん～」、イ・ジュヨンは「梨泰院クラス」での演技を見てオファーを出した、と明かしている。是枝監督は「手遅れになる」と語ったが、日本の映像産業は監督の言葉を重く受け入れるべきかもしれない。