「誹謗中傷はなくならない」 ヤフコメ識者の精神科医が提案する新常態のネットマナー

【ネット社会と誹謗中傷(1)】近年、大きな社会問題となっているネット上での誹謗(ひぼう)中傷。「Yahoo!ニュース」でも今年10月から、違反コメントが一定数を超えた際にコメント欄を閉鎖する機能を導入するなど、本格的な対策を進めている。一方で、正当な「批判」や「批評」を封殺する動きにつながるとの向きもある。ネット上の自由闊達(かったつ)な言論空間と誹謗中傷への対策はどのように折り合いをつけていけばいいのか。Yahoo!コメントのコメンテーターで、独特なヘアスタイルでも話題の精神科医・井上智介医師と考える。

産業医として月30社以上を訪問する精神科医の井上智介医師【写真:本人提供】
産業医として月30社以上を訪問する精神科医の井上智介医師【写真:本人提供】

記事だけでは分からない背景を伝える…Yahoo!コメントにおけるコメンテーターの役割

 近年、大きな社会問題となっているネット上での誹謗(ひぼう)中傷。「Yahoo!ニュース」でも今年10月から、違反コメントが一定数を超えた際にコメント欄を閉鎖する機能を導入するなど、本格的な対策を進めている。一方で、正当な「批判」や「批評」を封殺する動きにつながるとの向きもある。ネット上の自由闊達な言論空間と誹謗中傷への対策はどのように折り合いをつけていけばいいのか。Yahoo!コメントのコメンテーターで、独特なヘアスタイルでも話題の精神科医・井上智介医師と考える。(取材・文=佐藤佑輔)

 精神科医でありながら、月に30社以上の会社を訪問する産業医でもある井上氏。表面上は健康に見えても、職場でのストレスや精神的負担を抱えている人を大勢見てきた経験から、労働環境やハラスメントの問題、うつ病、誹謗中傷や自殺など、社会問題全般に幅広い知見を持つ。数年前から自身のブログやSNS、著書の執筆や講演会などで発信を続けている。

「最初はブログで、過労やハラスメントがなくならない社会へのもどかしさを、憂さ晴らしに近い感じで書いていたんです。Yahoo!のコメンテーターの話をいただいたのは今年4月。コメンテーターには専門外の記事にはコメントしないというルールがあって、自分は99%、誰かが泣いていたり苦しんでいるニュースにしか関われない。そこに寄り添うようなコメントを心がけています」

 井上氏のコメントの多くは、一面的な記事に専門的な視点を与えたり、過熱気味な報道に冷静な見方を求めたりするもの。記事だけでは分からないニュースの背景を伝えることを意識しているという。

「例えば事件の加害者は法で裁かれますが、加害者を生んだ責任を求めて社会的バッシングがその家族にまで及び、精神を病んで精神科を受診されるケースは意外と知られていません。そういった過剰な制裁の被害者もいるんだということを伝えたり、記事とのバランスを意識するようにしている。もちろんいろんな意見があると思います。僕のコメントに対しての批判や、中には誹謗中傷といえるようなものが来ることもある。この仕事を引き受ける以上ある程度覚悟はしていましたが、当然ダメージもあります」

専門家の視点から挙げる、誹謗中傷を繰り返す人間の2つのパターン

 コメント欄の閉鎖など、プラットフォーム側も本腰を入れて対策を講じてはいるものの、なかなかなくならないネット上の誹謗中傷。井上氏によると、誹謗中傷を繰り返す人間は大きく2パターンに分かれるという。

「1つは正義感が強い人。人間にはもともと、悪事を犯した者への制裁を見ることを快感に感じたり、そのために悪事を暴こうとしたりする欲求が備わっているもの。公正世界仮説といって、善人はいつか報われるはず、悪人はいずれ罰せられるはずという二元論の認知バイアスを指す心理学用語がありますが、こういった『悪い奴は罰を受けて当然』という考え方は社会的地位が高い人に多い。自分が努力した成功者だからこそ、ズルい人間や非のある人間が許せないというタイプです。

 もう1つは、大して関心がなくてもお祭り気分で炎上に加担する人。こちらは逆に社会で自分の言いたいことを言える場所がなかったり、我慢を強いられてる人が多い。コメント欄では正論ほど『いいね!』がつきやすく、そこで承認欲求が満たされることが快感になっているんです。お祭りタイプはもちろん、正義感タイプも、実生活でどこか満たされない空虚感を抱えてることが多いです」

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