国立映画アーカイブのクラファンは「悲鳴であり抗議」 深田晃司監督が見た制度的欠陥
『ナギダイアリー』(9月25日公開)が第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された深田晃司監督は、映画を作る一方、日本の映画文化を支える制度についても発言を続けてきた。国立映画アーカイブのクラウドファンディングをどう見るのか。日本の文化支援に何が足りないのかを聞いた。

「少なすぎる」明かした文化予算への本音
『ナギダイアリー』(9月25日公開)が第79回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に正式出品された深田晃司監督は、映画を作る一方、日本の映画文化を支える制度についても発言を続けてきた。国立映画アーカイブのクラウドファンディングをどう見るのか。日本の文化支援に何が足りないのかを聞いた。(取材・文=平辻哲也)
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東京・京橋にある国立映画アーカイブは、日本で唯一の国立の映画専門機関だ。映画フィルムや関連資料を収集・保存し、修復、上映、展示などを行っている。安定した活動を続けるため、新たな財源確保が必要となり、今年6月、運営費全般に充てる1億円を目標にクラウドファンディングを開始した。
「本当に日本映画の制度的な欠陥が露呈したと思っています」
この問題に水を向けると、深田監督はそう切り出した。
問題は突然、表面化したものではないという。思い出すのは、コロナ禍で全国のミニシアターが経営危機に陥った時だ。
「コロナが来たから大変になったわけではなくて、その前から大変だったわけですよね。国立映画アーカイブについても同じだと思います」
深田監督は、文化庁が直接、国立映画アーカイブの予算を削ったという単純な構図ではないとした上で、問題はもっと根本にあると見る。
「もともと分母が少なすぎるんですよ。その分母が少ないから、予算配分がちょっと変わっただけで、一気にクラウドファンディングをしなくちゃいけないような状況になってしまう」
クラウドファンディングそのものを否定しているわけではない。違和感があるのは、「国立」と名の付く文化施設が、その手段に頼らざるを得ない構造だ。
「クラウドファンディングをやっちゃいけないとは思わないんです。ただ、そこに行く前にできることが十分なされているんだろうか、ということです。まず文化予算が少なすぎる」
文化芸術への公的支援の話になると、「税金に頼るな」という批判が出やすいことにも疑問を投げかける。
「フランスや韓国並みにもらっていて、それでも『もっとよこせ』と言っているなら、『もらいすぎだ』と言われるのも分かるんです。でも、十分な金額が文化に充てられているわけでもないのに、こういう議論になると、すぐに『税金に頼るな』という話になってしまう」

文化支援の本質は「商業性が低いものを、どれだけきちんと支援できるか」
ただし、国がすべて負担すべきだと主張しているわけではない。そこで参考にするのがフランスの仕組みだ。
「フランスは映画館に対する支援も手厚いですけど、単純に文化予算からお金が出ているだけではなく、映画業界の中でお金を回していくシステムが出来上がっている。劇場だったり、テレビ局だったり、配信だったり、それぞれから少しずつ徴収して再分配する。業界内での共助によって財源を作り出している」
映画から利益を得る側が資金を出し、業界内で循環させる。公助だけでなく、共助も機能させる仕組みだ。
「それがないから、すぐにクラウドファンディングという形になってしまう。財源のパッチワークの1枚としてクラウドファンディングがダメだとは全然思わないんですけど、自分には、今回のは国立映画アーカイブの悲鳴であり抗議のようにも見えるんです」
国立映画アーカイブ側からそう説明されたわけではない、と断った上での発言だ。それでも、危機が起きるたびに民間の寄付に頼る状況は、国だけでなく映画業界自身も考えるべき問題だとする。
その視線は、政府が進めるコンテンツ産業支援にも向かう。
近年、アニメなど日本のコンテンツを成長産業として海外に売り出そうという動きが続く。深田監督は「アニメを支援すること自体はいいことだと思う」と話す。
「売れるものを、よりちゃんと売れるようにする。日本の国力や海外発信につなげていく。それは経済的な支援としては正しいと思います」
問題は、それと文化支援が同質のものとして語られがちなことだという。
「商業的な支援を行うこと自体に問題はありません。『イケイケドンドンで頑張ってください』という感じです。ただ、じゃあクールジャパンはうまくいったのか、うまくいかなかったところがあったのならその原因はどこにあり、責任の所在は誰なのかをきちんと明らかにすることが先だと思います」
その上で、商業支援と文化支援は目的を分けるべきだと強調する。
「文化支援というのは、必ずしも売れないかもしれないもの、商業性が低いものを、どれだけきちんと支援できるかというところが本質なんです」
例に挙げたのは、フィンセント・ファン・ゴッホだ。
「有名な話ですが、ゴッホは生前には1枚しか売れなかった。それが100年後にはどれだけ評価され、人類の生活を豊かにしたか。文化芸術の価値は必ずしも同時代の経済的な評価のみで測り切れるものではないんです。そのゴッホが貧乏でも絵を描き続けられたのは家族の支援があったから。そういった支援も得られず筆を折っていった無数のゴッホがいたはずです」
市場で成功しているものをさらに伸ばすことと、市場だけでは残りにくい表現を支えること。その2つは同じではない。
「売れるか売れないかのみの評価軸のみに依存し過ぎず、誰もが主体となって、いろいろな表現がきちんと世に出て、見られる状況を守る。それが多様性だと思います。文化支援と商業支援がごっちゃになっていることが、問題の本質を見えづらくしているように思います」
日本映画が海外で評価されても、それを生み、上映し、保存していく仕組みが弱ければ、文化は続かない。深田監督が求めるのは、危機のたびに寄付を募る対症療法ではなく、映画文化を持続的に支える仕組みそのものだ。
□深田晃司(ふかだ・こうじ)1980年生まれ、東京都出身。99年、映画美学校フィクションコースに入学。2005年から平田オリザ主宰の劇団「青年団」演出部に所属する。10年『歓待』で東京国際映画祭日本映画「ある視点」作品賞、13年『ほとりの朔子』でナント三大陸映画祭グランプリ。16年『淵に立つ』で第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞。18年、フランス芸術文化勲章シュバリエを受勲。監督作に『よこがお』(19年)、『本気のしるし』(20年)、『LOVE LIFE』(22年)、『恋愛裁判』(25年)など。
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