「TikTokショート動画売れ」けん引企業、SBIグループ参画の背景…元DJ集団が期待される”感情経済”の起爆剤
国内最大級のショート動画MCN「Star Creation」を運営し、「TikTok売れ」のトレンドをけん引してきたスターミュージック・エンタテインメントは今年7月16日、親会社のRidge-i(リッジアイ)が保有する株式をSBIホールディングスへ譲渡し、SBIグループへ参画。社名は、SBIスターミュージック・エンタテインメントに変更された。なぜ、同社が大手金融グループの一員となる決断をしたのか。TikTokの波及力にいち早く気づき、今の「ショート動画全盛時代」を予見していた同社取締役COOの中村雄太氏に、参画の舞台裏と同社が目指すエンタメビジネスの未来像を聞いた。

SBIスターミュージック取締役COO・中村雄太氏に聞く
国内最大級のショート動画MCN「Star Creation」を運営し、「TikTok売れ」のトレンドをけん引してきたスターミュージック・エンタテインメントは今年7月16日、親会社のRidge-i(リッジアイ)が保有する株式をSBIホールディングスへ譲渡し、SBIグループへ参画。社名は、SBIスターミュージック・エンタテインメントに変更された。なぜ、同社が大手金融グループの一員となる決断をしたのか。TikTokの波及力にいち早く気づき、今の「ショート動画全盛時代」を予見していた同社取締役COOの中村雄太氏に、参画の舞台裏と同社が目指すエンタメビジネスの未来像を聞いた。(取材・文=柳田通斉)
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社内のスタジオで記者と向き合った中村氏は、率直に言った。
「SBIグループが掲げる『感情経済圏』の構想を聞いた時、私たちが創業時から掲げてきた『世界を沸かせるエンタメを』というミッションと、ベクトルが完全に合致していると感じました」
今回の参画は、エンタメ業界関係者を一様に驚かせた。同社は2024年、AI企業であるRidge-iの連結子会社となり、「AI×クリエイティブ」の融合を進めてきた。そして、今度はSBIグループの「ネオメディア生態系」の一員となったからだ。同生態系とは、SBIグループが有する金融機能、顧客接点及びデジタル技術とコンテンツ、IP(知的財産)、タレント、制作・発信機能などを組み合わせ、コンテンツなどの発掘、発信、投融資及び収益化を相互に連動させる事業基盤。同グループは、25年5月に統括・推進会社であるSBIネオメディアホールディングスを立ち上げ、同生態系の拡充に向け、メディア・エンタメ企業の買収や同分野の企業への出資・提携を加速している。
今年6月には、フジテレビ親会社のフジ・メディア・ホールディングス(FMH)とも、メディア・コンテンツ領域での戦略的業務提携に向けた協議・検討の開始を発表した。
スターミュージック・エンタテインメントが参画する引き金となったのは、SBIホールディングスの北尾吉孝会長兼社長が提唱する「感情経済(Emotional Economy)」の概念だ。スポーツ興行やK-POPライブで人々が示す共感や熱狂が消費行動を動かす。この人間心理に着目したSBIグループが昨年、メディア・エンタメ事業への本格参入を決めた際、若年層との接点、クリエーターネットワーク、ショート動画の企画・制作力を持つスターミュージックに期待を寄せた。
「株式譲渡の性質上、社員に伝えられたのは発表の直前でした。当然、最初は驚きもありましたが、説明を重ねるうちに前向きな受け止めが増えていきました。強固な基盤ができて、『より大きなチャレンジができる』という期待感などです」
社員数は40人強。時代の最先端を走る優良企業へと成長したが、その成り立ちは実にユニークだ。2011年、代表取締役の渡邊祐平氏と中村氏らで創業。彼らは、東京・渋谷のナイトクラブで現場に立ち続けていた「DJ集団」だった。
「私自身は真剣に取り組んできたサッカーで生きることを諦めた後、大学時代にDJを覚えました。設立当時はイベント会社で、代表も私も自分たちでプレーして、イベントを作ってという日々でした。DJはその日のフロアの雰囲気を見て、『あっ、この曲じゃ響かないな』と思ったら直前に選曲をガラリと変えるんです。私たちの経営スタイルは、時代の変化や市場の波に合わせてフレキシブルにビジネスの形を変えていく。まさにDJブースで培った感覚そのものです」
言葉通り、同社の歩みは時代の潮流との格闘の歴史だった。その後、クラブ側の運営事情から事業の軸足を見直し、ナイトクラブに遊びに来ていたブロガーたちとのネットワークに着目。ブロガーと企業をつなぐ代理店ビジネスを開始した。これが、「インフルエンサーマーケティング」の先駆けとなった。
SNSの主役はブログからツイッター(現X)、インスタグラムへ。同社が勝負に出たのは17年、18年だった。TikTok発祥の地である中国で普及し、東南アジアで開催されていた音楽フェスで、TikTokがメインスポンサーを務めている状況を把握。「日本でも必ずショート動画の時代が来る」と確信し、日本法人が立ち上がったばかりのTikTokと早期にパートナーシップを結んだ。
「当時は企業に提案に行っても、『女子高生がダンスを踊るアプリでしょ?』とあしらわれることばかりでした。なので、ほぼ『布教活動』のような形でセミナーや勉強会を地道に開き、市場そのものを作っていく感覚でした」

潮目が変わったコロナ禍
この時期に蓄積した知見は、22年12月に刊行された中村氏の著書『ショート動画戦国時代』(双葉社)にもまとめられている。
潮目が劇的に変わったのが、20年春に陥ったコロナ禍だった。リアルイベントが全滅する中、自粛生活を送る人々が、TikTokで流れるショート動画を楽しみ始めた。途端に企業からPR動画制作の依頼が殺到。同社はTikTok内でバズる15~30秒の「短尺音源」の制作や、芸能プロダクションのSNS活用支援、ショート動画マーケティング支援などを続々と手掛け、ショート動画市場のトップランナーへと躍り出た。
有名クリエーターも所属。日本のTikTokにおけるVlogの第一人者である修一朗、TikTokからダンスで流行を生み出すトレンドメーカーで数々の音楽ヒットを生み出してきたローカルカンピオーネらも名を連ねている。
同社が今年6月に発行した「ショート動画白書 vol.8」によると、20~40代のショート動画利用率は70%を超え、完全にマスメディアの域に達している。しかし、中村氏は既に「次の時代」を見据えている。
「コンテンツがあふれかえった結果、単に動画を再生させて認知させるだけでは価値が下がりつつあります。重要なのは、アテンション(注目)を集めた後に『何が残るか』です」
その答えこそが、同社が強みとする自社IP(知的財産)、音楽コンテンツ、リアルイベントなどの「受け皿」であり、SBIグループの金融・IT・アライアンスネットワークとの融合だという。
「SBIグループが持つ多様なサービスや価値を私たちが培ってきたショート動画や音楽、クリエーターの力で、生活者に響く形へ『翻訳』していく。熱量を起こし、それを購買や投資といった具体的な行動へとつなげていく。これこそが次世代のメディアのあり方だと信じています」
渋谷のクラブフロアから始まった熱狂の仕掛け人たちは、常に時代の流れを見極めてきた。そして、エンタテインメントの新たな地平へと飛び立とうとしている。
□中村雄太(なかむら・ゆうた) 1989年7月22日、埼玉・春日部市出身。19歳からDJとして活動し、2011年にスターミュージック・エンタテインメントの創業メンバーとして参画。現在は取締役COOとして、ショート動画、音楽、クリエーターエコノミーを軸に事業を手掛けている。複数の専門学校、大学で講師も務め、22年12月に著書『ショート動画戦国時代』(双葉社)を出版。
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