富士山は「管理され切ったテーマパーク」 “閉山期登山禁止”をクライマーが痛烈批判、相次ぐ救助要請に「地元の責任もある」

富士山の閉山期間中の登山を巡り、地元首長から「登山禁止」の制度化を求める声が上がっている。これに対し、登山者やクライマーからは「一律禁止はおかしい」といった反発の声も寄せられている。閉山期登山の実態とはどのようなもので、何が問題となっているのか。富士山の「夏季以外の登山一律禁止」に反対する署名活動を立ち上げたクライマーに、署名活動に込めた真意と、富士山を取り巻く問題を聞いた。

閉山期の登山が物議を呼んでいる富士山(写真はイメージ)【写真:写真AC】
閉山期の登山が物議を呼んでいる富士山(写真はイメージ)【写真:写真AC】

地元市長の「登山禁止」の訴えに、「ついにこの時が来てしまったか」

 富士山の閉山期間中の登山を巡り、地元首長から「登山禁止」の制度化を求める声が上がっている。これに対し、登山者やクライマーからは「一律禁止はおかしい」といった反発の声も寄せられている。閉山期登山の実態とはどのようなもので、何が問題となっているのか。富士山の「夏季以外の登山一律禁止」に反対する署名活動を立ち上げたクライマーに、署名活動に込めた真意と、富士山を取り巻く問題を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 富士山では近年、閉山期間中の滑落事故や救助要請が相次いでいる。2025年4月には、中国籍の男性が救助された際に所持品を置き忘れたとして、4日後に再入山。再び遭難し救助を求めたことで、多くの批判が寄せられた。

 例年、9月10日から翌年7月上旬頃までを「閉山期間」としている富士山。環境省と山梨・静岡両県が定める「富士登山における安全確保のためのガイドライン」では、閉山中は山小屋などの施設が閉鎖されていて救急体制が整っていないことから、万全な準備がない登山者の登山を禁止している一方、「充分な技術・経験・知識としっかりとした装備・計画を持った者の登山は妨げるものではない」としている。

 こうした状況の中、静岡・富士宮市の須藤秀忠市長は4月10日の記者会見で、相次ぐ救助要請が自治体の業務や財政の負担になっているとして、閉山期間中の登山禁止を訴え。山梨県の長崎幸太郎知事も5月の定例会見で、救助の有料化も含めた無謀登山者の防止策について「必要に応じて12月議会に条例案を提出したい」としている。

 地元で高まる「登山禁止」の声に対し、「富士山の『夏季以外の登山一律禁止』ルール化に反対します」とインターネット上で署名活動を開始したのが、山岳映像制作者でクライマーの鈴木岳美氏だ。4月18日の活動開始後、今月16日までに5000筆を超える署名が寄せられており、近く環境省・山梨県・静岡県からなる「富士山における適正利用推進協議会」や、BPO(放送倫理・番組向上機構)に提出される。今回の署名活動について、鈴木氏は「市長の発言を聞いて『ついにこの時が来てしまったか』と。ここ数年、登山そのものを危険行為、不法行為のように扱うメディアの偏向報道に強い危機感を持っていました」と経緯を語る。

「富士山はこれまで、観光資源としてことあるごとに利用されてきました。5合目まで有料道路を通し、街を挙げて世界遺産に招致、夏も冬もなくどんどん人を呼び込んできた。その結果、環境破壊やオーバーツーリズムなどの問題が起こると、今度は入山料徴収や人数制限といった規制を設け、集客数を管理しようとしているわけです」

反対署名を立ち上げたクライマーの鈴木岳美氏【写真:本人提供】
反対署名を立ち上げたクライマーの鈴木岳美氏【写真:本人提供】

現在の富士登山は「管理され切ったテーマパーク」

 山小屋を使わないとダメ、時間を守らないとダメ、入山料を支払い、その上人混みで大混雑……といった現在の富士登山について、鈴木氏は「言ってしまえば管理され切ったテーマパーク。1人ずつ整列して登頂するのが果たして登山と言えるでしょうか。もはや、本当に自然を愛する登山者が行く場所ではなくなってしまった。過度な観光利用により、本来の登山文化が失われているんです」と口にする。

「今起こっている遭難は、登山者ではなく、登山の領域にはみ出してきた観光客によってもたらされているもの。軽装で登るインバウンドなどはその最たるものです。そこには、夏と冬の技術差が世界一大きい山なのに『夏なら初心者でも登れる山』と大々的に発信してきた地元の責任もあります。過度な観光利用が生み出した弊害を、『冬の富士山は危険』という単純化した問題にすり替え、従来の登山者に押し付けているのです。

 市長は『富士山は安全な時期に登って』と言いますが、夏は安全と言い切るのもどうなのか。私も富士山でガイド経験がありますが、落石や雷で亡くなる方も多く、夏は夏で十分危険を伴う場所です。大切なのは夏や冬といった時期で区切ることでも、徹底的に管理して危険を排除することでもなく、1人ひとりがどこまでが安全かを考え行動することではないでしょうか」

 ただ、たとえ観光の弊害であったとしても、相次ぐ救助要請が地元の負担となっていることは事実だ。この先、閉山期の登山についてはどのように対応していくべきなのか。

「自分が訴えているのはあくまでも『登山の全面禁止、一律禁止』への反対で、準備不足や経験不足、観光気分の登山禁止に異論はありません。具体策として上げるのは、まず選定療養費制度の導入。救急車をタクシー代わりに使うような緊急性の低い救助要請に対し、一部費用を要救助者へと負担させる制度で、一部の自治体では導入後、緊急性の低い救急出動が減ったという効果が報告されています。登山届の義務化、インバウンド向けの強制保険加入制度も救助負担軽減に効果があると思います。

 車道の全面通行禁止も提案します。現状は年間を通じて5合目まで車道が開通しており、誰でも安易に入山できてしまう環境がある。閉山期は車道を閉鎖し、1合目から徒歩で登らなければならなくなれば、多くの安易な登山に対する抑止になると考えます。夏の管理された観光登山を『富士トレッキング』や『富士ハイキング』といった呼称に変え、閉山期登山と明確に区別することも、世間一般や外国人が両者を混同しないために必要なことだと思います」

 冬の富士山は、世界の山々を目指す国内の登山家やクライマーにとって、なくてはならない鍛錬の場だと鈴木氏。観光の弊害と登山文化の在り方について、表面上の規制だけに留まらない深い議論が求められている。

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