桐谷健太、朗読初挑戦で見つけた声の新境地 「酸欠状態でフラフラに」明かした収録の舞台裏
俳優の桐谷健太が、Amazonオーディブルで、村上龍氏の代表作『五分後の世界』(1994年、幻冬舎)の朗読に初挑戦した。同作は主人公が、現実世界から「5分」ずれた異世界に迷い込み、過酷な戦いに身を投じる姿を描く長編。初めての朗読での発見、子どもへの読み聞かせ、自身の読書体験を語った。

村上龍氏の代表作『五分後の世界』朗読に挑戦
俳優の桐谷健太が、Amazonオーディブルで、村上龍氏の代表作『五分後の世界』(1994年、幻冬舎)の朗読に初挑戦した。同作は主人公が、現実世界から「5分」ずれた異世界に迷い込み、過酷な戦いに身を投じる姿を描く長編。初めての朗読での発見、子どもへの読み聞かせ、自身の読書体験を語った。(取材・文=平辻哲也)
子どものころは本を読むのが遅かったという桐谷だが、10代の終わりに役者を目指して上京した際、大学の友人から「絶対読めるようになってた方がいいよ」と村上氏の『コインロッカー・ベイビーズ』を渡されたのが転機となった。
「なんちゅう世界やと思いながら没入して、そこから村上龍さんの作品をたくさん読むようになりました。『五分後の世界』も出版されて5年後くらいに読んでいたので、今回オファーをいただいたのは本当に縁を感じました」と振り返る。
本作は、第2次世界大戦で無条件降伏を拒否した日本が舞台。連合国軍の攻撃により崩壊した地上から地下へ潜った人々が、人口26万人の地下国家「アンダーグラウンド(UG)」を形成し、世界を相手に果てしないゲリラ戦を続けているというパラレルワールドを描いた物語だ。
「改めて本作に触れて、見たことのない異世界に連れて行ってくれる感覚と、その中にある生々しさが鮮烈でした。戦闘シーンや地下司令部に向かうときの空気感、アーティスト・ワカマツのライブでみんなが狂ったようになっていく世界観など、自分は経験したことがないはずなのに、なぜか自分の奥底に眠る何かと重なるんです。それが自分の中に残っていたので、すっと入りやすかったです」
再生時間9時間39分の長尺だが、収録は5日間という超集中的なスケジュールで行われた。
「体力と集中力が必要でしたし、気づきや学びがたくさんありました。何度も読み返し、自分なりのイマジネーションを広げて、ずっと『五分後の世界』の中にいました」と、どっぷりと作品世界に浸った。「異世界に没入して読んでいたので、酸欠状態でフラフラになって『1回ちょっと止めさせてください』となるような、自分でも制御不能になる瞬間もありましたが、それも含めて面白い経験で、とても有意義な時間でした」と笑う。
体を使って表現する普段の芝居とは違い、声だけに表現が絞られる点については「本当に挑戦でした」と振り返る。「最初は低い重めのトーンでいくのか、聴く方が雑踏の中や、何かをやりながらでも耳に入ってくるようなトーンでいくのか、地の文とセリフの差をどうするかなど、ディレクターさんと模索しながらやらせて頂きました。村上さんの作品は個性的なキャラクターが多く、女性も出てきます。その人物の身なりや顔や雰囲気を自分なりに想像し、キャラクターによって声を変えたりして、『自分はこういう声の出し方ができるんだ』という発見もありました」と手応えを語る。
耳で聴く物語ならではの魅力を尋ねると、「通勤通学や家事、散歩をしながらでも、自分が今見ている風景と想像する世界観が入り混じる魅力があります。普段歩いている場所も違って見える感覚があるでしょうし、何より目を閉じながらストーリーが進んでいく没入感は音声ならでは、です」と答える。
「僕が思い浮かべている情景と聴いてくださる方が思い浮かべる情景はまた全く違ったものになるでしょうから、皆さんが思い浮かべる『世界に1つだけの異世界』になるという点がすごく魅力的で、やりがいを感じました」と自信をのぞかせた。

最近のお気に入りは三代目魚武濱田成夫の詩集
読書に目覚めるきっかけとなった村上龍作品だが、現在の読書習慣については「相変わらず読むのは速くないです」と頬を緩める。
「一番読む量が多いのは台本ですが、詩集や体の知識、睡眠などの本、ドキュメンタリーやエッセー、例えば『奇跡のリンゴ』の木村秋則さんの本なども幅広く読んでいます。『こういう生き方もあるんだ』と、発見がありますね」と好奇心旺盛だ。
人生を変えた1冊を聞くと、「難しいですね。それって、人との出会いと同じ。誰と出会わなくても、今の自分はいないじゃないですか。僕も5歳から芸能界でやりたいと思って、中学校のときに『絶対にこれだ』と思って。そしてほんの3分くらいしか話をしてない人なんですが、その人に『じゃあ東京行かな』って言ってもらって。その一言がなかったら東京に出てきてないかもしれない。東京の大学の先輩に『クラブに行こうぜ』って誘われて、そこで声をかけられたつながりでモデル事務所に入って、今の事務所に出会って……みたいな。どの出会いがなくても、階段のように2つ飛ばしはできないですから。本も『コインロッカー・ベイビーズ』があったから『五分後の世界』に出合えましたから」
最近のお気に入りの本は、三代目魚武濱田成夫の詩集だという。
「ご本人からいただき、ベッドの近くに置いています。『誰かと同じで素晴らしいくらいなら 誰とも違って素晴らしくないほうがかっこええやんけ』という詩集の中の言葉に、『そうやな』と本質的なものを感じています」と共感を示す。
私生活では自身の子どもに読み聞かせをしている。
「動物がしゃべったり、答えを提示しないで終わる作品があったりして、絵本ならではの自由度や『あえてこうしてるんだ』という面白さがあります」と親としての顔を見せる。「自分が子どものころに母から読んでもらっていた本をいまだに送ってくれたりするんですが、それを我が子に読みながら『こういうことを伝えてたんだ』と感動したり、『今の感覚だとまた違って感じるな』と寂しくなったり、世代を超える発見を楽しんでいます」と語る。
初のオーディオブック朗読を終え、次回作のオファーがあったらと尋ねると「さらに進化した状態でやらせていただきたいですね。SFでもミステリーでも恋愛ものでも、何でもやってみたいです」と意欲を燃やした。
□桐谷健太(きりたに・けんた)1980年2月4日生まれ、大阪府出身。2002年、テレビ朝日系ドラマ『九龍で会いましょう』で俳優デビュー。映画『パッチギ!』『クローズZERO』シリーズなどで注目を集め、映画『火花』『ミラクルシティコザ』、ドラマ『インフォーマ』など数多くの話題作で圧倒的な存在感を放つ。auのCM「三太郎」シリーズでは浦島太郎役として親しまれ、同名義で歌唱した『海の声』は社会現象となる大ヒットを記録し、第67回NHK紅白歌合戦にも出場を果たした。
『五分後の世界』
著者:村上龍
ナレーター:桐谷健太
URL:https://www.audible.co.jp/pd/B0FW5SVV8D
あらすじ:オレはジョギングをしていたんだ、と小田桐は意識を失う前のことを思った。だが、今は硝煙の漂うぬかるんだ道を行進していた……。五分のずれで現れたもう一つの日本は、人口二十六万に激減し地下に建国されていた。駐留する連合国軍相手にゲリラ戦を続ける日本国軍兵士たち──。戦闘国家の壮絶な聖戦を描き、著者自ら最高傑作と語る衝撃の長編小説。
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