中村 中、トランスジェンダー公表の裏にあった葛藤 「抵抗」し続けながらたどりついた現在地

シンガー・ソングライターの中村 中(なかむら・あたる)がデビュー20周年を迎え、6月19日に東京国際フォーラムで「中村 中20th Anniversary Concert Chapter 1 -饗宴-」を開催する。2006年のシングル『汚れた下着』での衝撃的なデビューから20年。トランスジェンダーであることを公表し、NHK紅白歌合戦出場や日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞したほか、作詞作曲家としての楽曲提供や、俳優としてドラマや舞台に出演するなど、華々しい活動を行ってきた。しかし、その裏で常に「自分自身の在り方」とも葛藤し続けてきた。ENCOUNTは20周年を機に中村にインタビュー。デビュー当時から現在の思いを聞いた。

デビュー20周年を迎えた中村 中【写真:増田美咲】
デビュー20周年を迎えた中村 中【写真:増田美咲】

「水を差すな」という空気に根負け…公表後の虚像に悩み続けた日々

 シンガー・ソングライターの中村 中(なかむら・あたる)がデビュー20周年を迎え、6月19日に東京国際フォーラムで「中村 中20th Anniversary Concert Chapter 1 -饗宴-」を開催する。2006年のシングル『汚れた下着』での衝撃的なデビューから20年。トランスジェンダーであることを公表し、NHK紅白歌合戦出場や日本レコード大賞優秀アルバム賞を受賞したほか、作詞作曲家としての楽曲提供や、俳優としてドラマや舞台に出演するなど、華々しい活動を行ってきた。しかし、その裏で常に「自分自身の在り方」とも葛藤し続けてきた。ENCOUNTは20周年を機に中村にインタビュー。デビュー当時から現在の思いを聞いた。(取材・文=コティマム)。

 15歳の頃に作詞作曲や路上ライブを始めた中村。06年のデビュー後、15歳の時に初めて書いた楽曲『友達の詩』のリリースとともに、自らのセクシュアリティがトランスジェンダーの女性であることを公表。その背景とともに話題となった。

――20周年おめでとうございます。これまでの活動を振り返ってみていかがですか。

「活動を始めてから、自分の生い立ちを公表することや、それについて憶測で語られることなどに思い悩んでいた時期がありました。音楽を始めれば自分の生い立ちなどどうでもよくなる、考えなくてよくなると思っていたのに、音楽の仕事を始めて最初に悩んだのが、『また自分の生い立ちを話さなきゃいけない』ということだったんですね。しかも“私とは全然違う人”ができ上がっているような感じで」

――20年前に私も取材しましたが、音楽そのものより生い立ちにフィーチャーされている印象はありました。ただ、『友達の詩』に感動する声も多かったです。

「ありがとうございます。注目していただけたのは、今となっては本当にありがたいこと。でも当時は『苦しい』という気持ちの方が大きくて。『感動した』という声に、もっと耳を傾ければよかったのかもしれません」

――当時はデビューしたうれしさよりも、苦しさの方が大きかったと。

「そうですね。苦しかった……ですね。セクシュアリティを公表するかどうかもずっと悩んでいて、『公表しない手はないんですか』と相談もしましたが、関わってくれた人のほとんどが公表させる方向でプロモーションも考えていて、怖いくらい熱くなっていて。私自身のことなのに『水を差すな』という空気が強くて、根負けしたというか。結果公表する形になってしまいました。でも今思えば、なかなかできない経験をさせてもらえたので、ありがたかったと思います」

作詞作曲家、俳優と活躍の場を広げてきた【写真:増田美咲】
作詞作曲家、俳優と活躍の場を広げてきた【写真:増田美咲】

人生のテーマは「抵抗」ハッタリから始めたピアノや独学の編曲が拓いた道

――その葛藤や苦しみを抱えながら20年の間に作詞作曲家、俳優と活躍の場を広げました。

「本当にご縁のおかげで広げていただいたと思います。私の物作りの原動力かも知れないんですけど、『どうにかしないといけない』という気持ちが常にあったと思います。困難なことが起こった時に、その都度、自分を変化させて生きてきた。それがこの20年だったなと」

――困難によって変化したと。

「そうですね。もともと曲を書き始めたのも、自分の悩みや自分がやりたいことを言葉で説明できなくて、それを歌にしてみようと思ったからです。困難といえば小学生の頃、合唱コンクールの練習で張り切って歌ったら、クラスの男子から『男のくせにまじめにやりやがってキモイ』みたいに、からかわれたんですね。『うちのクラスは中村に歌わせて、他の男子はサボろう』みたいなことを言っていて。悔しいから『歌わずにすむ方法はないか』と思って、ピアノの伴奏者に立候補しました。ピアノの経験もないのに」

――習っていなかったのですか。

「そうです。でも『弾けます』ってハッタリ言って。どうしてもこの“悔しい状況”から逃れたかった。本番が3か月後でしたが、学校のピアノでひたすら練習して弾けるようになりました。それがきっかけで楽器に触れるようになりました」

――まさに困難からの変化ですね。

「でも困難を乗り越えると得るものもあって。2010年に『少年少女』というアルバムを制作中に、ストリングスのレコーディングがしたいのに予算が足りませんでした。どうしても2曲は弦を入れたくて、お世話になっているバイオリニストの弦一徹さんに相談したら、『自分でアレンジすればアレンジ代はかからないよね』と提案していただいて。『そりゃそうだ!』と思い、自分でアレンジすることにしました」

――アレンジも未経験ですよね。

「そうです。私の弦アレンジを元に、弦さんに旋律の方向性などを直していただいたんですが、その時『何を直されたのか』を解読して、数週間後のレコーディングの時にもう1曲のアレンジに生かしてみたら、『良くなってんじゃん!』って言っていただいて。ありがたい体験ですよね」

――『少年少女』は日本レコード大賞の優秀アルバム賞を獲得しました。

「ありがたいです。10代の頃から、『できないかも』『困難だな』と思うことを、どうにかしてきた20年という感じ。音楽を始めた動機も、楽器を始めた動機も。なので自分の人生のテーマは『抵抗』ですね。『楽しむためにやる』が始まりじゃなかった気がします。今も音楽を作る時はやっぱり、何かに対して怒っているとか、つらいとか、そういうことから作るし、言葉では説明がつかないことを歌にしています」

20周年コンサートへの意気込みを語った【写真:増田美咲】
20周年コンサートへの意気込みを語った【写真:増田美咲】

「音楽は愛に似ている」20周年コンサート『饗宴』で分かち合う解放の瞬間

――20周年記念コンサートのタイトルは哲学者・プラトンの対話篇『饗宴』です。

「『饗宴』は、詩人や哲学者など知識人たちが集まって『愛』について語り合う対話篇。みんないろんな像や解釈があるけれど、『愛』を捉えたと確信を持っている人はいないんです。頭で考えているうちは捕まえられないものなんじゃないかなと思って、それが音楽体験とも似ている気がして」

――愛と音楽が似ていると。

「例えばライブ中は夢中で気持ちいいなぁと感じていて、でも理由は考えていなくて、数日後に思い出して『あの歌の歌詞が、あの時の自分に刺さったんだな』とか、実感が蘇ってくる感覚ってありませんか? 時間差で自分の人生を照らしてくれるというか、音圧の気持ち良さで意味も分からず涙が出たけど、後から、『自分がその曲に支えられているんだな』と分かるというか。『愛』は近くにある時は何気なくて、後から『ああ、もしかしたらあれが愛だったのかも』って気づくことが多いので、(音楽と)似てるなって。考えながらだと現れてくれないんだけど、感じることはできる、みたいな感覚です」

――どんなライブにしたいですか。

「私は歌っている間、日常で感じる生きづらさから解放されるので、音楽を信じています。そういう私が作る音楽を信じてくれる人たちがいるから続けられています。そう考えると、音楽を信じている同士だとも思えるので、同じ穴の貉同士、日常では得られない喜びや、解放されるような感覚を一緒に味わってほしいです」

――次の20年後はどんな風になっていたいですか。

「……うーん、『音楽を信用できる自分』でいられればいいかな。いろんな人と出会って、いろいろなモノを作り続けられる状態でいたいですね」

□中村 中(なかむら・あたる)1985年6月28日、東京都生まれ。2006年にシングル『汚れた下着』でデビュー。2ndシングル『友達の詩』発売時にトランスジェンダーであることを公表。第58回NHK紅白歌合戦に出場。4thアルバム『少年少女』で『第52回輝く!日本レコード大賞』優秀アルバム賞を受賞。AAAやスターダスト☆レビュー、八代亜紀、大竹しのぶらへの楽曲提供や、テレビ・舞台・映画への音楽・劇中歌提供も行う。俳優として『HEDWIG and the ANGRYINCH』、中島みゆきの「夜会vol.18/19『橋の下のアルカディア』」、ミュージカル『えんとつ町のプペル』、NHK連続テレビ小説『虎に翼』、映画『ブルーボーイ事件』、Netflix映画『This is I』などに出演。

○『中村 中20th Anniversary Concert Chapter 1 -饗宴-』
日程:2026年6月19日(金)開演:午後6時30分
会場:東京国際フォーラム ホールC
ゲスト:根本 要(スターダスト☆レビュー)、一青窈、ドリアン・ロロブリジーダ

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