朝ドラで“女性バディ”描く狙い 『風、薫る』脚本家が抱いていた違和感「男性の夢がある気がして」
俳優の見上愛と上坂樹里がダブル主人公を演じるNHK連続テレビ小説『風、薫る』(月~土曜午前8時)が30日にスタートする。このほど、本作の脚本を手がける吉澤智子氏が取材に応じ、2人の女性を主人公に据えた“バディドラマ”への思いと、連続テレビ小説ならではの苦労について語った。

見上愛&上坂樹里がW主人公、30日スタート
俳優の見上愛と上坂樹里がダブル主人公を演じるNHK連続テレビ小説『風、薫る』(月~土曜午前8時)が30日にスタートする。このほど、本作の脚本を手がける吉澤智子氏が取材に応じ、2人の女性を主人公に据えた“バディドラマ”への思いと、連続テレビ小説ならではの苦労について語った。
本作は、明治時代に看護の世界に飛び込んだ2人が主人公となるバディドラマ。看護師という職業の確立に大きく貢献した実在の人物、大関和(おおぜき・ちか)さんと鈴木雅(すずき・まさ)さんがモチーフとなる。見上は大関さんがモチーフの一ノ瀬りんを、上坂は鈴木さんがモチーフの大家直美を演じる。
脚本を手掛けるにあたって、テーマと主演2人についてはすでに決まっていたとした上で、オファーを受けた理由を次のように語る。
「私事ですけど夫をがんで亡くしていまして、もう8年前かな。それがきっかけで当時のお医者さんや、治験コーディネーターの方、看護師さんと今でも仲良くしています。それもあって、看護師さんの医療ドラマを一度やってみたい思いが強くありました。それと、今回“バディもの”ということで、あまり朝ドラでは聞かない形態だったことも惹かれました。バディドラマに関しては、脚本家になった時からずっと『女性2人のバディものをやりたい』という思いも持っていたので、こんなにいい話はないだろうと、二つ返事でお受けさせていただきました」
吉澤氏といえば、連続ドラマでは『Dr.DMAT』(2014年/TBS系)や『病室で念仏を唱えないでください』(20年/同)など医療の世界を舞台にした作品も手掛けてきた。それでも、本作の原案となる『明治のナイチンゲール 大関和物語』を読んだ際、最も驚いたのは当時の看護師に対する世間の評価だった。
「今では考えられないんですが、看護師さんたちが下女扱いというわけではないですけど、ちょっと蔑まれるというか、それほど大変な仕事だと思われていたことが原案を最初に読んだ時のインパクトとしてあり、びっくりしました。今回のモチーフになる方が『誰々の娘』とか『誰々の妻』と夫や家に頼らず、自分の名前を得て、自分の肩書きで仕事をしていくことは、一筋縄ではいかない大変さがあったと思います。そういった先駆者の方々はこんなに大変だったんだと、丁寧に描いていきたいなと思っています」
本作ではバディドラマとして“きれいごと”ではない女性同士の関係性も意識している。その出発点には、これまで抱いてきた違和感があったという。
「一視聴者として、女性同士のドラマの描き方に違和感がありました。普段、会話しているときにこんなにきれいな言葉や敬語は使わないなと。男性の夢がドラマの中の女性像にある気がずっとしています(笑)。女性同士はもっと辛辣なことを言い合っている関係だと思うんです。仲が良ければ良いほど本音で言い合って、端から聞いていると『きついな』と感じるくらいのことが言える関係でないと、仲がいいとは言えないので、よりリアルな女性同士の関係を朝ドラで描こうと考えました」
あえて“間違える主人公”に「生身の女性として描ける」
もっとも、“リアル”な女性バディを描く上で、本作の舞台となる明治時代が一つのハードルにもなっていると苦笑する。
「まず時代が違うので『~じゃん』などとは言わないですし、言葉遣いでの難しさがありました。その制約の中で2人の親近感を出すことに結構苦労しています。ただ、それを描けたら、視聴者の方に『これは私とお友達の話だわ』と思ってもらえるので、結構厳しい山に挑戦している感覚はあります(笑)」
さらに、連続テレビ小説初執筆となる吉澤氏が直面しているのが、“1回15分”という放送時間だ。
「15分という感覚がまだ体に染みついていなくて、どうしてもあれもこれも書きたくなってしまい、まず収まらないんです(笑)。さらに、今回はバディものなので、主人公2人分の人生を描く必要があります。何度も朝ドラを手掛けているスタッフの皆さんもおっしゃっていますけど、2人のバランスを考えながら15分の枠に収めるのは結構苦労しています。第1週もどういうバランスで2人を描くべきか、かなり試行錯誤しました。でも、2人を中心に描くことで、とても分厚いストーリーになっていると思います」
また、時間という制約とともに、医療というテーマを扱う中での“バランス”にも苦慮している。
「ずっと悩み続けているのが、シリアスと朝ドラらしい明るさとのバランスです。誰かが亡くなることはドラマの中で大事なことなので丁寧に描きますが、コミカルな要素も大事にしたいと思っています。ただ、これも尺で苦労しています(笑)。特に第1週、第2週は登場人物の紹介も必要で情報量が多く、日常的なコミカルさまでたどり着けない日があるかもしれません。でも、今後少しずつ出てくるので、そこは楽しみにしていただきたいです」
そんな中、確かな手応えをつかんでいるのは“リアルな”主人公のキャラクター造形だ。見上演じるりんは、育ちはいいが天真らんまんで視野が狭くなりがち。一方の上坂演じる直美は神も人も心から信じきれず、目的のためには多少のうそやズルもいとわない柔軟さとしたたかさを持つ人物となっている。
「物語をきれいごとにしないために、主人公は“いつも正しい人”にはしていません。2人とも間違える主人公にしています。間違えたときに相手がツッコんだり訂正したりできるのがバディの強みで、書いていても心強いですね。その分、“清く正しく美しく”に寄せなくても、生身の女性として描けると思っています」
作品を通して、令和を生きる働く女性たちへ伝えたい思いについても語った。
「『苦労』と『つらい』は別というか、苦しくてもやりがいがあったり、それでもやりたいと思える気持ちは尊いことなんです。だから、苦しいからダメなわけではなくて、苦しいけど楽しいことが仕事の中にはあります。苦悩しつつ前を向くことを、ただつらいだけじゃないんだよって伝えたい。苦労するけど楽しいことがあって、仕事が誰かのためになって、それがまた誰かのためになる。その循環が最後に喜びとして返ってくると思うんです。働く女性は大変、つらいと言われがちですが、つらいだけだったら続けられないと思うので、苦労と楽しさが両立すること自体がやりがいなんだ、ということを伝えられたらと思っています」
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