DEEP JEWELS佐伯繁代表が漏らした女子格への苦悩 「つまらない」の声…人材不足だけではない停滞の理由

「ジョシカクは休憩時間と言われてる」。18戦無敗のRIZIN王者・伊澤星花が吐露した言葉は、現在の女子格闘技界が置かれた厳しい立場を象徴している。「つまらない」「いらない」というファンからの辛らつな声は、アンチだけのものではない。誰よりも危機感をあらわにしているのは「DEEP JEWELS」を運営する佐伯繁代表だ。昨年11月の「DEEP JEWELS 51」後の囲み取材では「組むカードがない」と衝撃の告白があった。一体どのような現状なのか。ENCOUNT格闘技班では佐伯代表への単独インタビューを行った。前編。

マッチメイクの苦悩を明かした佐伯繁代表【写真:増田美咲】
マッチメイクの苦悩を明かした佐伯繁代表【写真:増田美咲】

18戦無敗の女王の投げかけ「ジョシカクは休憩時間と言われてる」

「ジョシカクは休憩時間と言われてる」。18戦無敗のRIZIN王者・伊澤星花が吐露した言葉は、現在の女子格闘技界が置かれた厳しい立場を象徴している。「つまらない」「いらない」というファンからの辛らつな声は、アンチだけのものではない。誰よりも危機感をあらわにしているのは「DEEP JEWELS」を運営する佐伯繁代表だ。昨年11月の「DEEP JEWELS 51」後の囲み取材では「組むカードがない」と衝撃の告白があった。一体どのような現状なのか。ENCOUNT格闘技班では佐伯代表への単独インタビューを行った。前編。(取材・文=島田将斗)

「僕はよく言うんだけど、RIZINに行く(試合をする)時点で、うち(DEEP)では完結しちゃってるんですよ。もう作り上げたというか。もうやっちゃってるんです」

 あっけらかんと例に挙げたのは「RIZIN LANDMARK 12」(2025年11月3日)で行われた伊澤と大島沙緒里の試合だ。49キロ契約の試合だったが大島はミクロ級(44キロ)、アトム級(47.6キロ)を主戦場にしており、DEEPではその階級の王者でもある。

「伊澤と大島ってうちの現役チャンピオン同士が階級違いでやってるんですよ? 言い方はあれだけど、うちでもできるカードじゃないですか。そういうのがどうしても近年増えてきちゃってる。内輪でやってるようなもんなんです。

 RENA選手、山本美憂選手以外ってほぼうちの選手。(渡辺)華奈選手にしたって、パク・シウだってそう。伊澤ともみんなやってるし、日本での試合はある程度終わっちゃってんだよね」

 伊澤に敗れはしたが、大島も強豪だ。DEEP的にはそんな2人が対戦すると、ストーリーはそこでひと区切りついてしまう。「俺は別に気にしてないし『逆にいいんじゃない?』って支持した側なんだけど、本当はDEEPからするとおかしな話なんだよね」と笑う。

 そう懐の広さを見せつつ明かしたのは、やるべきマッチメイクと観客の求めるものの乖離だ。「本来RIZINのやるべきことって国際的な外国の選手を連れてくること。それがメジャーだと思うんですよ」と指摘しつつ難しさを説明した。

「国内最強と海外の未知の強豪との対戦。そうしていかないといけないんだけど、お客さんが“本当に求めてるか”だよね。伊澤さんがやったところで『よく知らない人とやってる』って言われちゃうし。誰でも知ってる海外の有名な人っていないでしょ? ギリギリ分かってハム(ソヒ)ちゃんとかスタンプ(フェアテックス)。もしかするとRIZINファンはスタンプを分からないかもしれない」

 外国人選手が知名度と人気を上げるには単発出場ではなく、複数回試合をしなければならない。

「日本人選手と戦わせて、連勝して溜めて、ようやく『こいつ強いね』って分かってもらってから伊澤とだよね。でも溜める余裕がないんです。お客さんもそれを待てないだろうし。例えばハム選手がRIZINに来たとして、ブランクを考えたら1試合誰かとやらせてから伊澤と対戦かなって思う。でも、年齢的にひょっとしたら負けちゃうかもしれない。そうしたらもうそのカードは使えないよね。須田萌里とやったら下手したら一本取られるかもしれない」

後編では現地会場の熱狂ぶりに迫る【写真:増田美咲】
後編では現地会場の熱狂ぶりに迫る【写真:増田美咲】

試合をできる選手が限られる驚きの理由

 外国人選手は市場には「探そうと思えばいる」状態。ただ運営の頭を悩ませるのは総コストだ。円安のいま、日本への渡航費だけで莫大なお金がかかる。

「もしいれば誰だって日本に来たいと思いますよ。ビザの関係もあって、外国人とのカードを組むなら相当早い段階で探してこないといけない。でもお金をかけて呼んで、溜めのために、デビューして2戦目3戦目の日本人選手に当ててもお客さんだって分からないじゃん。費用対効果合うかって話。合わないですよね」

 観客にも分かりやすく、それでいて“点”で終わらずにストーリーを描ける外国人選手はなかなか見つからないのが現状なのだ。

 一方、国内市場も問題は山積みだという。この視点を説明するうえで、まず佐伯氏が名前を挙げたのは、昨年大みそかのRIZINで伊澤に敗れたRENAだった。

「例えばRENA選手が現役続行と言っているけど、じゃあ次誰とやるの? って話ですよ。RENA選手が“普通の選手”だったら誰でもいますよ。でも“大御所”になって自分の立場もある。それに誰にも受けるリスクがなくて……とか考えたら、意外といないんですよ」

 そんな状況で「面白そう」と出した名前は須田だった。

「実際に『面白そう!』ってなるじゃん。ただ大御所と、いまの年齢的にキャリアで数試合しかできないなかでできるのか。もう一回、伊澤に向かいたいっていう気持ちがあるかだよね。そりゃあ難しいと思うよ」

 今月23日に開催される格闘技イベント「DEEP JEWELS 52」では伊澤の階級(49キロ)以外にもストロー級のカードも組まれている。しかし、このカードを組んだ時点で他のストロー級のカードは組めない。それほど、試合をできる選手は限られている。

 その理由のひとつに練習環境がある。

「同じ階級の選手が集まって練習したら、試合ができなくなっちゃうんですよ……。よく言われるのは『練習仲間だから試合できません』。負けるほうが嫌なわけです。でも、女子って元々選手少ないから集まっちゃいます。だから僕らも『練習に行くときは気を付けて』とは言います。一番ベストなのは出稽古に行くんだったら試合はできるようにしておいてねって。北岡(悟)と青木(真也)みたいに試合決まったらやればいいじゃんって」

 そしてもうひとつが青木真也も指摘していた柔道・レスリング経験者の台頭だ。

「柔道・レスリングで活躍してきたアスリートがすぐに活躍できちゃうので。男子だったらチャンピオンクラスと対戦するのはよくても5戦6戦やってから。でも女子は2戦目3戦目で戦えちゃうわけですよ。伊澤も2戦目で本野(美樹)さんに勝ってるので。要は体が出来上がってるんです。違う競技からトップアスリートが来るとやりたがらない選手もいるんです……」

 停滞の理由を人材不足と論じるのは早計だ。円安などによる外国人招へいのハードル、狭いコミュニティーゆえの練習環境問題――。がんじがらめの状況で、佐伯代表はカードを組み続けている。

 その一方で「DEEP JEWELS」の会場ではRIZINやUFCの物差しでは測れない、全く別の熱狂が生まれている。21日配信の後編では、他の団体では異なる形の人気の正体に迫った。

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