10代のダークサイド、いじめに向き合った問題作 高校生俳優・上村侑、体験を重ねた演技
「ライチ☆光クラブ」「ミスミソウ」など問題作を手掛ける内藤瑛亮監督の映画「許された子どもたち」がロングランとなっている。本作は実際の事件をヒントに、いじめを発端に同級生を殺してしまった中1の少年、絆星(きら)とその母親という加害者側の視点から描く問題作。映画賞レースの有力候補作と言われる本作の舞台裏を、内藤監督と絆星役を好演した現役高校3年生の上村侑が語り合った。
映画賞レースの有力候補作でロングラン「許された子どもたち」 内藤瑛亮監督×上村侑の対談インタビュー
「ライチ☆光クラブ」「ミスミソウ」など問題作を手掛ける内藤瑛亮監督の映画「許された子どもたち」がロングランとなっている。本作は実際の事件をヒントに、いじめを発端に同級生を殺してしまった中1の少年、絆星(きら)とその母親という加害者側の視点から描く問題作。映画賞レースの有力候補作と言われる本作の舞台裏を、内藤監督と絆星役を好演した現役高校3年生の上村侑が語り合った。
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――新型コロナウイルス禍の外出自粛明けの6月1日から2館で上映がスタートし、公開が全国に広がっています。この状況をどう受け止めていますか?
内藤監督(以下、内藤)「コロナ禍で起きた『自粛警察』という現象や木村花さんの件などとリンクするところがあって、ビビッドにお客さんに伝わったのかなと思います」
上村「映画館には何度も行きました。お客さんが入っているのを見ると、グッとくるものがありました。これは、みんながちゃんと考えなきゃいけない問題。ひとごとではなく、自分自身の身近な問題として感じてもらえたから、広がっていったんだと思います」
――内藤監督の作品は10代のダークサイドを当てた作品が多いです。本作ではいじめの加害者側が少年審判で不処分になりつつも、次第に被害者にもなっていく状況を提示します。
内藤監督「10代の頃、僕は暗かったんです。体格も小さかったので、スポーツマンにいじられているようなことはあって、これがいじめに発展したらイヤだなと思ったり、一方、いじめられている子には傍観者の立場でした。いじめの被害者でも加害者でもあったという実感があります。映画制作は10代の未精算の鬱屈を整理してくみたいな感覚なんです」
――今回はデビュー作「先生を流産させる会」以来の自主制作。10代の出演者を対象にワークショップを開催した上で、2017年から約1年がかりで撮影しました。その経緯は?
内藤「商業映画でやろうと思ったのですが、うまくいかなかったんです。この自主映画では時間をかけたいと思いました。この映画の場合、観客にとって無記名の存在が登場することが必要と感じ、ワークショップを始めました。男子の応募は定員ギリギリで、追加募集で来てくれたのが上村君でした」
上村「僕が進んで手を挙げたのではなく、事務所の方の薦めだったんです(笑)。演技レッスンは1、 2回受けたことはありますが、ワークショップは初めてでした。演技の指導というよりも、いじめとは何か、少年犯罪とは……を話し合うという内容でした」
内藤「ワークショップでは、自分の経験談をそのまま話すのではなく、人を取材して、取材相手を演じるという形を取りました。その中には、取材していない部分もあるわけで、そこは想像し、演じながら答えてもらいました。上村君は体格がいいから、最初はオラオラ系だなと思っていて、それだけだと絆星を演じ切れないなと思っていたんだけど、ワークショップを重ねるにつれ、孤独感、繊細さを感じた」
上村「僕は小学校の時はイケイケドンドンな性格だったんですけど、ツッパるはずの中学1年生の時に、自律神経失調症になって、半年間学校に行けなかったんです。それで学校に戻ったら、友達がいない状況。心はすごく痛んでいるのに、体はどんどんデカくなっていく。だから、監督と同じで、加害者側にも被害者側にも立てる立場だったんです」
内藤「最終日に、主役と言われて、どうだった?」
上村「実感はなかったです。経験がない分、撮影中プレッシャーを感じることなく『みんなと楽しく、いい映画が作ることができれば』という感じでしたね。プレッシャーを感じたのは、公開された後。周りからの見られ方も、『あの映画に出ていた子だ』という見られ方をするようになったり、舞台あいさつをさせていただいたりして、作品を背負っているんだ、ということを気づかされました」
内藤「上村君はワークショップの時から、受け答えがちゃんとしていて安心感があった。目にも力がある。最初の撮影(かかしを壊すシーン)での振り返った時の表情や目を見て、大丈夫だなと思った。答えにたどり着くまでは時間をかかるかもけど、ちゃんと自分で考えてたどり着く意志と力があると思った」
上村「最初の夏編は、自分は(いじめを)やる側だったので、本当に楽しかったです。(いじめる側は)楽しく感じてしまうものなんだ、と。みんなと楽しく過ごして、飯を食って、それでお金がもらえる(笑)。そんな風に思っていたんです。でも、自分が友達を殺してしまい、転校して逃げる側になる冬編から状況が一変し、つらくなりました。冬編の学校での討論会のシーンはダメージが大きくて、家に帰っても、ずっと頭の中で反響しているみたいな感じがありました」