激務限界で手放した愛車、泣く泣く「決別」したスポーツカー…取り戻した情熱、人生が変わった瞬間

どんなに大好きな趣味であっても、ライフステージの変化によって、離れてしまう時もある。スポーツカーを乗り継ぐ、走り好きの31歳男性。20代半ばで仕事に忙殺され、当時の愛車を手放し、「決別」を余儀なくされた。それでも、「もう一度やろう」。新たなスポーツカーとの出会いを果たし、情熱を取り戻した。今では、SNSコミュニティーのリーダーとして頼られる存在になっている。仕事も趣味も“クルマ”。紆余曲折のカーライフに迫った。

“MFゴースト仕様”のアレンジを加えた愛車トヨタ86【写真:ENCOUNT編集部】
“MFゴースト仕様”のアレンジを加えた愛車トヨタ86【写真:ENCOUNT編集部】

峠を駆けた“一匹狼”時代も

 どんなに大好きな趣味であっても、ライフステージの変化によって、離れてしまう時もある。スポーツカーを乗り継ぐ、走り好きの31歳男性。20代半ばで仕事に忙殺され、当時の愛車を手放し、「決別」を余儀なくされた。それでも、「もう一度やろう」。新たなスポーツカーとの出会いを果たし、情熱を取り戻した。今では、SNSコミュニティーのリーダーとして頼られる存在になっている。仕事も趣味も“クルマ”。紆余曲折のカーライフに迫った。

「選択肢としては、1ミリもなかったんです。たまたま中古店に置いてあって、コックピットに座らせてもらったら、ピンと来て。もうこれにしようと」

 2012年式のトヨタ86(ZN6)。4年前のその日のことを今でも鮮明に覚えている。「安くて遊べるスポーツカー」を探していて、当初はスズキ・スイフトスポーツを見に行った。予算もそこそこオーバーだ。それでも、「即決しました」。この86購入が運命を変えることになる。

 父はマツダRX-7(FC)、母は日産180SXに乗っていたほどの車好きだが、幼少期は興味を示さなかった。中学生の時、家にあった『頭文字D』をたまたま暇つぶしに読んだことで、車の趣味の世界に引き込まれた。

 愛車はスズキ・カプチーノ、RX-8と乗り継いできた。高校卒業後は自動車関係の仕事に就き、週末はドライブに繰り出して走りを楽しむ。仲間と集まるのではなく、1人で峠へ。そんな“一匹狼”が自分のスタイルだった。

 愛車が人生の中心にあった。ところが、24歳で店長に昇格すると、状況は一変する。想像を絶する激務に追われ、趣味どころではなくなってしまう。「もう本当に車のことを考えられない状況だったんです。自分の趣味は考える余裕もなくなりました」。

 仕事の責任、職場の人間関係の調整……。すべてが重くのしかかった。愛車のために割く時間を持てず、泣く泣くRX-8を手放した。「言葉にならないぐらい、悲しかったです。今でもRX-8に謝りたい思いです」。軽ワゴンに乗り、走りへの欲求は封印。働き詰めの日々を送った。

 手放してから約2年が経過。多忙に慣れ、心と体に余裕が生まれてきた。ここで、自分の生き方を見つめ直す。「ちゃんと趣味をもう一度やろう、と思ったんです。そう考えた時、自分にはやっぱり車しかなかったです」。こうして新たな愛車を探し始め、出会ったのが、86だったのだ。

「やりたいことをやろうと思って」 転職の決断

 今月に東京・江東区の「A PIT オートバックス東雲」で行われた、しげの秀一氏の最新連載『昴と彗星』がテーマのカーイベント。男性は『昴と彗星』の再現車両5台を集めることに尽力し、自身は同氏の人気作品『MFゴースト』仕様の愛車86を披露した。

 男性にはもう一つの“顔”がある。「『MFゴースト』が大好きで、面白い作品ですよというのを広めたくて、SNSで発信を始めたんです」。Xのアカウント「とらいあんぐる@GT86(@Dream_again86)」で投稿を重ねていくうちに、共感する人たちとつながりができ、ツーリングなど交流を深めていった。今では約30人のメンバーが集まるコミュニティーのリーダーとして、仕事の傍らカーイベントの幹事などに奔走している。

 大きな夢を実現させた。同じ11月、箱根で『頭文字D』と『MFゴースト』のレプリカ車両を集めた、愛好家やファンのオフ会を開催したのだ。なんと58台も参加車両が集まり、「いろんな人に知ってもらって、リアルに体感していただきたい。その一心です。こうして大きく開催できて本当によかったですし、オフ会を継続させたいです」。充実の表情だ。

 広がる人の輪。「それまではカーイベントに参加することもありませんでした。普段は会えないような職業・立場、幅広い年齢層の方々と同じ目標を持って活動できる喜びを感じています。光栄で幸せです」と実感を込める。

 人生のリスタートも切った。30歳を機に大きな決断をする。タクシー運転手への転職だ。

「やりたいことをやろうと思って。運転する仕事がしたかったんです」。接客も得意な男性にとって、タクシーのハンドルを握るこの仕事は天職だ。

 自身にとって、車というものは苦楽を共にする存在。欠かせない仕事であり、大切なライフワークでもある。「車は夢ですね。夢を形にしてくれた相棒でもあるので。ずっと車に向き合って、寄り添っていく人生を送りたいです。タクシーの仕事についても、常に腕を磨いていきたいです」。さわやかな笑顔を見せた。

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