きっかけは“耳鳴り”…演技派女優・黒沢あすかが明かす映画「積むさおり」誕生秘話

園子温監督の「冷たい熱帯魚」(2010)、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙―サイレンス―」(2016)などで知られる演技派女優・黒沢あすか(47)が特殊メイクアップアーティストで夫の梅沢壮一氏(51)が監督した短編映画「積むさおり」(新宿K's cinemaほかで公開中)に主演している。夫(木村圭作)が出す生活音に些細な不満を持つ妻さおり(黒沢)がある出来事をきっかけに激しい耳鳴りを感じ、やがて夫婦生活に恐ろしい出来事が起こるという物語。かつて、突発的末梢性眩暈症のため、主演舞台を降板した黒沢が、夫婦二人三脚で手掛けた本作への思い、闘病生活、夫婦生活について語ってくれた。

主演を務めた黒沢あすか
主演を務めた黒沢あすか

インタビュー 夫婦二人三脚で制作、監督は夫・梅沢壮一氏

 園子温監督の「冷たい熱帯魚」(2010)、マーティン・スコセッシ監督の「沈黙―サイレンス―」(2016)などで知られる演技派女優・黒沢あすか(47)が特殊メイクアップアーティストで夫の梅沢壮一氏(51)が監督した短編映画「積むさおり」(新宿K’s cinemaほかで公開中)に主演している。夫(木村圭作)が出す生活音に些細な不満を持つ妻さおり(黒沢)がある出来事をきっかけに激しい耳鳴りを感じ、やがて夫婦生活に恐ろしい出来事が起こるという物語。かつて、突発的末梢性眩暈症のため、主演舞台を降板した黒沢が、夫婦二人三脚で手掛けた本作への思い、闘病生活、夫婦生活について語ってくれた。

――「積むさおり」はヒロインの耳鳴りをきっかけに、映像世界で音を見せるというユニークな映画でした。こういう作品は観たことがありません。ご夫婦の体験が基になっているのかなと思い、監督に伺ったら、「(神経が細やかな)さおりの性格はむしろ僕に近い」とおっしゃっていましたが、真相は?

「(夫の)梅沢は音に敏感で、耳栓して寝るほどです。私の方が図太くて、隣で平気で寝ていたりしますね(笑)。梅沢は口に出さないけれど、日頃私が出すいろんな生活音に対して何か思うところがあったんでしょうね。それを私に自覚させようという意図があったのか、なかったのか、わからないですけど(笑)」

――監督は「黒沢さんは男のようなサバサバしていた性格」とおっしゃっていましたよ(笑)。

「そうかもしれません。梅沢は心根のやさしい人です。私は物事を右か左かスパスパ判断していくタイプ。というのも、子役でこの世界に入った時から、周りの方は男女問わず、そういうタイプの方が多かったので、私もそうじゃないといけないだろうと思っていました」

――いい夫婦ですね。「積むさおり」では夫婦間で起こることがとてもリアルでした。

「映画のさおりと夫の慶介には私たち同様、バツイチ同士。再婚5年目のカップルで、子供はいません。それなりに稼げているから、生活に苦労しているわけじゃない。なのにどんどん心が萎えていく。夫に言いたいことも日に日に飲み込むようになる。飲み込んで、いっぱいいっぱいになるから、耳鳴りが起こってしまう。本当はそこで離婚したら、すっきりするんだろうけど、二人は『その選択は二度としない』と誓った背景があって、頑張ってしまう。その結果、さおりの身に異変が起き始めるんです」

夫婦二人三脚で手掛けた短編映画「積むさおり」(C) 「積むさおり」製作委員会
夫婦二人三脚で手掛けた短編映画「積むさおり」(C) 「積むさおり」製作委員会

「私たち同様」バツイチ同士の夫婦間で起こることをリアルに描く

――黒沢さんは2012年に耳鳴り、めまいが原因で舞台を降板されたこともありましたが、当時、どういう状況だったのですか。

「ちゃんとセリフを覚えているはずなのに、撮影本番になると、セリフが出てこなかったんです。だから、セリフをメモして、いろんなところに隠していました。『カット』と言われた瞬間に蛇口をひねったように、セリフが頭の中を走ってくるということがありました」

――映画なら、そうしたことも可能だったと思いますが、舞台ではできませんね。

「舞台への苦手意識があったんですよ。舞台の話をするだけで心臓が高鳴るんです。長塚圭史さんが演出した舞台『南部高速道路』(2012)の時には稽古中に倒れたこともあって、薬でなんとか回避していました。そんなことをお客様の前でやったらいけないと思って、乗り越えたんですけど、最後は薬も効かなくなり、とうとう倒れてしまった舞台が(同年10月公演だった本谷有希子氏の)『遭難、』でした。最初はメニエール病だと言われましたが、1か月しても耳鳴りが収まらなかったんです」

――その後、どうなったのでしょうか。

「ある時、仕事でご一緒したある方から、お世話になっている先生をご紹介いただきました。治療は7年目に入り、今はようやく治まっています。その先生が言うには、耳鳴りというのは脳からの悲鳴、警報音なんだそうです。その警報音を無視していくと、さおりが経験している頭痛、めまいが起こり、日常生活が不安定になる。お医者さんからこうした伺った話は常々梅沢にも報告していました」

――では、そうした話がこの映画になったということですね。ご夫婦はどんな関係性ですか?

「梅沢も私も、自分が思い描く将来に対して、一生懸命に歩みを進めていくってことは一緒なんですけど、私は若い時はどうやったら良い芝居ができるのかということばかりしか考えていなかったです。というのも、両親からは『お前の代わりはいくらでもいる』と厳しき教育をされ、常に崖っぷち状態で、いろんな人から賞賛の言葉をいただいても半信半疑でした(笑)」

――親はどういう意味でおっしゃったんですか。

「祖父は(戦後を代表する歌手の)東海林太郎さんのバックバンドでバイオリン弾きをしていたので、女の子が生まれたら、芸能の道に進ませると決めていたらしいんです。そうしたら、11歳の時に、私が『人前に出たい』と言った。だから、芸能界入りには反対はなかったんですが、『児童劇団に入れるけども、連絡やその場所へ行くことは全部自分でやれ』というのが条件だったんです」

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