古舘寛治、映画『逃走』で重要指名手配犯・桐島聡を演じた葛藤 オファーを受けた時は「正直、困ったな」

半世紀にわたる逃亡の末、末期がんにより70歳で亡くなった東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー、桐島聡。その最期の4日間を描いたのが古舘寛治主演の映画『逃走』(15日公開、足立正生監督)だ。古舘が、世間を騒がせた重要指名手配犯を演じた葛藤を語った。

インタビューに応じた古舘寛治【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた古舘寛治【写真:ENCOUNT編集部】

『逃走』での最初の取材で本音「言葉にするのが難しい映画」

 半世紀にわたる逃亡の末、末期がんにより70歳で亡くなった東アジア反日武装戦線「さそり」の元メンバー、桐島聡。その最期の4日間を描いたのが古舘寛治主演の映画『逃走』(15日公開、足立正生監督)だ。古舘が、世間を騒がせた重要指名手配犯を演じた葛藤を語った。(取材・文=平辻哲也)

 このインタビューが本作での最初の取材だという。古舘は慎重に言葉を選びながら語る姿が印象的だった。

「言葉にするのが難しい映画ですね。今の時代は、何を言っても批判されてしまう。黙っているのが一番なんですが、インタビューではそうはいきませんから」

『逃走』は1974年、東京・丸の内で発生し死者8人、負傷者約380人を出した三菱重工ビル爆破事件を口火に、社会を震撼させた連続企業爆破事件で重要指名手配された桐島聡の物語。元日本赤軍メンバーで安倍晋三元首相銃撃犯を描いた問題作『Revolution+1』の足立正生監督が映画化した。

 一連の事件は同戦線の「狼」「大地の牙」「さそり」の3グループが関わったとされ、その後メンバーが逮捕されていく中でも、桐島は逃げ続けた。数十年前から「内田洋」という名前を使い、神奈川県藤沢市南部の土木工事会社に住み込みで働き、2024年1月25日、鎌倉の病院に担ぎ込まれ4日後に死亡。死の間際、担当医師に本名である「桐島聡」として死にたいと語った。

 映画では古舘が晩年、杉田雷麟が若き日を演じている。足立監督からオファーを受けた時は「正直、困ったな」が最初の感想だったという。

「おそらく、他に適任の方がいなかったのではないかと思ったんです。即決することは当然ありませんでした。僕はずいぶん前にツイッター(現X)で政治的な発言をして、左翼と批判されました。そういう非難をしたがる人においしいエサを与えるだけだと思いましたし、そんな人間が出演するのは、作品にもよくないんじゃないかな、と思ったんです」

 脚本は足立監督が自ら執筆したが、最初に受け取ったものは壮大な内容だった。

「最終的な内容とは違ったのですが、脚本が面白かったんです。冒頭のシーンはワールドカップのスタジアムで、多くの人を集める場面から始まるというもので、『これはNetflixで製作した方がいいのでは?』と思うほどスケールの大きなもので、とにかく監督にお会いしようと思いました」

桐島聡は「監督自身の分身のような存在だと思いながら演じた」

 足立監督は、若松孝二監督作品の脚本を手掛け、大島渚監督作品にも参加してきた。1971年、カンヌ国際映画祭の帰路に若松監督と共にパレスチナへ向かい、日本赤軍に合流。その後、国際指名手配され、1997年にレバノンで逮捕。3年間の禁固刑を経て、2000年に日本へ強制送還されたという異色の経歴を持つ。

「監督は『人たらし』だと周囲から聞いていましたが、実際にお会いすると、その通りでした(笑)。会った瞬間に惹かれるような魅力のある方で、『本が面白かった』とお伝えした途端に、握手を求められ、断れない状況になりました。まるで罠にかかったような気分でしたね」と笑う。

 桐島聡という人物はどう捉えたのか。

「70年代は学生運動が盛んで、若者が怒っていた。そういう意味では社会に怒りを持つ普通の青年だったのだと思います。彼は、戦後の日本が外国人やアイヌの人たちに行ったことへの罪の意識を持ち、それを償おうと行動した人物だったと思います。その信念には共感できる部分もありましたが、結果として彼が選んだ方法が正しかったかどうかは、また別の話です。桐島という人物は監督自身の分身のような存在だと思いながら、演じました」

 古舘は「クセのある役」を得意とするが、実在の人物を演じることには、演技には自由さもなく、難しさを感じたという。

「どのように演じても賛否は避けられないと感じました。特に今回は、撮影期間が10日間だったこともあり、精神的にも肉体的にも非常に厳しいものでした。長いセリフをひたすら覚え、思い出そうとしなくても自然に出てくるくらいまで体に落とし込む作業は大変でした。後半のシーンでは、現実と幻想の境界が曖昧になるような演出が多く、『これはどこまでが現実なのか?』と考えさせられるシーンも多かったです」

 桐島は、三菱重工ビル爆破事件(死者8名、負傷者約380名)には関与しておらず、韓国産業経済研究所爆破事件の容疑で指名手配された。しかし、実際にはこの事件にも関与しておらず、負傷者1名を出した間組江戸川作業所爆破事件の実行犯だったとされる。「もし出頭していれば、49年間も逃亡する必要はなかったのでは?」と尋ねると、「それは考えもしませんでしたが、なるほど、面白い視点ですね」と古舘は語った。

「ただ、彼にとって逃亡し続けることが『闘争』だったのではないかとも思います。仲間たちは亡くなったり、自ら命を絶った人もいたので、そうした中で自分は任務を貫徹する信念を持っていたのかもしれません。50年間に社会が大きく変わっていく中で、『自分は何のために闘っていたのか』『この国のために何をしたのか』と虚無感を抱いたこともあったのではないでしょうか。それでも、最後の瞬間に『桐島聡』として死ぬことを望んだのは、彼なりの答えだったのかもしれません」

 古舘が批判を覚悟して臨んだ問題作はどのように受け止められるか。

□古舘寛治(ふるたち・かんじ)1968年3月23日生まれ、大阪府出身。舞台俳優としてキャリアをスタートし、映画・ドラマなど多数出演。近年の出演作は、映画では『めくらやなぎと眠る女』(24年/ピエール・フォルデス監督)、『アナウンサーたちの戦争』(24年/一木正恵監督)、『ほつれる』(23年/加藤拓也監督)、『アネット』(22年/レオス・カラックス監督)、『子供はわかってあげない』(21年/沖田修一監督)、『罪の声』(20年/土井裕泰監督)、ドラマでは『滅相も無い』(24年/毎日放送)、『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(24年/NHK)など。『淵に立つ』(16年/深田晃司監督)ではカンヌ「ある視点」部門で審査員賞、ドラマ『コタキ兄弟と四苦八苦』(20年/テレビ東京)ではギャラクシー賞など複数の受賞をした。公開待機作に、今月28日公開のマーク・ギル監督『レイブンズ』がある。

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