「育児を性的なものにしないで」 授乳と称して胸を露出、批判殺到の不適切投稿 弁護士の見解は?
授乳と称し、露出度の高い姿をネット上に公開してアクセス数を稼ぐ女性アカウントの存在が物議を醸している。今月中旬、双子の乳児の母親を名乗るアカウントが、赤ちゃんへの授乳として胸をはだけた写真を公開。投稿は拡散され、「育児を性的なものにしないで」「こういうことをされると安心して授乳室が使えなくなる」など、女性を中心に批判の声が上がった。類似のアカウントは複数存在し、専門業者によるなりすましの可能性も指摘されている。ネット上に氾濫する新手の迷惑アカウントに、法的な問題はないのか。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士に見解を聞いた。

全く同じプロフィール写真の同名アカウントが少なくとも50以上存在、業者を疑う声も
授乳と称し、露出度の高い姿をネット上に公開してアクセス数を稼ぐ女性アカウントの存在が物議を醸している。今月中旬、双子の乳児の母親を名乗るアカウントが、赤ちゃんへの授乳として胸をはだけた写真を公開。投稿は拡散され、「育児を性的なものにしないで」「こういうことをされると安心して授乳室が使えなくなる」など、女性を中心に批判の声が上がった。類似のアカウントは複数存在し、専門業者によるなりすましの可能性も指摘されている。ネット上に氾濫する新手の迷惑アカウントに、法的な問題はないのか。日本とニューヨーク州の弁護士資格を持つ樋口国際法律事務所の樋口一磨弁護士に見解を聞いた。
問題のアカウントは昨年9月にX上で開設。アカウント名には「母乳育児中」の文字が入っており、「0歳の双子のママ」「母乳で育ててます」「26歳/専業主婦」「家でずっと子育てしているので気分転換できたらと思いはじめてみました」といったプロフィールがつづられている。投稿の大半は何気ない日常の様子ながら、「おはようございます 朝から搾乳しました」「2人合わせて10回以上母乳あげてます」など、乳房を露わにした写真も多数投稿。顔や胸の一部はスタンプなどで隠されている。
アカウント名で検索をかけると、全く同じプロフィール写真の同名アカウントが少なくとも50以上存在。多くはXによりアカウントが凍結されているが、一部では閲覧が可能なものも残っており、多くのフォロワーを抱えている。
今月中旬、投稿の1つが拡散すると、SNS上の女性ユーザーから「AIだか業者だか知らないけど、母乳育児をエロコンテンツと捉えられるような形で拡散しないで欲しい」「これ、世の母親全員を敵に回してると思うけど」「心の底から許せない。通報した」「授乳をエロコンテンツ化すんな」と批判の声が殺到。「これを真に受けて『双子ママはエロい』とか勘違いする輩も出て来そう」「『見たくないなら見るな』では済まないんだよね。ああいうアカがバズるたびに授乳で怖い思いをした」など、育児中の母親への影響を懸念する声も上がっている。
今回のアカウントに限らず、ネット上には公序良俗に反するようなエロ目的のアカウントが多数氾濫している。樋口弁護士は「わいせつ物頒布等罪にあたる可能性は十分ある」と指摘しつつも、今回のケースが「わいせつ物」の定義に当てはまるかどうかは曖昧な部分もあると解説する。
「わいせつ物か否かは最終的に裁判所が決めますが、定義は抽象的な表現にならざるを得ず、ボーダーラインも曖昧で、つまるところは常識論に委ねられることになります。陰部はアウトですが、胸については卑わいな形で露出をする場合と、授乳をしている場合のように、状況でも判断が異なる。投稿する側も、ギリギリのグレーゾーンを狙っているのだと思います」
今回話題となったアカウントを巡っては、AIの使用を疑う声や、双子の育児をしているという投稿内容そのものがうそではないかという指摘もある。SNS上で虚偽の内容を投稿することに問題はないのか。
「AIを使ったディープフェイクの場合、実在する特定の人物の画像や映像を使って虚偽の情報を流せば名誉棄損にあたりますが、全くの架空の人物である場合は現状、罪に問われることはありません。また、事実と異なる情報をもってお金を取ろうとしたら詐欺になりますが、例えば社会不安をあおる目的でデマを流しても、具体的な被害者がいなければ日本では罪にならない。ディープフェイクを使ったデマの拡散については、世界的には規制の潮流があり、日本でも今後法整備の必要性が議論されていくと思います。
ただ、性的にグレーゾーンな画像を生成することについては、見たい人が見るというだけで具体的な被害者がいないことから緊急性は低い。授乳を性的コンテンツにすることで実際の女性に被害が及ぶという論調も、そこに直接の因果関係を見出すことは難しいと思います」
そもそも、ネット上のエロアカウントを巡っては、あまりにも数が膨大なため、警察も捜査に消極的で、プラットフォームの対応もいたちごっこという状況が続いている。現状は発見次第プラットフォーム側へ通報を行うことが、氾濫するエロアカウントへの唯一の対抗手段と言えそうだ。
□樋口一磨(ひぐち・かずま)1976年千葉県柏市生まれ。慶大法学部卒業。一橋大学大学院修了。米国ミシガン大学ロースクール卒業。日本と米ニューヨーク州の弁護士資格を持つ。2011年6月、東京・千代田区に樋口国際法律事務所を設立。国内業務はもちろん、海外法務など国際案件にも幅広く対応している。メディアへの出演・コメント多数。
