生前の父が欲しがった名車「集めました」 異色住職の親孝行にネット感動「きっと喜んでる」
生前に父が「いいなあ」と欲しがっていた車が、不思議な縁もあって、手元に集まった。トヨタの3車種。しかもクラウンは亡き父が退職金でようやく購入できたものだ。車両オーナーである息子は、父のクラウンだけでなく、実家のお寺の住職の立場も継承していた。SNSで3台の愛車を紹介すると、「全部名車じゃんか」と反響を呼んだ。車が大好きな3代目住職に、親孝行への思いを聞いた。
人事担当サラリーマン→YouTubeが「本業の柱」のドリフト好き住職に
生前に父が「いいなあ」と欲しがっていた車が、不思議な縁もあって、手元に集まった。トヨタの3車種。しかもクラウンは亡き父が退職金でようやく購入できたものだ。車両オーナーである息子は、父のクラウンだけでなく、実家のお寺の住職の立場も継承していた。SNSで3台の愛車を紹介すると、「全部名車じゃんか」と反響を呼んだ。車が大好きな3代目住職に、親孝行への思いを聞いた。(取材・文=吉原知也)
左からチェイサー、クラウン、アリストが並んでいる。オーラを放つ3ショットだ。
「生前に父親が欲しかった車を集めました
一応、親孝行」
Xの投稿者は、ドリフト僧侶 こまっちゃん(@factory_you)。茨城・つくばにある真言宗醍醐派の寺院・向山寺(こうざんじ)の住職だ。
1954年に設立された同寺は、こまっちゃんの祖母が設立。公務員をしながら住職を担っていた父が2代目で、こまっちゃんは3代目に当たる。こまっちゃんが3年前から本格的に取り組み始めた「車両安全祈願」は、ファミリーカーからサーキットを走行するスポーツカー、バイクなどを対象に、年間約100台に交通安全への願いをかけており、車愛好家から話題を集めている。
しかもこまっちゃんは、住職でありながら、趣味のドリフト走行や車両カスタムをテーマに発信するYouTuberでもある。
35歳の異色住職の気になる半生。そこには、突如悲劇が訪れた家族の物語があった。
幼少期から車好きに育ったこまっちゃん。お寺の長男という自分の出生は理解していたが、社会人になる時は仏道には進まず、都内の会社勤めで人事を担当していた。
公務員との“兼業”でお寺を運営していた父を手伝うことはあった。年齢を重ねて少しずつ興味を持ち始める。「一度はお坊さんの生き方を体験してみるのもいいかも」と、29歳の時に副住職として寺の運営に加わるように。父が病気をしたことで支える必要も出てきていた。
実は向山寺は、檀家の寄付金を受け取らないスタイル。寺の改修などは、父が働いたお金で補填していた。今も、“持ち出し”で寺院の運営に勤しんでいる。仏事や祈願が収入源だ。
「自分で集めた、というより、気付いたら集まっていた」
2023年4月、大きな転機が訪れる。「父が大動脈解離で亡くなりました。急死でした」。63歳だった。それまで副住職として父を手伝っていたものの、実際にどれぐらい運用資金が必要なのか、人脈のやりとりや人間関係をどう構築していたのか。実務を教わる前に、急展開を迎えてしまった。心の準備すらもできていなかった。
悩んだ末に、代々続くお寺を「継ぐ」ことを決心した。会社員を辞めて最初は四苦八苦したが、車両安全祈願に注力し、YouTubeの動画・コンテンツ配信を「本業の柱」に据え、寺院運営と生活のバランスを立てていった。YouTubeチャンネル『you寺FACTORY【ドリフト僧侶】』はチャンネル登録者数14万人を超えており、確かな人気を獲得している。
お寺を継いでこの春で2年になる。「お坊さんをやりながら、大好きな車にずっと携わっていたい」という人生の目標はしっかり実現できている。
今回のトヨタの3台は、亡き父との関わりが強く、縁が深い。「チェイサーはもともと自分が好きで買ったのですが、僕のYouTubeを見ていた父が『息子が古い車に乗り始めて』と知人に話していたそうです。父から『これに乗りたかったんだ』と聞いたこともあります。『アリストかチェイサーを買おうか悩んでいたこともあるんだ』と話していたこともあります。父は高級セダンが好きで、若い頃は車検ごとに乗り替えるような人でした。子育てなどが大変で車を買えない時期もあって、公務員の定年を機に、『欲しかった車』にもう一度目を向けるようになったんです」。
それがクラウンだった。「いつかはクラウン」――。口癖のように父は話していた。納車1年待ちのところを早めてもらい、退職金を投入して念願の購入。夢の愛車にようやく乗り始めた。しかし、その1年後に帰らぬ人となった。「やっとの思いで乗ることのできたクラウンなんです。亡くなる前の1年間乗れただけでも……」。こまっちゃんは父の思いを代弁するように語る。
父のクラウンを継承し、そろった3台。「自分で集めた、というより、気付いたら集まっていた。そんな感覚を持っています」と感慨深げだ。
こまっちゃんは僧侶とドリフト愛好家と“兼業YouTuber”としてユニークな活動をしているが、実は父親譲り。「父は公務員で僧侶でありながら、ラジオDJをやっていました。70年代、80年代のディスコミュージックをネットで流して英語でしゃべって。そんなちょっと変わった父でした。僕のYouTubeも見てくれていて、『俺もYouTubeやりたい、教えてよ』とアカウントを作っていたんですよ。陰ながら応援してくれていたのかもしれない。今振り返ると、そんなふうにも思っています」と実感を込める。
4200件以上のいいねを集めた投稿は「すごい 今度見に行きたいですいいですかー」「全部名車じゃんか、個人的には100系がいい」「全部かっこいいですね」「NICE親孝行 完璧!!」「素晴らしい親孝行ですね。お父さんが生前に夢見ていた車を集めたなんて、きっととても喜ばれたことでしょう」など、感激と共感の声が寄せられている。
これからも歩む、唯一無二のドリフト僧侶人生。こまっちゃんは「自分自身がドリフト走行、モータースポーツに取り組んでいるので、チェイサーとアリストはレース場やサーキット場で活躍してくれると思います。YouTubeを見た方が喜んでもらえるような発信をしていきたいです。クラウンも大事に乗っていきたいですし、父もきっと、『またこんなことやってるよ』と喜んでくれていると思います」。あふれる思いを口にした。
ドリフト僧侶 こまっちゃんのYouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/@youfactory_drift/featured