樹木希林さんから“最後の弟子”と託された吉村界人の苦悩「翼が重いなと思うことがある」
話題作への出演が続く俳優の吉村界人(31)が9日からABEMAでスタートしたオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』に出演中だ。今作で吉村が演じるのは物語の展開に大きく絡むラップグループのリーダー格だ。近年はヒール役での出演が増えているが、どういった心境で演技と向き合っているのだろうか。
フィリピン人の大学生からもらった言葉「ヒールは『Change a story』」
話題作への出演が続く俳優の吉村界人(31)が9日からABEMAでスタートしたオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』に出演中だ。今作で吉村が演じるのは物語の展開に大きく絡むラップグループのリーダー格だ。近年はヒール役での出演が増えているが、どういった心境で演技と向き合っているのだろうか。(取材・文=中村彰洋)
今作は、ヒップホップと薬物の関係性に切り込んだ異色作。主演を務めるのはラッパーとして第一線で活躍を続ける般若で、違法薬物を摘発するため、ラップグループに潜入調査を行う警察官・伊弉諾翔吉(イザナギ・ショウキチ)を演じる。吉村は、伊弉諾が潜入するラップ集団「9門」と対立関係にある「RED HEAD」のリーダー・Born-Dを演じる。
吉村以外のRED HEADメンバーは全員が現役ラッパーという異色のチームでの撮影となった。本作の制作を担うのは気悦のコンテンツスタジオ・BABEL LABEL。吉村もこれまで、同チームの作品に多く関わってきた。そんな経緯もあり、今作では「ラッパーと俳優たちのパイプ役になってほしい。頼めるのが吉村くんしか思い当たらない」と直談判でのオファーを受けた。
ただ演技をするだけではなく、ラッパーたちの演技を陰から支えるという責務を担うこととなったが、「プレッシャーがありましたね」と口にする。「僕は、ラッパーの方からしたら、フェイクな存在だと思うんです。本職の方々と対峙(たいじ)して、『無理だな』と思うこともありました」と撮影を振り返る。
一方で、ラッパー陣が見せる現場での素直な反応から刺激を受けたことも明かす。
「ヒップホップの方もある種、自分を演じている部分もあるので、演じることに慣れているのか、役者との差みたいなものはあまり感じなかったです。それよりも監督と話している時の素直な感じが印象的でした。何か指示をされた時、『なんで、ここでこう動くの?』みたいな疑問をずっと投げかけていたんです。
そういった部分を目の当たりにした時、自分のスタイルを持ち続けることの大切さに気付かされました。ヒップホップの中でもいろいろなスタイルがあって、それぞれが自分のスタイルを大事にしながら、そのスタイルで成功を収めようとしているんです。役者は、どうしても外からの見え方などを意識することも多いので、自分を貫く姿勢が改めて勉強になりました」
これまで演じてきた個性的な役の数々「死なない役のほうが珍しい(笑)」
吉村自身も自然体でありのままを表現しているイメージを持たれがちだが、当の本人は「計算が追いつかないからできないだけです」と笑う。「いろんな一面を見せていきたいなとも思いますよ。爽やかなイメージのCMにも出演してみたいと思ったりもしますが、そのために髪型を変えて、服装も近づけて……とか考えると、無理してまではやらなくてもいいかなと思ってしまうんです」。
また、「悪口とかも言われたくないんです」と人間臭い一面も見せる。近年は物語のヘイトを一手に引き受けるようなヒール役を演じることも多い。当初は「主人公をやりたい」と思うこともあったというが、約1年前にある大学生からもらった言葉で、その思いが徐々に変化していった。
「今は主役でも引き立て役でも、どんな役でもいいと思っています。1年前に英語の勉強をしていて、フィリピン人の大学生の先生と主人公と悪役について話したことがあったんです。その人が、主人公は『Make a story』で物語を作り、ヒールは『Change a story』で物語を変える人と言っていて、素直に『すてきだな』と思ったんです。僕にストーリーを作るのは無理だけど、変えることはできるんだなって。その言葉がすごく好きで、そこからヒール役でも楽しくやろうと思うようになりました」
過去には名優・樹木希林さんから“最後の弟子”と称されるなど、将来を嘱望される存在だが、「プレッシャーがすさまじいです。泣き言を言いたいくらいですよ」と素直な胸の内を吐露する。
「正直、『翼が重いな』と思うことがあります。もっと軽い翼を与えてくれたら、ラクに飛べるのにって。違うとこに飛んでっちゃうかもしれないですけどね(笑)。いただく役も個性的なものが多くて、脱いで、髪を染めて、耳や体に穴を開けて、叫んで、キレて、血だらけになって……。死なない役のほうが珍しいぐらいですからね(笑)」
話題作での活躍も目立つが、「まだ全然飛べていないです」と苦笑い。自身の立ち位置についても自分なりの目線で分析している。「いろんな同世代の俳優と話していても、どこか考え方に溝を感じることが多いんです。極力合わせようと思っているつもりが、自然とズレてしまうんです。ちゃんと歌っているつもりなのに、音程が外れている感じなんですよね」。
出演作を見ることにはいまだに抵抗感「顔が真っ赤になっちゃう」
演技の世界に飛び込んでから約10年の月日がたったが、今でも自分の出演作品を見ることに恥ずかしさを感じるという。「自宅で1人で見ていても、顔が真っ赤になっちゃうんです」。役者を続ける中で楽しさを感じる瞬間も「正直、ずっとない」とも語る。そんな中でも、役者を続ける理由は「新しいことにトライしている瞬間」にやりがいを見いだしているようだ。
「これまでにやったことのない役に挑戦する時、最初は『イヤだな』と思うんです。でもいざやってみると、『きつかったけど、もうちょっとやってみるか』って気持ちになれるんです。今回の『MOGURA』も新しいですよね。多分賛否が分かれる作品だと思います。そういう作品に出ることが楽しさなのかもしれないです。僕は『お金を稼ぎたい』とか『有名になりたい』をモチベーションにするタイプではないですね」
今後について、主演もヒールも「分け隔てなく全部やりたい」と力を込める。「金髪でも、丸刈りでも、医者でも弁護士でも、なんでもやりたいですし、いろんな人と対峙して、自分のことをもっと知っていきたいです」。
一方で、芸能界への執着心は「まったくない」とも明かす。「明日クビと言われても、未練はないです」。あくまでも等身大な自分でいることを重要視し、王道から少し外れた立ち位置でいることも自覚をしている。「いつかそんな僕を受け入れてもらえたらうれしいです」。
自然体な“吉村界人らしさ”を表現しながら、物語をチェンジする役割を今後も担い続ける。
□吉村界人(よしむら・かいと)1993年2月2日、東京都出身。2014年に映画『ほとりの朔子』で映画デビュー。以降、映画やドラマなど多数の作品への出演を続ける。映画『モリのいる場所』(18年)では、樹木希林さんの「最後の愛弟子」として話題となった。また、Netflix『地面師たち』(24年)では、ホスト役で注目を集めた。25年もABEMAオリジナルドラマ『警視庁麻薬取締課 MOGURA』ほか、『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS系)などに出演する。趣味は、絵を描くこと。25年公開の映画『Welcome Back』の影響で現在もボクシングジムに通っている。