【東京女子】“最悪の親のすねかじりニート”がマスクウーマンになるまで 「死んでいた心が蘇った」出会い

人生、何が起こるかわからない。大学を卒業したものの就職もせず、本人いわく「最悪の親のすねかじりニート」だった彼女を表舞台に引っ張り出したのは、職人が集うフェスで行われていた路上プロレスとの出会いだった。その路上プロレスの主役は高木三四郎(※高の正式表記ははしごだか)と葛西純。当時はDDTの大社長だった高木と、トップデスマッチファイターの葛西が、のちに愛と平和を守るニューヒーローとなるハイパーミサヲの心に火を点けた。

 ハイパーミサヲはいかにしてヒーローになったのか【写真:(C)東京女子プロレス】
ハイパーミサヲはいかにしてヒーローになったのか【写真:(C)東京女子プロレス】

「絶対やっちゃいけないことをやってハチャメチャだな」と思ったプロレス初観戦

 人生、何が起こるかわからない。大学を卒業したものの就職もせず、本人いわく「最悪の親のすねかじりニート」だった彼女を表舞台に引っ張り出したのは、職人が集うフェスで行われていた路上プロレスとの出会いだった。その路上プロレスの主役は高木三四郎(※高の正式表記ははしごだか)と葛西純。当時はDDTの大社長だった高木と、トップデスマッチファイターの葛西が、のちに愛と平和を守るニューヒーローとなるハイパーミサヲの心に火を点けた。(取材・文=橋場了吾)

 2014年7月。東京ビッグサイトで開催されていたハンドメイドフェスに、ハイパーミサヲはいた。そのフェスは、職人が集いマーケットを出店しているイベントで、主催者と高木三四郎が旧知の仲ということもあり、路上プロレスが行われていた。

「当時の私はプロレスルールも知らないですし、何なら何のジャンルにあてはまるかもわからない状態です。タレントや芸人の方々がバラエティ番組でやっていたことを知っているくらいで。ハンドメイドフェスは母親の付き添いでいくことになったのですが、当時の私はその年の春に大学を卒業して就活もせずニート状態でして……東京で一人暮らしをして引きこもっているという最悪の親のすねかじりみたいな状況だったんですね。親も何とかしてくれという思いだったのかもしれないです。そのフェスで路上プロレスがあるというのは知っていて、実際見に行ったら、リングもなければ座席もない……DDTプロレスという名前は見聞きしたことがあったので、漠然とちゃんとした団体なのかなと思っていたんです。

 いざ試合が始まったら、レスラーがステージを降りて会場全体で戦って……狭い通路にも突っ込んでいくし、一点ものの商品を凶器に使っているし。最後は葛西(純)さんがラダーから飛んでテーブルごとぐしゃぐしゃにして終わったんですけど、絶対やっちゃいけないことを率先してやっていたのが高木さんでした。ハチャメチャだなと思ったし、大人なのにこんなハチャメチャなことしていいんだという、ものすごい衝撃を受けました。一方、私は大学時代に人生に思い悩み、一時は自殺未遂を起こすほど追い込まれていたんです。

 そんな状態だったので、就職活動すら引け目を感じてできず、無内定で大学を卒業してしまった。自分はもう社会からドロップアウトしているから『人生もうおしまいだ』と思っている時期だったんです。そんな中、わかりやすい人生のレールでないところにいるのに輝いている人(高木)に初めて出会って、死んでいた心が蘇るような感覚がしたんです。それで調べてみたら、その試合で一番やっちゃいけないことをしていた大人(高木)が、その団体の社長で経営もしていたという(笑)」

デビューから最近のケガ・復帰を振り返ってもらった【写真:橋場了吾】
デビューから最近のケガ・復帰を振り返ってもらった【写真:橋場了吾】

人生のすべてを武器にするプロレスラーになりたい

 ミサヲはすぐに行動を起こす。1か月後、両国国技館で開催されたDDTのビッグマッチを見に行っていた。

「男子の中に女子も混じっている試合もあれば、マッスル坂井さんの煽りパワーポイントや山里亮太さんの肛門爆破もあって、さらに髙木さんと葛西さんが出場した両国国技館全体を使った路上プロレスもあって、プロレスってこんなに面白くて楽しいジャンルなんだと知ったんです。その中に東京女子プロレスの提供試合もあって『そうか、女子だけでもプロレスをしていいんだ』『じゃあ東京女子プロレスに入れば、女子だけでこんな楽しいことができるかもしれない』と勝手に思ったんです。普通の就活にすら躊躇していた自分が気づけば、大会が終わってすぐに書類を送っていました」

 東京女子プロレスに入門して5か月後、「最悪の親のすねかじりニート」はハイパーミサヲというマスクウーマンとしてデビューを飾った。

「応募したときの書類にも書いたんですけど、路上プロレスで見たレスラーの方々が、自分がくすぶっていたとき、何に対しても無感情だったのに惹きつけられたという意味でヒーローに見えたんですよね。それで、私もそういうヒーローになりたいと。同時に私はダークヒーローであるバッドマンやキャットウーマンが好きなので、彼らのイメージをごちゃまぜにしたマスクを付けて……あとはWWEにいたザ・ハリケーンも参考にしました。あと、子供がヒーローごっこをする時に、風呂敷をマントに見立ててつけるイメージで、初心を忘れないように唐草模様の風呂敷をイメージしたマントをつけるようにしました」

 来年2月でデビュー10周年を迎えるミサヲは長いマイクパフォーマンスとずる賢いファイトスタイルを武器に闘ってきたが、入門のきっかけとなった髙木、葛西とはそれぞれシングルマッチでの対戦を実現させ、さらにマッスル坂井ことスーパー・ササダンゴ・マシンとは、自身の結婚発表という重要な局面で関わりあい、ハードコアマッチにも身を乗り出して勝俣瞬馬と激闘を繰り広げた。すべては両国国技館で魅せられた「プロレスの原体験」が、東京女子プロレスでの原動力になっている。

「選手それぞれが思い描いているものを自由にやらせてくれるのが東京女子プロレスだし、この団体だからこそ対戦できたと思っています。そういう環境がありがたいです。あの日に見た、人生のすべてを武器にしてしまうプロレスが好きだし、私もそういうプロレスラーになりたいです」

(24日掲載の後編へ続く)

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