倉庫で眠っていた車検切れ国産名車「救ってあげないと」 自らレストアで“復活”も「不思議な故障がちょこちょこ」

倉庫にずっと置かれている国産旧車は車検が切れて約20年。シートをかけているが、ほこりをかぶってしまっている。「救ってあげないと」。眠れる貴重車を、自らレストア復活させた。1972年式ダットサン・ブルーバード1400デラックス。学生時代の思い出の1台でもあり、すてきな巡り合わせの物語がある。オーナーになったばかりの53歳の男性整備士は、ハンドルを握るたびに喜びを感じている。

思い出のダットサン・ブルーバードと共に歩んでいく(パレードイベント時に撮影)【写真:ENCOUNT編集部】
思い出のダットサン・ブルーバードと共に歩んでいく(パレードイベント時に撮影)【写真:ENCOUNT編集部】

「20代には早過ぎますが、いま自分が50代になって、このクルマに乗るのに一番いいタイミングかなと」

 倉庫にずっと置かれている国産旧車は車検が切れて約20年。シートをかけているが、ほこりをかぶってしまっている。「救ってあげないと」。眠れる貴重車を、自らレストア復活させた。1972年式ダットサン・ブルーバード1400デラックス。学生時代の思い出の1台でもあり、すてきな巡り合わせの物語がある。オーナーになったばかりの53歳の男性整備士は、ハンドルを握るたびに喜びを感じている。(取材・文=吉原知也)

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 このブルーバードは、日産の名ブランド車「ダットサン」の保存・啓発活動を行っている「全日本ダットサン会」とゆかりが深い。平成元年ごろ、約35年前のことだ。当時パレードイベントの展示車両を探していた同会の佐々木徳治郎会長が通勤途中に偶然、中古店に置かれているのを発見。中古で購入したものだ。その後は同会で保有し、当初は初代事務局長が管理していた。

 男性は懐かしい写真を見せてくれた。1992年ごろに撮影されたもので、このブルーバードと一緒に、3人の人物が笑顔で写っている。「これは千葉にツーリングに行った際、記念に撮ったものです。佐々木会長と、女性は初代事務局長。この若い人物は私です。当時学生だったんです」。根っからのクルマ好きの男性は、学生時代に全日本ダットサン会に入会。社会人になって自動車整備会社で働きながら、同会の活動に参加し続けている。今の愛車には、ずっと昔から出会っていたのだ。

 ブルーバードは同会のイベント出展などで長年活躍を示してきたが、時と共に出番が少なくなっていった。次第に、倉庫にしまわれがちに。佐々木会長のダットサンのコレクションを整理するタイミングもあり、「リストラされそうになったんです」。自動車整備の教材として整備学校に提供する案も出ていた。

 実はそれまで男性は、佐々木会長たちから「乗らないか?」との“オーナー就任”の打診を受けていた。一方で男性は1600SSSや1800SSSといったスポーツグレードにあこがれを抱いており、「ブルーバード510型は好きなクルマなのですが、このブルーバードはベーシックグレードなので、正直そこまで欲しいとは思っていなかったんです」。なかなか“乗り気”にはなれなかった。ちなみに、普段乗っているのは「プロパン車」のセドリックだという。

 時代の流れとともに、心境に変化が訪れた。近年の世界的な国産旧車人気の高まりによって、日本の旧車が手に入りにくくなってきた。「ブルーバードも含めて値上がりがすごくて。自分も年齢を重ねてきて、1度乗ってみようと思い直したんです」。昨年、オーナーになることを決心した。

 昨夏、久しぶりに倉庫から引っ張り出した。雨風に当たることはなかったが、やはり長年動かしていなかったので、あちらこちらで修理が必要な状態だった。自らレストアを手がけた。仕事の空き時間に、少しずつ。ブレーキを整備したり、プラグを交換したり。なかなか部品がなく、苦労した。最後の仕上げは、勤務先の整備会社の力を借りて車検を取ることができた。

 いざ久しぶりに動かしてみると、意外なところが不調に。「ずっと眠っていた分、急に水とオイルと火が通ると、小さなトラブルが出てくるんです。例えば、ヒーターホース自体はしっかりしているのですが、一部分が裂けて水漏れしたり。不思議な故障がちょこちょこ起こります。その意味では今もレストア中ですね」。走らせながら、細かな修理を重ねている。

 パーリーシルバーの車体カラー。過去に一度塗り直したというが、今もきれいに輝いている。フェンダーミラーは佐々木会長がスポーツタイプのものを取り付けたというが、ほとんどがオリジナルのまま残っている。エンジンも50年以上、現役バリバリだ。「この形のまま、手を加えずキープする」ことに使命感を持っている。

 学生時代からのなじみのクルマだ。「20代には早過ぎますが、いま自分が50代になって、このクルマに乗るのに一番いいタイミングかなと思っています。自分もこういうクルマに乗る年齢になってきたということなのかなと。“おじさん仕様”のクルマがちょうどいいかもしれませんね(笑)」。

 今年83歳を迎えた、尊敬してやまない佐々木会長から引き継いだ名車。「何とかしてこのクルマを生かしたい。救うことが最大の目的でもありました。これからですか? せっかく手に入れたので、この先も大事に乗っていきたいです。後世に残す、ということも大事に考えています。もし自分がいつか乗れなくなったとき、次の方にしっかり乗ってもらいたい。なんとか残していきたい。そう思っています」。優しい表情で愛車を見つめた。

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