最凶の悪役に「共感」するワケ…ホアキン・フェニックス「ジョーカー」の“危険度”

世界的な大ヒットを記録している映画「ジョーカー」(トッド・フィリップス監督)が、映画関係者の間で話題を呼んでいる。注目されるのは、主演を務める俳優ホアキン・フェニックスの怪演だ。アメコミを代表する「バットマン」の宿敵ジョーカーを織りなす要素は、狂気、混沌、絶望、そして“笑い"が複雑に絡み合う。第76回ヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞し、今季の賞レースの主役に躍り出た本作は、なぜ人々を惹きつけるのか。

(C)2019 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved   TM & (C) DC
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ジョーカーの不気味な笑いに惹きつけられる…気鋭の映画監督・松本優作がヒットの理由を分析

 世界的な大ヒットを記録している映画「ジョーカー」(トッド・フィリップス監督)が、映画関係者の間で話題を呼んでいる。注目されるのは、主演を務める俳優ホアキン・フェニックスの怪演だ。アメコミを代表する「バットマン」の宿敵ジョーカーを織りなす要素は、狂気、混沌、絶望、そして“笑い”が複雑に絡み合う。第76回ヴェネツィア国際映画祭で最高賞の金獅子賞を受賞し、今季の賞レースの主役に躍り出た本作は、なぜ人々を惹きつけるのか。

完成度の高さゆえ、かなり危険な映画だと語る松本監督
完成度の高さゆえ、かなり危険な映画だと語る松本監督

「アメコミの映画が、ヴェネツィア国際映画祭でグランプリを獲るなんて、今までなかったんじゃないですか?それもありますけど、『ジョーカー』はかなり危険な映画だと思いました」

 そう語るのは、映画監督の松本優作氏(27)。秋葉原無差別殺傷事件をモチーフに、現代社会における加害者と被害者の複雑な人間模様を描いた初監督作品「Noise」(2019)は、モントリオール世界映画祭など各国の映画祭に出品された。また2作目となる「日本製造/メイド・イン・ジャパン」も高い評価を受けており、いま最も注目されている若手監督のひとりだ。

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"普通の人"が引き起こす事件に怖さがある

「もともとサイコパスなんかじゃなくて、社会に取り残された弱者、いわゆる”普通の人”が引き起こした事件を描いているのは、僕の『Noise』にも通じる部分はあるのですが、『ジョーカー』はその主人公に観客が同情して『そうなってしまうのも仕方がないよね』と善悪の区別なく、一方的に惹き込まれていってしまう」

 映像作品をつくる側にいる松本監督であっても、「怖さ」をまざまざと感じたという。

「でも考えてみたら、そうだ、これはアメコミなんだ、ゴッサムシティなんだ、フィクションだったって、思い返すとちょっと安心する。要は完成度が高いから、そう思えるんでしょうね」

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 ジョーカーの誕生譚をあぶり出した本作。コメディアンを夢見る、孤独だが心優しいアーサーが主人公だ。劇中では、貧困や行政支援の打ち切り、暴動といった生々しいテーマが貫かれている。こうした社会問題の中でもがき苦しむアーサーは、“悪のカリスマ”であるジョーカーに変貌を遂げていく。

 今回のストーリーは、売れないコメディアンが強盗団に参加し、化学工場でバットマンに追われ、薬品の中に落ちて……というアメコミ作品の「バットマン:キリングジョーク 完全版」や「バットマン:笑う男」(いずれも小学館集英社プロダクション)で描かれたジョーカーのオリジンとは一線を画す。生まれつきのジョーカーが存在するのではなく、誰もがジョーカーになってしまうかもしれないーー。本作は、社会へのメッセージが投げかけられているともいえる。

 最凶のヴィラン(悪役)は過去に、名優たちによって演じられてきた。ジャック・ニコルソンは「バットマン」(1989年)で、狂気に満ち、なおかつコミカルな演技でジョーカー像を打ち立てた。「ダークナイト」(2008年)の公開前に急死したヒース・レジャーが、徹底的にのめり込んだ名演技は後世に語り継がれている。

次のページへ (2/3) アーサーを演じたホアキンの演技力を分析する
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