グラドル→女優&書道家 作品が『ブラックペアン2』で採用されたおしの沙羅の思い「書は自分を救ってくれる」
グラビアアイドルとして活動後、俳優に転身し、昨年は書道家デビュー。29歳のおしの沙羅は、書道家としては雨楽(うら)の雅号で活動し、テレビ東京系連続ドラマ『ジャンヌの裁き』では出演に加えて題字なども手掛けた。今年11月には主演舞台があり、12月には書の個展を開催する。その異色の歩みを本人に聞いた。
おしの沙羅、雅号は雨楽
グラビアアイドルとして活動後、俳優に転身し、昨年は書道家デビュー。29歳のおしの沙羅は、書道家としては雨楽(うら)の雅号で活動し、テレビ東京系連続ドラマ『ジャンヌの裁き』では出演に加えて題字なども手掛けた。今年11月には主演舞台があり、12月には書の個展を開催する。その異色の歩みを本人に聞いた。(取材・文=一木悠造)
――俳優業をしながら、書道家としての活動を始めて1年半がたちました。今の心境はどうですか。
「どうなっていくのか未知なスタートではありましたが、とても充実しています。まだまだ道半ばではありますが、いろいろな方面からお仕事をいただく中で新たに挑戦したい興味の範囲も広がっています」
――芸能界デビューのきっかけを教えてください。
「大学生になったタイミングでレースクイーンの仕事を始めまして、そこからグラビアのお仕事のお誘いを受けたことがきっかけでした。気付けば芸歴10年程になりました」
――グラビアアイドル時代の思い出はありますか。
「毎日、目の前のことに必死で取り組んでいました。ずっと忙しくさせていただいていたこともあり、当時の記憶があまりないんですよね……。とにかくやり切ったという感じです。本当にたくさんの方に支えていただきました」
――25歳で俳優に転身しましたが、転機は何でしょう。
「ドラマに出演したことがきっかけでした。それまでは自分が俳優業をやるとは思ってもみなくて、初めて現場に立った時はとても不思議な気持ちでした。初めて見る世界は驚きの連続であり、刺激的でした。そして、グラビアアイドルの延長線上に未来の自分を描くよりも、全てを卒業しよう。身軽な状態で始めてみようと思いました」
――俳優業と並行して書道家としてもデビュー。その理由は。
「私は祖母が書道の師範なので、幼い頃から書が身近にありました。ただ、本格的に書き始めたのが大人になってからで、熱中しているうちに師範も取得できました。なので、苦労をしたという意識はあまりないです。振り返ってみると、書は自分を救ってくれるものだったと思います。書いている時はとにかく楽しくて、寝るのも忘れる時もありました」
書道で大切な“余白”…「人は本来無一物」
――曲線の際立つ独特の書体の作品が多く見られますが、この作風が生まれた経緯は。
「作品に色気を感じられるように線が生き、動きのあるものを追求していった中で自分らしい書体になっていきました。私の作品は抽象画に近いというか、思いのまま筆を進めてしまうので、わりと崩した字ができあがります」
――ドラマ『ジャンヌの裁き』でのタイトル題字と劇中文字も印象的でした。書作品のメディアでの露出も増えています。
「一つの作品に演者と書道家、両方の角度から携われたことは大きな財産になりました。題字のお仕事は、物語のメッセージ性について深く向き合う時間でもあったので、より作品に深入りできているようでうれしいです。先日、放送が終わったTBS系『ブラックペアン シーズン2』のセットにも私の書作品が使われていました。とても印象的な場所に飾られ、毎話、内野聖陽さんの背景に映っていたことから大きな反響をいただきました」
――個展も開催されていますね。
「個展では、自分の気持ちや感じたことを好きなように表現して、その時の心情、興味、記憶、思い出が如実に現れていると思います。内容を膨らませていく作業は、その時の自分に必要な要素を埋める作業にもなってます。個展を通じて、ロマンチスト女の真髄を少しでも伝えることができているのであれば本望です(笑)」
――12月には早くも4回目となる個展が東京で控えています。タイトルは「讃」とのことですが、そこに込められた思いは。
「谷崎潤一郎さんの『陰影礼讃』という小説を読んだことがきっかけでした。そこから『讃』の一文字をとってタイトルにしています。日本の美徳を語る1冊で、四季折々の情緒や暗闇の中でわずかにともる光のような繊細さ、質素な物の中にも趣を感じとれる心の機微や余裕、『間』に美しさを見出せる美学、想像して考える風習にこそ日本ならではの色気や魅力があると書かれています。書の魅力もそう言ったところなのかなと思うので、自分なりに深掘りしてみたいと思いました」
――書道から学ぶことはありますか。
「余白が大切だということです。書道も日常生活も、実際は余白の方が大事なのかもしれないなと思います。魅せ方次第では白い半紙に少し書くだけで味わい深い作品になったりして、塗りつぶすことだけが正解な訳ではないと感じています」
――日常生活に通ずる点は。
「特別楽しいことって人生の中では点のようなものだと感じていて、それ以外の日常の余白をどう使えるか、たしなめるかが実は一番大事なんじゃないかなと思うんです。書道も日常も、余白を『無』と捉えるか、『無がある』と考えるかで大きく変わってくるのではと。本来無一物(ほんらいむいちもつ)という言葉があるのですが、『人は何も持たずに生まれ何も持たずに死んでいく』という意味を持っています。例え大切なものを失っても、それは本来の自分に戻っただけのことであり、失うことを恐れるよりも何もない自分の周りにどれだけのありがたみが落ちているのか。それを思うと、日常や心の余白の大切さに気付かされる言葉でもあると感じます」
――作品づくりや仕事でうまくいかない時など、悶々とした時はどのようにリフレッシュしていますか。
「海で叫ぶとかですかね(笑)。昔から友人とよく海を見に行きます。単純なので、ギャーーーー! とか一発言うだけでスッキリしちゃいます。自然を見にいくことは多いです。あとは心おもむくがまま踊ってみたり。新橋のスナックで(笑)。ただ、感傷に浸れば浸るほど立ち直りも早いと思うので、思う存分に落ち込むことも多いです」
――11月には、舞台『何も変わらない今日という日の始まりに』に主演されます。
「浅草というエンタメの聖地で主演を務めさせていただけるなんて、大変光栄です。映像の作品に出演させていただく機会の方が多いのですが、舞台はまた一味違って毎回学ぶことがとても多いです。稽古はこれからなのですが今からワクワクしています。舞台は舞台にしかない臨場感や客席との一体感があって、観劇するのも好きなんです」
――今回の作品はどのような物語ですか。
「私が演じるのは不老不死について研究をする研究所の所長で、海に囲まれた島で研究者と被験者が生活をともにしています。不老不死が誰かのためになればと願いながら、日々、被験者達に薬を投与して研究を重ねますが、結果として脱走する者や命を落とす者も多く、被検者の補充のため、試験的に死刑囚を預かることに。そこからさまざまなことが巻き起こっていきます。とても複雑に心情が入り組んでいたり、生や死について考えさせられる内容だと思います」
――今後も俳優業、書道家としての活動し、挑戦を続ける中で大切にしたいことはありますか。
「好きと思ったものにはできるだけ忠実でいたい……かな。好きだと心から思えたり、実際に行動に移したいと思えることって、たくさんあるわけではないと思います。なので、素直な気持ちを大切にしたいです。うれしいと思ったら喜べばいいし、悲しいと思ったら泣けばいい。時には私自身の野生味を大切にしたいです」
――野生味ですか。
「動物って、自分の心をそのまま映す鏡のような心を持っているじゃないですか。本当は良いと思っていても、これをしたら周りにどう思われるだろう、自分は得をするのか損をするのか、行動よりも先に考えすぎると計らいが出てきてしまって正しい選択ができないようにも思います。自分で責任がとれそうなことくらいは動物達のように純真無垢に、思うがまま素直に行動したいです。失敗してもいいんです。だって元々、何も持たずに生まれてきたんですから(笑)」
□おしの沙羅(おしの・さら) 1995年6月3日、東京都生まれ。大学在学中にレースクイーンとして活動。その後、「忍野さら」名義でグラビアを中心に活動。23年9月10日に「おしの沙羅」への改名を発表。俳優としては、テレビ東京系連続ドラマ『ジャンヌの裁き』の他、TOKYO MX、BS日テレで放送の『牙狼<GARO>ハガネを継ぐ者』になど出演。今年11月13~17日には、東京・浅草九劇で上演の劇団皇帝ケチャップ 第18回本公演 『何も変わらない今日という日の始まりに』に主演。12月3~8日には、第4回書道個展『讃』を東京・京橋の孔雀画廊を開催(自由入場)。