「2人は正当な評価を受けて欲しい」―行定勲監督が山崎賢人と松岡茉優を高評価するワケ
若手で実力のある2人「まだ何者でもない人間を演じてもらった」
――主演に山崎賢人さんを起用した理由は?
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「原作を読むと、永田はクセのある、ひねくれた男で、又吉さん自身も投影されている部分もあると思えました。で、誰を起用するのかと思ったときに、意外と端正な顔立ちをした人間が一番こじれている人間を演じると、どうしようもなさが強まるかなと思ったんです。そこで山崎賢人はありだな、と思ったんです。例えば、成瀬巳喜男監督の名作『浮雲』(1955年)の森雅之はいい男なんだけど、何かイヤな奴に見えるでしょ。もちろん、山崎賢人とは年齢は違うけども、若い俳優がそういう男を演じたら、面白いなと。自己否定をするようにヒゲをはやしたり、きれいなのがイヤだというコンプレックスを抱えているわけです」
――松岡茉優さんは?
「非常に芝居ができる女優だと思っていたので、いつか一緒に映画をやりたいと思っていました。若手で実力のある2人に、まだ何者でもない人間を演じてもらったわけです。『劇場』はドラマ性、イベント事があまりない映画なんだけども、僕はそういう映画の方が好きなんですよ。純文学的な映画みたいなものをちゃんと確立したかった。セリフと性格描写、精神性みたいなものをちゃんと作り上げられる2人を選びました。繰り返しになりますが、この2人は正当な評価を受けて欲しいと願っています」
――「浮雲」は林芙美子記念館原作、水木洋子脚本。妻子持ちの官僚(森雅之)と高峰秀子演じるヒロインの恋愛ストーリー。森雅之が女にだらしない、どうしようもないダメ男を演じています。「劇場」の主人公をほうふつさせるところがありますね。「浮雲」のような映画を作りたかった?
「そうかもしれません。優柔不断なダメ男です。僕自身がそういう性格なのかもしれないですけど、人間って一人一人ずるさが違う。女がひたむきに愛しているにも関わらず、ずっとそこを実感できてないで、後で後悔するという物語。これが、日本の恋愛映画の一つの伝統なんじゃないかと思うんですね。岩井俊二監督は、『昔の自分を見るようで、本当にいたたまれなかった』と言っていました(笑)」
――アハハ。でも、そういう感情は分かります。突っ張って、生きていた若い自分を思い出す(笑)。
「永田は、自分は何でもできるぐらいと思っていて、沙希がすべてを肯定してくれることをいいことに、本当に恥ずかしいことを全部露呈して、当たり散らして、傷つけて、結果的に何も成就できない。見せてあげかったゴールも見せられない。そんな、すごく息苦しい話が主軸なんですが、僕は二人が下北沢の片隅を歩いていた、二人の良かった日々を思い出せる映画にしたかった」
――なぜ、ダメな男にひかれるのか?
「(主人公の感情の)わからないことがないんですよ。僕は、登場人物の気持ちがわからないと、面白いとは思えないです。基本的には曖昧な感情や役者からにじみ出るものを見るのが好きなんです」