永瀬正敏「ジレンマや相当なストレスを抱えた」…幻の名作「二人ノ世界」への壮絶覚悟
演じるのはバイク事故で頚椎損傷を負い、首から下の神経が麻痺するという役
――脚本は第10回日本シナリオ大賞佳作を受賞した同名作(松下隆一氏)ですね。
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「一部では話題になっていた脚本で、撮りたがっている映画監督さんもいっぱいいたそうです。それを学生たち中心で作ろうという試みに惹かれました。当時の京都造形芸術大学の映画学科は実践で学んでいくことがすごく多かったんです。僕も、当時、学生だった(『いいにおいのする映画』で長編デビューし、映画やドラマで活躍中の)酒井麻衣監督のゼミ課題の短編『神隠しのキャラメル』(2013年)に出してもらったこともあったんです。その時の現場が良かったです。楽しそうに作っているし、でも、なれ合いではなく、学生たちもいろんな思いを持ちながら、作っているんだなっていうことが分かった。だから、またそういう機会があればと思っていたんです」
――永瀬さんが演じるのはバイク事故で頚椎損傷を負い、首から下の神経が麻痺するという役。「光」(河瀨直美監督)では、目が不自由になるカメラマン役を演じていますが、今までにない難役だったのでは?
「そうですね。お芝居って、やりあいだけでは成立しないものです。どっちかが攻めて、どっちかがヘルプに回るというのが骨格になっているんですけども、相手役に対して、(体が不自由な役なので)何のヘルプもできないんです。例えば、少し僕が体をずらせば、やりやすくなるシーンでもずらせない。セリフにしなくても、ただフッと触れるだけでそのシーンの伝えたい事が表現できたりする……でも全くできない訳です。奇しくも今の世界の現状ともリンクしてしまっているかもしれません……。ジレンマや相当なストレスをすごく抱えました。ということは実際にそういう障害を持っている方々は日々、もっともっとすごいストレスに襲われているんだなと……。きれい事では済まないところがいっぱいあるんだろうなと思いました」
――役作りはどのように行ったのですか?
「実際にそういう障害を持っている方のヘルプをしている男性に来ていただいて、いろいろ指導していただきましたし、(首から下を)麻痺された若い女性に現場に来ていただきました。お話したり、お芝居を見てもらいました。その女性は明るく振舞っていらっしゃいましたけど、たまに『常に明日は闇だと思っています』という言葉がポロッと出るんですね。胸が締め付けられました。僕は、彼女や同じような障害を持った方々の全てを受け止めて、抱えて、この現場にいなければ、いけないんだなと思いました」
――重い言葉ですね。寝たきりの主人公ですが、後半では電動車椅子に乗るシーンもありました。
「学生映画の規模なので、予算的にも、ものすごくきつい現場ではあるんですけど、学生たちがちゃんと交渉して、電動車椅子を準備してくれたんです。担当の学生が僕と同じような態勢で練習してから、僕に操作方法を教えてくれたんです。撮影がない時はひたすら乗って、練習をしていました。手は使えないので、アゴで操作するんです。難しいし、怖い。急にスピードが出たりするんです。自分の思いが先に行ってしまうと、もっとスピード出したいと思うし、キュッと止まりたいと思うんですけども、慣れないと難しいんです」