原作者・恩田陸も絶賛する映画「蜜蜂と遠雷」主要キャスト4人の賞レースの行方
史上初の快挙となる「直木賞」(第156回)と「本屋大賞」(2017年)をW受賞した恩田陸氏の同名小説を映画化した「蜜蜂と遠雷」は、天才たちが集う国際ピアノコンクールに参加する若き4人のピアニストの姿を描く群像劇だ。原作者から「本を読んだひとが『見たい』と思うところを映像にしてくださっている」と評された本作は本年度の賞レースの有力候補だろう。
ピアニスト役・松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士が迫真の演技
史上初の快挙となる「直木賞」(第156回)と「本屋大賞」(2017年)をW受賞した恩田陸氏の同名小説を映画化した「蜜蜂と遠雷」は、天才たちが集う国際ピアノコンクールに参加する若き4人のピアニストの姿を描く群像劇だ。原作者から「本を読んだひとが『見たい』と思うところを映像にしてくださっている」と評された本作は本年度の賞レースの有力候補だろう。
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原作小説が優れていればいるほど、映像化のハードルは上がるものだ。読者は思い思いの映像を頭に浮かべながら、読み進めていくからだ。脳内で生み出された映像はどんな名作でもかなわない。その第一関門には原作者がいる。原作者の中には「原作と映画は別物」と考え、無条件で映像化権を手渡す人もいれば、「台本を読んで、キャストや監督を見ながら考えたい」という人もいる。本作がどのような経緯で映画化に至ったかは分からないが、成功のバロメーターは原作者のコメントがあるか、どうかだ。
その点では、恩田氏のお墨付きを手に入れられた幸福な映画となった。マスコミ用に配られるプレスシートには恩田氏のインタビューが掲載されている。恩田氏は「(原作ものは)どうしても、映像化しただけ、というものも多い。何よりも『映画として』完成していることが素晴らしいと思います。作品としての一体感がある。それがいちばんうれしかったです」とのコメントを寄せた。
ファンタジーを出発点に、いろんなジャンルを手掛ける恩田陸氏は多作の割に映像化作品はそんなに多くない。印象的なのは、鈴木杏主演のNHKドラマ「六番目の小夜子」(2000)、多部未華子主演の映画「夜のピクニック」(2006)、北川景子主演で12年にドラマ化され、2014年に映画化された「悪夢ちゃん」だろうか。
映像化不可能と言われた「愚行録」も成功させた鬼才・石川慶監督
「蜜蜂と遠雷」単行本は上下段組み508ページ。文庫本は上下巻に分冊された大作。恩田氏は映画化にあたっては「前編後編はやめてほしい」とリクエストしたという。しかし、この長編を2時間以内にまとめるのは相当大変だったはず。しかも、原作は、心理描写が巧みで、まるで文字から音楽が聴こえてくるようだ、と言われた。映画では心理描写は演出と演技に委ねられ、音楽は実際に音となる。
脚本・監督は、ポーランド国立大学で映画を学び、「愚行録」(2017)でデビューした鬼才・石川慶監督。「愚行録」も映像化不可能と言われた貫井徳郎氏のサスペンス小説。迷宮入りした一家惨殺事件の真相をめぐる群像劇で、理想的な一家が、誰によって、なぜ殺されたのか? 人間の本性に迫った。筆者も、映画の巧みな語り口に舌を巻き、キネマ旬報ベストテン第1位に挙げた。
石川監督作品の魅力を支えるのは、同じくポーランド国立大学出身のポーランド人撮影監督ピオトル・ニエミイスキが描き出す、淡い北欧映画的なルックだ。「愚行録」のほかにもWOWOWドラマW「イノセント・デイズ」(2018)でもタッグを組んでいる。その独特の色調は本作でも健在だ。
主な登場人物は4人。母親の死をきっかけに表舞台から姿を消し、今回のコンクールに再起をかける栄伝亜夜(松岡茉優)、年齢制限のため、これが最後のコンクール出場と覚悟を決めた妻子持ちのサラリーマン・ピアニスト高島明石(松坂桃李)、亜夜の幼なじみで、そのルックスと育ちの良さから「ジュリアード王子」と呼ばれるマサル・カルロス・レヴィ・アナトール(森崎ウィン)、養蜂家の息子で、正規の音楽教育を受けていない天才少年・風間塵(鈴鹿央士)。題名の由来になっているのは風間塵の生い立ちだが、映画では栄伝亜夜を主人公に据えた。