「こんなにボロボロだとは…」 “鉄くず危機”からフルレストア、60代オーナーの使命感

「このクルマを鉄くずにしてはいけない。後世に残さないと」――。熱い思いで執念のフルレストアに取り組んだ。1973年式のジャガー Eタイプ シリーズ3。まるで新車のようなピッカピカの輝きを放つ。V型12気筒エンジンの走行性能もばっちりだ。60代オーナーに、サビだらけからの復活物語を聞いた。

1973年式のジャガー Eタイプ シリーズ3が大復活を遂げた【写真:ENCOUNT編集部】
1973年式のジャガー Eタイプ シリーズ3が大復活を遂げた【写真:ENCOUNT編集部】

祖父は戦前にフォード、父は歴代ボルボを乗り継いだ“欧州車好き一家”

「このクルマを鉄くずにしてはいけない。後世に残さないと」――。熱い思いで執念のフルレストアに取り組んだ。1973年式のジャガー Eタイプ シリーズ3。まるで新車のようなピッカピカの輝きを放つ。V型12気筒エンジンの走行性能もばっちりだ。60代オーナーに、サビだらけからの復活物語を聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 代々、欧州車好きの血を引いている。「祖父は戦前にフォード、戦後まもなくはシトロエンに乗っていたんです。その後はシボレー、英国車ボクスホール、メルセデスも愛用していました」。父親は歴代ボルボを乗り継いだ。「私も父と一緒にボルボを乗って、今はS90を所有しています」。

 複数台持ちで、一風変わった愛車も。「キューベルワーゲンのレプリカモデルで、カナダ・インターメカニカ社による1997年製も持ってます。これはまさしく変態車ですね」と笑う。

 そして、“真打ち登場”だ。小学生の頃から大のクルマ好き。ミニカーを収集し、飛行機にも憧れた。幼少期から「いつか乗りたいな」と思い続けてきたジャガー。中古販売を丹念に探し、2020年に、ついに念願の1台を見つけた。

 いざ購入。一見の外観はきれいだった。しかし、何層にも重ねられた塗装の下は、様子が違った。「サビだらけでボロボロだったんです。後ろやガラスの一部分にひびがあったのは分かっていたのですが、中を見たらこんなにボロボロだとは……」。そこから決意のフルレストアに取り組んだ。

 修理専門店に依頼。塗装を全部はがし、ボディーもひっくり返して、ネジまですべてバラした。内装も一からはり直した。約1年半かけて、完璧な状態まで修復。ホイールはオリジナル部品を取り寄せるなど、こだわりの復活を遂げた。フルレストアの道のりを撮り続けたスマホの写真アルバムを振り返り、「早く乗りたい。その思いだけでした。レストアが完了して感激しました」と頬を緩めた。

 手間も時間も、それなりの費用もかけた。なぜここまでするのか。

「まず、このタイプのジャガーをフルレストアしている人は他にいないと思います。やっぱり、『後世に残さないと』。その思いなんです。このクルマだって廃車になって鉄くずになっていたかもしれません。今誰かがきれいにしておかないと。その一心で取り組みました」。愛好家としての使命感が原動力になった。

 旧車イベントに参加するたびに実感することもある。「1台1台にオーナーとの巡り合わせがあります。皆さん大切に大切に、壊れても直し続けていますよね。自分もそうしたいな、と」。旧車への愛にあふれている。

 大復活を遂げたジャガーの乗り心地にほれぼれ。「よく“猫足”と言われますが、本当にスムーズに乗れます。全長4.7メートルの2人乗りでロングノーズですが、運転してみると、長さをあまり感じさせません。12気筒エンジンで5.3リットルなのですが、まあ燃費は悪いかな(笑)」。英国名車の伝統のパフォーマンス性を、存分に満喫している。

 欧州車が集まるカーミーティングの会場。ニュージーランドから来たという男性が思わず、「ビューティフル」と感嘆の声を漏らした。海外ファンも一発で魅了された。

 ジャガー愛好家の仲間とツーリングなどを楽しんでいる。年齢と共に輝きを増すカーライフ。「私はもうリタイアしたので、このクルマたちと余生を過ごすといった感じです。週末しかいじらないですが、大人の充実時間というのかな。心が豊かになりますね。このジャガーはずっと大事にしていきたいと思っています」と実感を込めた。

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