性加害の被害者だった31歳女優が初監督映画で“告発”「次の被害者を出したくなかった」

映画界の性加害ニュースが世間を騒がせている。そんな中、公開されたのが、『ブルーイマジン』(3月16日公開、松林麗監督)だ。自身も「被害者だった」と明かす女優の松林うらら(31)が、自身の体験、周囲の取材を基にしたフィクションで映画監督に初挑戦した。松林が本作への思い、映画界の性加害の実態を語る。

映画『ブルーイマジン』で監督に初挑戦した松林うらら【写真:ENCOUNT編集部】
映画『ブルーイマジン』で監督に初挑戦した松林うらら【写真:ENCOUNT編集部】

映画『ブルーイマジン』で監督務めた松林うららが明かす性加害の実態

 映画界の性加害ニュースが世間を騒がせている。そんな中、公開されたのが、『ブルーイマジン』(3月16日公開、松林麗監督)だ。自身も「被害者だった」と明かす女優の松林うらら(31)が、自身の体験、周囲の取材を基にしたフィクションで映画監督に初挑戦した。松林が本作への思い、映画界の性加害の実態を語る。(取材・文=平辻哲也)

 アカデミー賞での快挙の一方、国内では性加害疑惑渦中の映画監督の逮捕、別の映画でも、性加害への関与が伝えられた主演俳優の映画が上映中止になるなど残念な話題もある。公開直前のタイミングに、松林監督も「こんなことが重なるなんて」と少々戸惑い気味だ。

「個々について、実名を挙げてお話するつもりはないのですが、世間での関心が高まり、立証が難しい性加害が犯罪と認識されたのは、とても大きいことだと思います。ただ、まだ表には名前の出ていない有名な方もいます。そういう方はいつ自分の名前が出るかと、ビクビクしているんじゃないでしょうか。明るみになるべきことは、まだあると思っています」

『ブルーイマジン』は、性暴力やDV、ハラスメント被害者のトラウマに寄り添い、救済するためのシェアハウス「ブルーイマジン」を舞台に、心に深い傷を負った女性たちの信念と連帯と葛藤のドラマを描く青春群像劇。『樹海村』の山口まゆ(23)を始め、川床明日香(21)、北村優衣(24)、新谷ゆづみ(20)ら若手が出演。日本・フィリピン・シンガポールの合作で、ロッテルダム国際映画祭などにも招待された。

 映画プロデューサーのハーベイ・ワインスタインによる性的暴行を告発した2人の女性記者による回顧録を基に映画化した『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』(22年)では実名が出てくるが、本作は問題の監督の風貌を思わせる田川(品田誠)という架空の映画監督を登場させている。性加害の描写はないが、その手口は生々しい。

「『シー・セッド』でもそうでしたが、性加害のシーンは撮りませんでした。そういう場面は、それこそイマジン(想像)してほしいんです」

 松林は2017年、映画『飢えたライオン』では、SNSでのデマやいわれのない中傷に苦しむ主人公の女子高生役を好演し、注目。20年には女性の生きづらさをテーマにしたオムニバス映画『蒲田前奏曲』をプロデュースするなど女優、製作者として活躍してきた。

 映画では、数年前に映画監督の性被害に遭いながらも、家族にも言い出せなかった主人公・乃愛(山口)、救いを求めて、シェアハウスに駆け込む女優の卵・凛(新谷)、パパ活の相手からストーカー行為を受けるミュージシャンの卵・友梨奈(北村)ら、さまざまな被害者が登場する。

「脚本の後藤美波さんに私の体験を聞いてもらったり、いろんな人から聞いた話を混ぜ込んで登場人物、物語を作ってもらいました。役をエサに事務所に誘われたり、飲み会やワークショップの流れで被害に遭うというのはよく聞く話だったんです」

 映画の企画は、コロナ禍の緊急事態宣言下がきっかけ。大正時代の女性活動家、伊藤野枝の伝記に感銘したのを機に、現代の女性問題に着目した。

「『蒲田前奏曲』でも#MeToo問題をテーマに撮りましたが、まだ自分の中で腑に落ちない、昇華できなかったという思いがありました。私自身がこの憤りを超えていかないと生き延びられないし、今後、次の世代が被害に遭う可能性もあるという使命感もありました。葛藤もありましたが、周りには応援してくれる家族、友人がいて、絶対、やり遂げる、負けてはいけないと思っていました」

 本作では、映画界に留まらず、一般社会や男性への性加害にも言及している。

「組織に関わる以上、みなさん何かしらの上下関係は経験してきているとは思いますが、映画界が特殊なのは監督を崇めたり、気に入られないといけないという幻想、洗脳的な部分があった。本来は純粋に演技を学ぶ場であり、監督だけにキャスティング権はないはずなのに。男性本位の目線で創られた作品が目立つ中、その悪習が長年、受け継がれているようにも思えます。私自身、監督が異常に崇められているという雰囲気を味わってきました。もちろん真面目に真摯(しんし)に取り組んでいらっしゃる方もいますが……」

 自身が受けたという性被害については言葉を選びながら、こう語る。

「当時、私は被害だと思ってなかったんです。私は、役が欲しかったわけでもないし、自分の身に何が起こったんだろうという感覚だったんです。ただ、鈍い記憶として残っていて、誰にも言えなかった。記憶から消そうと思ったのですが、ほかの方の被害者がいて、その方が行動に移しているのを見ると、あれは性被害だったんだと思ったんです。気づいたのは、随分たってからでした」

傷は癒えたのか…「血がダラダラ流れているような感じではある」

 その傷は癒えたのか。

「今も、治りかけのかさぶたが閉じては剥がれて、血がダラダラ流れているような感じではあるんですけど、変身する勇気を持たないと、人は本当の傷つきから回復しないのだと思っています。今回、私はある意味で生き延びるために死ぬ気で映画を作りましたが、これだけでは社会は変わらない。辛いテーマではあるけれども、光を感じていただけるのであれば、作り手としてはすごくありがたいです」

 松林は映画好きの両親の下で育ち、小学校高学年からスタンリー・キューブリックやデヴィッド・リンチ作品に夢中に。中高大と女子校に進む中、高3の時にはワタナベエンターテイメントの養成学校、大学時代には映画学校「映画24区」に通いながら、映画製作に目覚めた。

「監督はすごくやりがいがあり、学びがあり、楽しかったのですが、今はそのエネルギーがあるかどうか。今回は、こういう重いテーマを選んだから、ラストは救いや希望のある、見やすい映画にしたいと思ったんですが、本当はぶっ飛んだ映画が好きなんです。エマ・ストーンが主演・プロデュースした『哀れなるものたち』のような女性から見た性の快楽も描いてみたいですし、SFも撮ってみたい」。昨今、女優のプロデューサー進出、女流監督も台頭が目覚ましい中、松林の今後にも注目だ。

□松林麗(まつばやし・うらら)1993年3月13日生まれ。東京都出身。長編映画『1+1=11』(2012年/矢崎仁司監督)で俳優デビューして以来、東京国際映画祭やロッテルダム国際映画祭など著名な映画祭に出品された『飢えたライオン』(17年/緒方貴臣監督)の主人公を務めるなど、数多くの作品でさまざまなキャラクターを演じている。20年には、映画界におけるセクシャルハラスメントに立ち向かう長編映画『蒲田前奏曲』を製作。同作品は大阪アジアン映画祭のクロージング作品に選ばれ、国際コンペティション部門の審査員も務めた。映画『愛のまなざしを』(21年/万田邦敏監督)にはアソシエイト・プロデューサー・出演として、映画『緑のざわめき』(2022年/夏都愛未監督)にはコプロデューサー・出演として参加。

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