東大在学中に抜てき 経済キャスターや社外取締役、経営者の肩書きまで…瀧口友里奈の素顔

東京大在学中からキャスター事務所に所属し、その後経済キャスター、ビジネス・学術イベントの司会として活躍。「情報の力で社会のイノベーション(革新)を加速すること」をテーマに自ら起業し、経営者としても才覚を発揮する女性がいる。瀧口友里奈氏だ。現在、東大大学院でさらなる学びを深め、銀行とIT企業の社外取締役も務めている。輝かしい経歴を歩んできたが、「私自身は完璧な人間じゃないです」と謙遜。そんな才色兼備の36歳の“生きる道”と、目指す理想像とは。

マルチタスクぶりを発揮している瀧口友里奈氏【写真:荒川祐史】
マルチタスクぶりを発揮している瀧口友里奈氏【写真:荒川祐史】

ビジネス・学術イベントの司会として活躍 銀行とIT企業の社外取締役もこなしている

 東京大在学中からキャスター事務所に所属し、その後経済キャスター、ビジネス・学術イベントの司会として活躍。「情報の力で社会のイノベーション(革新)を加速すること」をテーマに自ら起業し、経営者としても才覚を発揮する女性がいる。瀧口友里奈氏だ。現在、東大大学院でさらなる学びを深め、銀行とIT企業の社外取締役も務めている。輝かしい経歴を歩んできたが、「私自身は完璧な人間じゃないです」と謙遜。そんな才色兼備の36歳の“生きる道”と、目指す理想像とは。(取材・文=吉原知也)

 肩書きだけで、書き切れないほどある。経済キャスター、東大工学部アドバイザリーボード、社外取締役は2社……。プロデューサーとしての側面も。自身が企画プロデュースした東大教授たちによるYouTubeのトークセッションを取りまとめた『東大教授が語り合う10の未来予測』(大和書房刊)の編著者としても才能を示した。

 小学2年から4年まで、父親の転勤の関係で米国で過ごした。日本に帰国後、その後の人生に深く関わる経験をする。英語がしゃべれることが、学校で「ちょっと変わっている」という受け取られ方をされてしまい、もやもやする思いを抱えることに。「洋楽の好きなクラスの友達と仲良くなったり楽しい小学校時代を過ごせましたが、どうも全体からすると『あの子は変わっている』という見られ方をされていたように思います」。

 そんなときに元気をもらったのが、彗星のごとく現れ、昨年12月にデビュー25周年を迎えた宇多田ヒカルだ。

「今は複数のカルチャーを持って育つことは変わったことではないという認識が以前よりも広まってきましたが、当時の世間の雰囲気は少し違いました。一方で、宇多田さんは英語が堪能で、読書家であり教養も深くて、自然体です。『私もありのままでいいんだよね』と思えるようになったんです。今度の全国ツアーもチケットを申し込みました」。憧れの存在を語る際に、文字通りに目を輝かせた。

 東大を意識したのは、高校1年ぐらいのとき。「通っていた塾の同級生たちが東大を受ける人が多かったので、『塾の人たちも行くし、面白そうだな』という感覚でした」。小中高と女子校の一貫校。「もっといろんな人に会いたいな、いろんなことを知ってみたいな。そんな好奇心をずっと持っていたんです。『東大だったら、全国からユニークな人が集まっているんじゃないか。きっと面白いはず』。これが志望動機でしょうか」。

 実際に入学すると、読みはバッチリ当たった。東大時代に、学生演劇の英語劇の制作にのめり込んだ。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の演出に挑戦し、『オセロー』では自らも舞台にも立った。みんなで何かを作り上げていくのは楽しい――。そして、「何かを作っていろんな方に届けるのは、一番はテレビだなと当時思ったんです」。クリエーティブ志向ゆえに、自然とテレビ業界に目を向けるようになった。芸能事務所からの声かけもあって、20歳の頃からテレビのクイズ番組などに出演するようになった。

 司会業では聡明な語り口調と的確さが評価され、人気者に。経営者たちから「難しいことをだいたい司会してる人」と称されるようにもなった。

 2022年に、「情報を通して社会のイノベーションを加速する」をテーマに、自らの企業を設立。東大の教授陣が出演し、知の世界を掘り下げる内容の東大公式YouTubeチャンネル番組の企画・制作・司会などを手がけている。さらに、企業のイノベーションに関連する発信やイベントの制作プロデュースやMCも受け持っており、活躍の場を広げている。

 それに加えて、社外取締役の業務に、週3回の経済キャスターとしての番組の仕事もある。大学院での研究もあって、多忙な日々。仕事の準備や勉強、読書に明け暮れているが、「夜、ソファで寝落ちしてしまうことが多いんです(笑)」というのが玉に瑕だ。

 マルチタスクぶりから、どうしてそんなに器用なのかと聞くと、「私は器用じゃないと思います」ときっぱり。「むしろ、器用、不器用は関係ないのかなと思っています。それぞれみんな得手、不得手がありますよね。得意なところを伸ばして発揮していければ、個人の仕事もチームの作業もうまくいくと思っています。それに、完璧を求めると息苦しく、減点法になってしまいます。できないことより、『いいところ』をフィーチャーしていきたいですよね」。ポジティブで、自分を好きになれる人生観を教えてくれた。

「世間のバイアスを崩していくには、情報の力が一番有効だと思っています」

 芸能活動では、今振り返ると、自らの信念につながる出来事があった。

「ある番組のオーディションを受けた際、『難しい内容を、面白く分かりやすく伝えられるキャスターになりたいです』という自分の目標を話したら、審査担当の方から『君みたいな小娘がそれをやるの?』という趣旨のことを言われたことがありました。若い女性だということはバカじゃないといけない、といった捉え方をされているのかなと思いました。そういった風潮はつらく感じました」。

 日本社会にはびこっているバイアス(偏見)や同調圧力。どうにか1つ1つなくしていくことはできないのか。その強い思いが、瀧口氏の原動力にもなっている。

「世間のバイアスを崩していくには、情報の力が一番有効だと思っています。情報と言っても、一番はやっぱり人なんです。『こういうすてきな人、面白い人がこんなふうに言っている。その考えはいいな』といったように、人物の魅力を通して情報が伝わると、受け手の考え方が変わっていくものだと考えています。私は一気にセンセーショナルに何かをやるタイプじゃないです。あらぬ摩擦を作る必要もないと思っています。ナイーブなところの1個1個を、少しずつ解きほぐしていきたいです。私ができることとして、魅力ある研究者や経営者の人物ストーリーを含めた情報発信に取り組んでいます。たとえば『せっかくこんなに面白いテクノロジーがあるのだから社会にプラスに役立てたいよね』。こういったメッセージを通して、いい方向に社会を変えていければ。そう思っています」と熱く語る。

 亡き祖母の言葉も大事にしている。祖父母の家に遊びに行ったときの会話だ。「もうそれが最後になるとは想像していませんでしたが、祖母が私の手を握って、『私の時代は外に出ることができなかったけど、ゆりちゃんは今素晴らしい時代にいるんだから頑張ってね』。そう言われました。その言葉は祖母が亡くなってからも自分の中で反芻(はんすう)してきた言葉で、今の私は祖母の世代からのバトンを預かっているんだなと気付かされました。祖母はたぶん私に、『世の中を変えるんだよ。それができる時代に生まれたんだから、あなたはきっとやれるよね』というメッセージをくれたのだと思います。私自身、しっかり自分の仕事に取り組んでいきたいです」。その目には涙が光っていた。

□瀧口友里奈(たきぐち・ゆりな) 1987年8月1日、神奈川県生まれ。東大文学部行動文化学科卒。セントフォース所属の経済キャスターとして活躍し、SBI新生銀行などの社外取締役に就くほか、自ら立ち上げた株式会社グローブエイトの代表を務めている。東大公共政策大学院在学中。TOEICのスコアは955点。

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