“七色のジャイアントスイング”使いこなすパワー、アイドル志望だった渡辺未詩が解放された筋肉コンプレックス

2018年1月4日、東京女子プロレスの後楽園ホール大会でプロレスラーとしてデビューした渡辺未詩。デビュー6年にして、ついに山下実優の持つ東京女子の最高峰であるプリンセス・オブ・プリンセス王座(以降、プリプリ王座)に挑む。しかも両国国技館という大舞台だ。実は渡辺のデビューの日は、山下がプリプリ王座の二度目の戴冠を果たした日という因縁もある。これまでのシングル戦績は1勝2敗と分が悪いが、渡辺が新時代の扉をこじ開けることはできるのか……。

東京女子プロレスの頂点に王手をかけた渡辺未詩【写真:橋場了吾】
東京女子プロレスの頂点に王手をかけた渡辺未詩【写真:橋場了吾】

3月31日に山下実優のプリプリ王座へ挑戦

 2018年1月4日、東京女子プロレスの後楽園ホール大会でプロレスラーとしてデビューした渡辺未詩。デビュー6年にして、ついに山下実優の持つ東京女子の最高峰であるプリンセス・オブ・プリンセス王座(以降、プリプリ王座)に挑む。しかも両国国技館という大舞台だ。実は渡辺のデビューの日は、山下がプリプリ王座の二度目の戴冠を果たした日という因縁もある。これまでのシングル戦績は1勝2敗と分が悪いが、渡辺が新時代の扉をこじ開けることはできるのか……。(取材・文=橋場了吾)

 2018年6月、渡辺は当時もプリプリ王者に君臨していた山下実優とシングルで対戦。デビュー半年の渡辺は完敗を喫する。しかし、ここから筋肉に対するコンプレックスから解放されていく。

「やっぱりすぐ筋肉をつけるという決断はなかなかできなかったんですが、自分にはパワーがあるのかもしれないっていう少しずつ気づき始めました。本当はしっかり筋トレした方がいいんじゃないかっていう風に思えるようになったんです。実はプロレスの練習を始めたときから、私だけほかのメンバーより重いセッティングにされていたような気もしないでもないんですが(笑)、プロレスラーとしてもっと輝くためには筋肉をつけたらいいと。そこからですね、とにかく人よりも倍練習するようになりました。あとは、デビューから丸1年たって初めての単独ライブをすることになったのですが、その際に私に与えられたミッションが肉体改造で。それが発表されたときはわずかに残っていた乙女心で泣いてしまったんですが(笑)、気が付けば1か月毎日ジムに行っていました」

 筋トレでプロレスラーとしての自信も身につけた渡辺は、ジャイアントスイングというパワー自慢が使う技を自分のモノにした。しかも今では「七色のジャイアントスイング」といえるほどバリエーションが増えている。

「最初は普通のジャイアントスイングですね。そしてバリエーションが増えたのは、ここ2年くらいでしょうか。初めてのジャイアントスイングは、初めてシングルのトーナメント(2019年5月の東京プリンセスカップ)に出たときです。気合が入っていたので、ジャイアントスイングも(フィニッシャーの)ティアドロップも初めて出しました」

 その後、渡辺はそのパワーでベアハッグの状態からぐるぐる回転しそのままジャイアントスイングにつなぐ「開花式」を開発。そして「ポップアップ式」「リバース」「フロントネックロック式」「ドラゴンスリーパー式」「ダブル」など、さまざまなバリエーションを生み出すことになる。

「(開花式は)思いつきで出しちゃった感じでしたね。プロレスを全然知らなかったこともあり、『ジャイアントスイングは仰向けで寝ている相手にする技』という固定観念がなかったからこそ、思いついたのかなと思います。両足首さえ持てれば回せるという認識なので(笑)」

「渡辺未詩=ジャイアントスイング」というイメージがついたときに、一時期封印していたことがあった。

「ちょうど1年前、(武藤敬司引退試合で)東京ドームでジャイアントスイングをしたときにすごい歓声をいただいて……でも『ジャイアントスイングの子』という一発屋にはなりたくないという思いがあったんです。ジャイアントスイングをやり続けるのは、自分に対しての甘えのように感じて、それに甘えるだけのプロレスラーにはなりたくないっていう気持ちが強くなりました。もっと違うこともできる渡辺未詩を見てほしいしっていう気持ちと、自分への確かめの期間でしたね。ジャイアントスイングがなくても、ちゃんとしたプロレスラーになる、そういう不安を取り除く時間でした」

 その封印期間に重なるようにして使いだしたのが、すさまじいスピードで低く相手を投げ切るスイープパワースラムだった。

「私のモットーとしてはどんな技でも、形はきれいで美しくというのが一番で。私が一番きれいだなと思うパワースラムがあの形だったんです。この技はもっともっと極めたいですね」

ビッグマッチでも「アイドルの自分」も忘れない【写真:東京女子プロレス提供】
ビッグマッチでも「アイドルの自分」も忘れない【写真:東京女子プロレス提供】

タイトルマッチが控えていても、歌もプロレスも両方やってこその私

 3月31日。渡辺は両国国技館で開催される『GRAND PRINCESS ’24』で、3度目のプリプリ王座の防衛ロードを歩んでいる山下に挑戦する。

「プリプリは(東京女子の)みんなが目指すべき場所だと思います。その中で山下さんは絶対的に強いエースなので、このタイミングで挑戦できることは重みのあることだと感じています。でも、その重みをプレッシャーには感じないで臨みたいですね。プロレスラーの山下さんは、簡単にいえば『怖い』存在なんです。山下さんの強みといえば蹴りだと思いますが、それ以外も全部強いのが山下さん。ほかの技も強いし、心も目力も強い。その人に勝つというイメージをしていかないといけないなと思います」

 同大会では渡辺と同世代の荒井優希がインターナショナル・プリンセス王座の防衛戦を行い、鈴芽&遠藤有栖の「でいじーもんきー」がプリンセスタッグ王座初戴冠を目指す。渡辺も含め、タイトルマッチ3試合の勝敗は今後の東京女子の流れに大きな影響を与えるだろう。「世代交代」と呼ぶファンも少なくない。

「東京女子には10年の歴史があって、いわゆる世代と呼ばれるものがあるとは思いますが、世代交代っていうものを大々的にはしたくないという気持ちはあります。私たちが全員勝ったとしても、その瞬間が一瞬来るだけというか。世代交代とかじゃなくて、世代関係なくずっと競い合って高めていくものだから、そういう当たり前のように世代交代って考え方をしたがる人たちに私たちの戦いを見せたいです」

 東京女子プロレス恒例といえば、試合前の歌のコーナー。このコーナーを任されているのが、渡辺を含むアップアップガールズ(プロレス)のメンバーたちだ。

「(歌のコーナーがないと)私は私ではないと思っているので、やっぱり歌もプロレスもどっちもやってこそ、私なのかなと思います。最初に会場を盛り上げて、みんなが応援してくれているっていうのを確認してタイトルマッチを迎えるという。緊張はしますが、6年間やってきたことですし、歌でお客さんを盛り上げて試合に臨みたいですね」

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