日テレ『セクシー田中さん』問題、調査チームの“ヤメ検不在”を専門家が疑問視「原因から探るべき」

日本テレビが26日、昨年10月期放送の連続ドラマ『セクシー田中さん』原作者・芦原妃名子さんの急死を受けて同局が設置した「社内特別調査チーム」の詳細を発表した。。調査チームには、外部有識者として早稲田裕美子弁護士、國松崇弁護士を招へいし、社内メンバーとして同社の取締役執行役員と顧問弁護士が名を連ねている。だが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこのチーム編成に疑問を呈した。

西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】
西脇亨輔弁護士【写真:本人提供】

外部有識者に2人の弁護士も…専門は「ビジネス分野」

 日本テレビが26日、昨年10月期放送の連続ドラマ『セクシー田中さん』原作者・芦原妃名子さんの急死を受けて同局が設置した「社内特別調査チーム」の詳細を発表した。。調査チームには、外部有識者として早稲田裕美子弁護士、國松崇弁護士を招へいし、社内メンバーとして同社の取締役執行役員と顧問弁護士が名を連ねている。だが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこのチーム編成に疑問を呈した。

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 私はこのメンバーを見て、あることに気付いた。

「『ヤメ検』がいない」

 検察官を務めた後、弁護士に転じた法律家を俗にヤメ検と呼ぶ。以前から刑事弁護や危機管理の場などで活躍していたヤメ検の弁護士だが、最近、その姿をニュースで見る機会が増えてきた。それは第三者委員会をはじめとする不祥事調査の際に「捜査のプロ」である検察官出身弁護士が多く指名されるからだ。

 旧ジャニーズ事務所の性加害問題についての「外部専門家よる再発防止特別チーム」の座長だった林眞琴弁護士、2019年に設置された関西電力の金品受領問題についての第三者委員会委員長を務めた但木敬一弁護士は、いずれも元検事総長だ。大きな問題に適切に対応するには、土台となる正確な事実関係を調査・確認することが不可欠だ。そして、そうした調査には、事件捜査の豊富な経験を持つ検察官出身者が適していることが多い。

 しかし、日本テレビが発表した「社内特別調査チーム」のメンバーには、「ヤメ検」が1人もいなかった。そして、社内メンバーが加わっているため、会社から独立した第三者委員会でもない。

 今回、外部有識者として選ばれた2人の弁護士は素晴らしい経歴の持ち主ではある。早稲田裕美子弁護士は文化庁の著作権審議会専門委員を務めたこともあり、知的財産分野では有名だ。國松崇弁護士はTBSで社内弁護士を勤めたことがあり、『半沢直樹』『99.9-刑事専門弁護士-』など多くのドラマで法律監修を担当してきた。私もテレビ朝日法務部時代にお会いしたことがあるが、國松弁護士には「聡明」という言葉がぴったりだった。

 だが、おふたりとも専門はエンターテインメント契約を巡る「ビジネス分野」だ。事実関係の調査後に契約体制などについて「評価」するには適しているが、芦原さんの急死の前に原作者、脚本家、プロデューサーの間で一体何があったのかを探る泥臭い「事実調査」のための人選と言えるのだろうか。

 また、調査チームの調査は今月23日に始まったばかりのはずなのに、日本テレビの社長会見では、今後、あらためてヒアリングはするものの、事実関係は既に「社内はひと通り確認し、まとまっている」とされ、原作者、脚本家の「ワークフロー」(業務活動のパターン)などを検証する方針が示されたと報じられている。

 しかし、今回の問題は複雑だ。その事実確認にこそ社外メンバーも含めた調査チームが予断なくゼロから取り組み、力を注ぐべきなのではないか。

 もちろん、「ワークフロー」を明らかにすることは、今後の業務改善のためには必要だろう。だが、今はまだ、今後の改善策という「未来」を考える段階ではない。その前に「過去」を総括し、芦原さんの急死をもたらした直接の原因を突き止めることから始めなくては、今後の策は打ち出せないはずだ。「過去」を見つめ直さずして、「未来」は語れない。

 芦原さんの悲劇の原因を探るために解明すべき点は2つだ。

(1)脚本家・相沢友子氏が芦原さん死去後に出した「芦原先生がブログに書かれていた経緯は、私にとっては初めて聞くことばかり」というコメントは、一体何を意味するのか。最終回の脚本は原作者が書く可能性があるという事実は、プロデューサーから脚本家などに伝えられていなかったのか。

(2)ドラマ放送終了後に脚本家と原作者が論争となった際、SNS上では一体何が起きていて、日本テレビはなぜそれを放置したのか。

 こうした問題を前にしながら、事件の真相を暴いてきた経験を持つ「ヤメ検」ではなく知的財産ビジネスの専門家を招くという人選や、「ワークフロー」の検証などを行うという会見内容は、今回の調査が当たり障りのない「未来志向の改善策探し」に終始する危険を感じさせる。芦原さんの死の前に一体何があったのかという真実の解明に、日本テレビはどこまで真剣に取り組むのか。

 真の再発防止策は、全ての真実を明らかにして初めて生まれるはず。私は、調査チームが芦原さんの胸中に少しでも寄り添うことを切に祈っている。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうま』『ワイドスクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。弁護士登録をし、社内問題解決などを担当。社外の刑事事件も担当し、詐欺罪、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反の事件で弁護した被告を無罪に導いている。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。

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