性感染症は「偏見がまだまだ根深い」 梅毒急増の背景を専門家が指摘「大きな課題」

全国で急増している性感染症「梅毒」について、“聞きたいけど聞けない悩み”や疑問に答えるためのトークセッションが25日、都内で行われた。感染症の専門家で愛知医科大大学院医学研究科臨床感染症学の三鴨廣繁教授と、性教育YouTuberのシオリーヌが登壇。厄介な梅毒の実態、感染予防やパートナーとのコミュニケーションのあり方について語り合った。

梅毒の啓発イベントに出席した三鴨廣繁教授(左)と性教育YouTuberのシオリーヌ【写真:ENCOUNT編集部】
梅毒の啓発イベントに出席した三鴨廣繁教授(左)と性教育YouTuberのシオリーヌ【写真:ENCOUNT編集部】

治療せずに放置すると「全身に深刻な影響」 免疫付きにくく何度でも感染

 全国で急増している性感染症「梅毒」について、“聞きたいけど聞けない悩み”や疑問に答えるためのトークセッションが25日、都内で行われた。感染症の専門家で愛知医科大大学院医学研究科臨床感染症学の三鴨廣繁教授と、性教育YouTuberのシオリーヌが登壇。厄介な梅毒の実態、感染予防やパートナーとのコミュニケーションのあり方について語り合った。

 厚生労働省の資料やトークセッションの報告などによると、梅毒は全国で急増。2013年から23年までの10年間で、梅毒報告数は男性が10倍、女性は23倍を記録している。特に、20代の女性や20代~50代の男性で感染者数の増加が目立っている。

 赤い発疹などが特徴的だが、無症状であったり、症状が出てもすぐ消えたりするケースもあるため、知らないうちに感染を広げる可能性がある。三鴨教授は「こんなに増えました。誰でも感染する可能性がある。身近な病気になったと言えます」と指摘したうえで、「梅毒は偽装の達人です。こそっと人にうつしていきます」と表現した。発疹の症状が消えても感染力は残り、免疫が付きにくいため何度でも感染。ワクチンはないという。

 検査や治療が遅れたり、治療せずに放置したりすると、「全身に深刻な影響」が出てしまう。脳や心臓に影響が生じることがある。梅毒の進行によって失明したり、認知症のような症状が出ることもあるという。また、パートナーだけでなく、お腹の赤ちゃんが感染する場合もあり、赤ちゃんの先天異常や死産などにつながる危険性もあるとのことだ。

 三鴨教授は「梅毒が進行すると神経系や大動脈に影響が出てきます。妊婦さんが感染してしまうと、梅毒が胎盤を介して赤ちゃんに悪さをします。それに、妊娠後期になって、初期は大丈夫だったのに感染が判明するケースがなきにしもありません。妊婦健診について少なくとも初期と後期に取り入れてほしいと国に申し上げております。やっぱり梅毒は怖いです。ただ、早期に発見・治療ができると、そこまで重症・重篤になる病態ではないです」と強調した。

 治療方法はペニシリン系などの抗菌薬で飲み薬と注射の2種類。三鴨教授は「薬局で市販されている薬で梅毒に効くものはございません」と付言した。また、予防のためにコンドームを使用することが紹介された。

 梅毒など性感染症については、友人やパートナーなど身近な人とはなかなか話題にしにくく、1人で悩む人も多いと考えられている。そこで、啓発のため今回の啓発イベントを開くことになった。

 シオリーヌは「今の若い年代の方々にとっては、マッチングアプリが身近な人との出会い方になっていると思います。相手が検査を受けているのかどうか背景を十分に知らないままに関係性を持つ可能性もあり、そういった影響もあって、感染者が増える状況につながっている可能性もあるのかな、と感じています」と実感について述べた。

 さらに、社会の価値観の課題について言及。「性感染症については、社会の偏見がまだまだ根深いと思います。感染した人は『特別遊んでいる』『浮気をしている』『風俗に行っていたということだ』と言われてしまいます。こうした誤解・偏見があるからこそ、なかなか自分ごとに思えないのではないでしょうか。自分が感染したときに、恥ずかしい、後ろめたいという気持ちにならされてしまう現状があります。自分ごととして捉えにくいのが大きな課題に思えます。一度でも性行為、性的接触をした人は誰でもなり得るんだよ、ということを繰り返し伝えていきたいです。それに、かかったからと言って、その人の尊厳が失われたり、その人の価値が下がることはけっしてないです」と話した。

 パートナーと一緒に検査や治療に行く重要性も取り上げられた。YouTubeを通して性感染症検査を取材した経験のあるシオリーヌは「抵抗感と言いますか、パートナーに打ち明けるのにすごく勇気が要る現状があると思います。性感染症の検査を受けることは前向きなことだと思います。自分の体のことですし、自分の体から大事なパートナーに感染させないようにする意識の表れ、お互いの健康をきちんと考えていく行動でもあります。愛情表現の1つとして、『あなたのことを大事だと思っているし、あなたとの関係性を前向きに思っているから、検査を受けようよ』というようなアクションを起こせるんじゃないかなと思っています」と、検査の大切さを訴えた。

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