【映画とプロレス #20】アリと猪木の物語~映画「第十七捕虜収容所」に隠された新間寿のひらめき

前週の「映画とプロレス」で紹介したモハメド・アリ主演「アリ/ザ・グレーテスト」(1977年)。この中で使用されるアリ・ボンバイエのメロディーが“過激な仕掛け人”新間寿の閃きによってアントニオ猪木バージョンに変換された。以来、「炎のファイター INOKI BOM―BA―YE」はマット界をも超える最も有名な入場テーマ曲となるのだが、新間はアリ映画を観る前から猪木にもなにか音楽をつけたいと考えていた。先に全日本プロレスがミル・マスカラスの「スカイ・ハイ」で大ヒットを飛ばしており、このような演出が新日本プロレスにも必要と感じていたからだ。

映画「第十七捕虜収容所」ポスター
映画「第十七捕虜収容所」ポスター

A猪木のテーマ曲候補だった映画「第十七捕虜収容所」の行進曲

 前週の「映画とプロレス」で紹介したモハメド・アリ主演「アリ/ザ・グレーテスト」(1977年)。この中で使用されるアリ・ボンバイエのメロディーが“過激な仕掛け人”新間寿のひらめきによってアントニオ猪木バージョンに変換された。以来、「炎のファイター INOKI BOM―BA―YE」はマット界をも超える最も有名な入場テーマ曲となるのだが、新間はアリ映画を観る前から猪木にもなにか音楽をつけたいと考えていた。先に全日本プロレスがミル・マスカラスの「スカイ・ハイ」で大ヒットを飛ばしており、このような演出が新日本プロレスにも必要と感じていたからだ。

「マスカラスがやるまで、まだウチ(新日本)はそういうのを本格的にはやってなかったんじゃないかな。マスカラスの上をいくような曲が猪木さんにもほしかった。そこで巡り会ったのが『アリ/ザ・グレーテスト』だったんだけれども、その頃、候補だなと思った曲もあったんだ。それも映画の音楽。『第十七捕虜収容所』ってあるでしょ。あの映画で流れるやつはどうかと、アタマに浮かべたことがあるんだよ」(新間)

「第十七捕虜収容所」(53年)とは、名匠ビリー・ワイルダー監督による第二次世界大戦下のドイツ、捕虜収容所を舞台にした脱獄サスペンスドラマ。主演のウィリアム・ホールデンにアカデミー主演男優賞がもたらされたことでも映画史に残っている。ここで使用される行進曲「ジョニーが凱旋するとき」(原題「WHEN JOHNNY COMES MARCHING HOME」)はアメリカの南北戦争時代に誕生。さまざまな映画で使用されているのだが、本作ではテーマ曲として何度か流れるため最も印象に残ると言っていい。「ジョニーが行進しながら(戦場から)帰還する。フラー!フラー! 心からの歓迎で迎えよう」。曲はこのような歌詞でスタートする。新間はジョニーを猪木に置き換えたらどうかと考えたのではないか。「フラー(hurrah)!」とは日本語の「万歳」にあたる言葉だ。“キンシャサの奇跡”で発生した「アリ・ボンバイエ(アリ、やっちまえ)」のかけ声がなければ、「INOKI BOM―BA―YE」は「INOKI HURRAH」になっていたかもしれないのだ。

「アーリ、ボンバイエ!アーリ、ボンバイエ!と何度も何度も繰り返すところがよかったんだよね。とにかく(キャッチーで)印象に残る。自分が育った仏教ではお経にもリズムがあるけれども、そういったイメージで脳に残るような音楽がないかと考えていたんだ。そこにハマったのがアリ・ボンバイエ。あれを猪木さんが使うようになってから、坂口(征二)さん、藤波辰巳(現・辰爾)、長州力ら次々と曲ができていった。猪木さんの影響力はここにもあったということですよ。それに、新間寿の曲まであったっていうじゃない。笑っちゃうよ、どんな曲作ったのか? 聞いたことないけど、なんなら三国志かなにかを朗読してもよかったのかな(笑)」(新間)

 実際、新間にもテーマ曲がある。83年8月にリリースされたLPレコード「新日本プロレス スーパーファイターズのテーマⅢ」に収録されている「CASH ON DELIVERY(新間寿本部長のテーマ)」。直訳すれば、代金引換払い、着払いの意味となる!?

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