“北斗ロス”救った傾奇者 原哲夫氏を導いた「かぶく」の観念…『花の慶次』誕生秘話

1990年から93年にかけて『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された漫画『花の慶次~雲のかなたに~』(原作:隆慶一郎、作画:原哲夫)は、主人公・前田慶次が戦国時代末期を舞台に活躍する姿を描いた物語。作画担当の原氏は、花の慶次公式サイトの「慶次を語る」ページにて、漫画『花の慶次~雲のかなたに~』の誕生秘話を語っている。

“北斗ロス”救った『花の慶次~雲のかなたに~』【写真:写真AC】
“北斗ロス”救った『花の慶次~雲のかなたに~』【写真:写真AC】

世紀末救世主伝説ロスを救った傾奇者

 1990年から93年にかけて『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載された漫画『花の慶次~雲のかなたに~』(原作:隆慶一郎、作画:原哲夫)は、主人公・前田慶次が戦国時代末期を舞台に活躍する姿を描いた物語。作画担当の原氏は、花の慶次公式サイトの「慶次を語る」ページにて、漫画『花の慶次~雲のかなたに~』の誕生秘話を語っている。

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 原氏は『北斗の拳』の連載終了後、次に描くべき作品に思い悩み、落ち込んでいた。そんな時、本作の原作となる隆氏が執筆した歴史小説『一夢庵風流記』に出会い「かぶく」という観念を学んだ。この本に出会っていなければ、今の漫画家としての自分はいないとまで語る原氏が描き上げた本作の魅力とはどのようなものなのか。

 原氏は「かぶく」という観念を「命がけで遊び、富や権力に流されず自分の信念を立て通す姿」と表現している。慶次は、まさにこの信念を体現したような武将だ。彼がどれほどの「かぶく」人間だったのかは、コミックス5巻の豊臣秀吉とのエピソードによく現れている。

 ある日、秀吉に呼び出されて謁見の間に現れた慶次は、なぜか髷(まげ)を横に結い上げ、髑髏(どくろ)の紋所に虎皮の裃姿をしていた。その姿は、天下人に謁見するための正装からはあまりにもかけ離れた姿だ。

 秀吉を前に平伏した慶次だったが、頭を下げようとしない。周囲に強いられ頭を下げるが、横に結い上げた髷を正面に向けるために顔は横に向ける形になっていた。

 この振る舞いは、秀吉を殺す決意を胸に秘めた慶次の、秀吉に屈さない意思の証明である。権力者の前で、こんなにも自由に振る舞う慶次に対してSNSでは「自由でありながら通す意地の固さなど慶次は男の憧れの体現者だ」「慶次が体現した『かぶく』に強烈に憧れた」との声が上がり、憧れの感情を抱く人の多さが伺える。

 また、慶次たち戦国武将の生きざまは「義」が重んじられていたと原氏は語る。義を重んじる男たちの友情や生きざまは、作中でも印象に残るセリフとともに描かれている。

 例えば、コミックス1巻にて前田利家が秀吉から拝領した「織田信長の甲冑」を家臣の村井若水が壊してしまった際、利家に切腹を命じられた若水に対して慶次が名セリフを口にしている。「戦場で傷だらけになったきたねえツラだ」「だがそれがいい」「その傷がいい! これこそ生涯をかけ殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!!」と彼の傷だらけの体を評し、周囲の感動を呼んだ。

 甲冑を壊したくらいで、命がけで主君を守る家臣の方を切腹させるとは間違っていると諭す慶次に、武士としてのかっこよさを感じるだろう。

 今回は「自分の信念を立て通す姿」と「義」の2つの視点から『花の慶次~雲のかなたに~』の魅力を振り返った。いずれも今の時代に体現するのは難しくなっているものではないだろうか。こんな時代だからこそ、本作品を読んで慶次の生き方に触れて欲しい。

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